修辞技法と単語学習の為の例文集

第17話

両腕をソファーの上端にもたせて愉悦の顔を浮かべる女性は、数刻前にもらったばかりの愉快な花束を切り回し、棚に敷かれた絹布を切り回した。いつでも彼女は自分の欲するままに物事を切り回してきた。　転位修飾法

一連の出来事に欣快を覚えるのは不品行かもしれないが、あの女が花の絨毯に敷かれた箱に安眠してくれたおかげで、わたしは払わざろうえない金の権利を失ってしまったのだから笑みはどうしたって漏れてしまう。　転喩

僅々の間に潮を迎えたから、女は自尊に膨らんで両手を腰に当てている。　転喩

蝶ネクタイにシルクハット、小脇にステッキを挟んでパイプを口にする形は、道路で金をばら撒く類の人間に見えるが、投射されて映し出された影は謹厳な刑務所員になるのだから、実際の性状は計り知れないものがある。　転喩

頬に手を当てて彼女達を傍観する男の顔は、つばの広い山高帽に隠れて片目しか見えないが、ゆとりのある口元に欣幸を表している。目の保養とする喜びだ。　同格法

身幅の狭いドレスに着飾られた長身の女性は化粧棚の傍に立ち、椅子の背もたれに手を据えて思わしげに窓に顔を向けている。緊切な恋の情事に狼狽していた。寸時もおろそかにせずに返答することが緊切だ。直ちに決断する必要があるのだ。　同格法

ウェディングドレスを着る女は左手を腰に当てて、上半身を少しねじり気丈にこちらを見つめる。緊張したように見える顔には決意が表われており、これから欣然として挙式に向かうだろう。花道を歩く足は軽やかだろう。　同格法

端正な顔つきの女性は両手で頭を抱えている。体勢から判断すると悩みでもあるのかと勘違いするが、とても落ち着いた顔をしている。誰かに欽慕されているのだろうか。女性を包む背景は斜光に注がれ、表情を作る背景に男の姿がよぎる。　同語異義復言法

公園の近傍に実に美しい女性が住んでいて、犬と散歩して歩く姿を何度か見かけたが、生え際の揃った美しい額を蝶形の帽子から見せ、トランプを片手に顎を触り、艶やかに微笑を浮かべていることが多かった。黒いドレスに包まれた体からは黒い艶かしさが漂い、わたしは目をこすって頭に上った血をどうにかしたかった。　同語異義復言法

女は薄暗い一室で目の当たりにした光景を忘れることができなかった。陰影にぼかされた鼻のような裸の女性はどこか木皮の冷たさがあり、かすかな節の筋は大層な肌理にほどこして、陰部の黒から身を切る冷たさを感じた。光景を思い出しては偶感につきまとわれ、肉欲と暴力の芽から生まれた原始の空想はいくつも繋がり、毛穴から汗を噴出してちかちかする眩暈に吐き気を覚えた。　同語異義復言法

男は大扉の前に片膝をつき、居合腰のまま振り返る。膏血はおどろに忍びより空隙を這って襲い掛かる刃で澄ませた。　倒装法

ソテツの群生を抜け出ると、巨大な眼前に空谷が構えて現れた。倒装法

パーティー行きのドレスにめかし込んだ二人は、壁にもたれて憂わしい面持ちで話をする。衣装が空転して場にそぐわないみぞおちに噛み付いた。　倒装法

殊に目立っていたことがあった。かがんでいた水着の女性は、傾げた首の横で両手を交差させた。開く前の蕾に寓目したから。　倒置法

うっとりと女は上方を見上げる裏には、力なく閉じた右手の幼さと渇望する開かれた左の鷲手に、遇有する残虐の二面性が踊っている、真剣な女性の一面を添えて。　倒置法

空理は一緒に持って来ない、彼が笑ったものを。　倒置法

以前から具眼の人を捕まえたいと所望していたら、カラフルな細胞に惑わされずに見識を披露する男に出会った。美しく醜い鼻をひくひくさせて真剣に話す姿は、切に石を投げつけたくなる。　撞着語法

白地に黒い線が縦横に走り、赤青黄の矩形を沢山かたち作る。素晴らしくうるさい静寂が聴こえてくる。　撞着語法

イスラム帽子をかぶる老人に刻まれた皺は、どれほどの苦患を乗り越えてきたかを物語っている。災いの幸いは眉間をきつく盛り上げて、人をたやすく近づけない。　撞着語法

髭の絡まった男が俯いているのは、気に入りの帽子をからかわれてくさくさしていたからだ。阿呆のかぶる帽子は阿呆だと執拗に茶化されたのだ。　トートロジー

いくら気に入らない表現方法だとはいえ、矢鱈に腐しても自分を難しくするだけだ。絵が絵だから固執しないで歩み寄るべきだ。　トートロジー

同じような線と色づかいばかりでくだくだしい、せめて形を形として扱って欲しかった。　トートロジー

色彩と線の新技法が生まれた、絵画の発展をこの目で明瞭に認めた、すげえじゃん。このような口さがない連中は虫ピンで一人ずつ標本にしてしまわなければならない。　破調法

前髪の逆立った男は光に照らされた逆の横顔を晒す。影に浸潤する輪郭線がほのかにぼやかされている。口過ぎをどう手に入れるか考えるのに夢中じゃけん。　破調法

人通りの少ない街筋を馬車が走り、土の路面に揺られて話す御者の口の端に怏怏としない語尾がついて出る。馬鹿野郎だなんてひどいわ。　破調法