第20話
二人の女性はあの男を眷顧してきたが、この先も続けていくか疑問に思い始めていた。腰を据えた老婆は腿に手を乗せて熟慮する。横では、壁を背後に上半身を屈め、ころんからんとろりんと若い女性が熟思する。 声喩
簡素な窓の柵に腕を持たせて、若い妻は軒昂した心神を冷ませている。あろりぱらりの贅言にざわめき、窓下の世間に気持を落ち着ける。 声喩
がっどかごりんの堅靭な尻を向けてペンキ屋の女は横たわり、その豪儀な部位に惹かれて男らは集まり空想を廻らすも、百度の強姦をものともせずに叩き伏せるから物凄い。 声喩
お譲ちゃんはカーテンを避けて覗き込む。昔日はそう懸絶するわけではなく、色に溢れる花柄の敷布に必ず手繰り寄せられる。片寄せられたカーテンが絞られるように、お譲ちゃんをきつく締め付けることはないだろうか。 設疑法
黒いタンクトップの女は顔を背ける。あまりの険相を証券マンに見せて、反動となる険相に喪心したくないのだが、それは健気な心遣いではないだろうか。 設疑法
婦人はソファにもたれて頬杖をつき、快い心境を気色に表す。検束されることで嬋娟に煌く自分の姿を描き出している。はたして自信過剰といえるだろうか。 設疑法
この髭の親爺は厳存している、だから放胆に笑う、すると周り者は畏怖する。なぜなら柔な心性の者しかいないから。よって誰も近寄らない。 接続語多用法
小さなニット帽を被った子供は、十年後に健啖と呼ばれる。たしかに近所の悪がきに煽られた、しかしそれだけが事由ではない、なぜに胃袋が大きかった、それに母親の料理は上手だった、さらに父親は金持ちだった。きわめつけは遺伝子がそうさせた。 接続語多用法
彼女の言葉を言質にしても、たしかに何もならないと宿の主人は知っていたので、おそらく商人同士の戦いの戦端となるだろう、だから彼女は関わらせたくない、それは愛玩の気持にも近いが、やはり純粋なる人情によるものだろう。 接続語多用法
この町に喧伝される花屋の素行を信じない彼だが、自らも操行を崩して同格の男に身をやつすのだから、心に何かしらのものを抱き情念に指嗾されているのだろう。喜んで扇動されて女性と通じる彼は、壮健な体を失い、鏡の前で嬉しそうに痩身を撫でる。あばら骨の浮き出る分だけ彼女に近づき、全幅の愛情を注ぐ所以を信じて死に身になって淫蕩にふけった。葉を広げたレタスの如く萎びていくのだ。 漸層法
二人はイーゼルを見つめて慳貪を信条に生活した若い頃を思い出し、友人にどれほど慳貪な仕打ちをしていたか反省する。金の話を持ち出せば引っ叩き、献金を求めれば杖を打ち下ろし、お布施の話をされれば泥を投げつけた。それもすべては子供の為であり、極端な愛情の表れだ。顫動する肩を抑えて、金を惜しみに惜しんだのだ。 漸層法
真っ裸の黒人は脚を開いて椅子に座り、周囲を権柄ずくに見下ろす。生まれが良く、頭を下げる周囲に慣れて育ち、平伏す者こそ人間だと思い込んでいた。それは性器に表われており、海鼠の大きさがあるが、すべて皮を被っている。剥ける時の痛みは甚だしいが、いつか剥かなければならない。 漸層法
黒いシルエットの女は踝までかかる釣鐘のスカートを穿き、背を丸め、腰に両手を当てて果物屋の主人と話をしていた。その光景は権謀に興を覚える政治家であり(程度の差は抜きにして)、腹蔵は黒く肥えている。 挿入法
小机に顔を近づけ紙片になにやら書き付けている男の絵は、玄妙な技法で表現されていて(ありふれる作風に似ているようで、微妙な差が大きな違いを生んでいる)、浅深を云々するより前に精緻な筆さばきに息を飲むだろう。 挿入法
スカーフを頭に巻きつける女は自分を謙抑な人間だと思っているが、大股を広げ(美しく若い女性なのに)、壁に背を預けて座る格好はひどく無作法であり、淫靡で高慢、或いは驕慢な風に見受けられる。 挿入法
震災に乗じて詐欺を働く者に慷慨し、真摯にヴォランティア活動する者をせせら笑う。 対照法
柔らかく肥えた中年女は白いブラウスを着込み、穏やかな微笑を浮かべて椅子に座っていて、ぎすぎす痩せこけた若い女は黒いドレスを纏い、意地悪に睨んで椅子を少しばかり持ち上げていました。梗概はこのようになっていました。互いに折衝しているとも思われます。 対照法
クリケットの試合が行われ、礼儀正しい生真面目なチームは大敗し、無鉄砲で教養のないチームが大勝した。試合後はロッカールームで交歓し、互いの健闘を酒の肴に謳歌した。 対照法
男は上着から黒い襟を出したまま遠方を見つめている。原住民の狩りが今まさに興起される瞬間を目に焼付け、闘争本能の興起する自分に戸惑う。昼食をたらふく食べているときにアメリカ映画を観た。映画はまさに騒擾としていたから、痩躯の男がそれほど強いと思わず、それほど凄愴な光景だと思わなかった。血は逆流して旋毛から噴出したのかと錯覚した。 脱線法
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