第16話
うちの女房と酒は恭順なんですよ。 くびき語法
栄光なる兇状と体たらくを調べましょう。 くびき語法
その絵の何が良いって言われれば、嬌飾のない稚拙なくだらなさが好きだ。 形容語名詞化
雲霞からにょきっと表われる坊主の危なさに、老人は瞬ぎせずに凝然とした。 形容語名詞化
もとは優れていた目鼻立ちの涼しさも、怯懦な性質にいたぶられて悉く崩れてしまっている。 形容語名詞化
いくら書いても書いても凝滞している気がするのは、構想の大きさがそうさせているらしく、小さなノミでエアーズロックを彫刻して満足を得ないのと同じ、小さな生涯しか与えられていない人間としてのはかなさを知りながら、目と耳を潰しあてどなくさまよう道に怯えているからだろうか、それとも官能小説の大作を残して両親その他親類に面目ないからだろうか。 懸延法
街を蝕むみだらな風俗が彼には気に入らず、幼い頃から正義感を募らせては小さい身の無力に震えて、必ずこの街の夜を矯風すると幾度も誓った。小学を卒業すると同時に一軒の店を正しに攻めると、生得の男っぷりがあらわれて気づけば従業員を強姦して改める羽目に落ち入り、そのままとんとん拍子に進んで偉大なるピンプに成り上がっていた。 懸延法
胸壁を取り囲んだ軍隊は声を呑んで見張っていた、屹立する大山の如く聳える砦からは鼻をくすぐる火薬の匂いと、士気にあがる兵士の雄叫びが空から降ってくる。砲台は全方角をめちゃくちゃにするだろうと思われる。しかし砦が紙で作られているとは誰も気づかなかった。 懸延法
仕事に追い詰められていた彼が車を走らせていると、芝の広い公園の一角に太い喬木が朽ちかかっているのが見え、その拍子にみしみしと折れる音が聴こえて彼の心を引き裂いた。 兼用法
頭の中を無数の馬が駆けていく光景を目にして、彼はその場に居られず狂奔し、馬の走る音から去ると呆けてしまう。 兼用法
表記された文字が飛び交い、ひん曲がった槍は目指すところなくふらつき、原色は漏れて垂れ流しにされている。物象の狂瀾に溺れてつい見逃しがちだが、その中心には凶悪な角の生えた生き物が確かに笑みを浮かべている。 兼用法
白い縁の笑い顔に恐怖を覚えて、魂の炬火はそよいで揺れ、炬火の魂は静となり、芯は無為に減っていった。 交差配語法
虹彩のない白い眼はじっと彼を見つめる、黒いシルエットに浮かぶだけの目がなぜ薄ら笑いを浮かべていると判然できるのだろう。虚喝に違いない、白い眼は笑えない、眼は白いままに笑えない。 交差配語法
その壁画が完成されるまでに幾つもの曲折のあったことは、色彩と一緒にひねくれて曲折する描線が示しており、簡略に描かれる切断された足首や犬のくわえる骨は単純ながら、不気味な不機嫌とよそよそしさに包まれて、強情な筆致による一筆描きにその時々の憤怒を見ることができる。絵は曲折を語り、曲折の憤怒、憤怒の曲折を目覚しく体現している。 交差配語法
仕事に身を捧げてきた中年女性にとって曲直を簡明に説明するのはたやすいことだが、若さと美貌を備える新人社員に身を粉にして学んできた処世術を教えるのは、性の矜持にとって耐えがたきことであり、鬼の棍棒で横っ面をなぐり、綺麗に手入れされている黒髪を鳩の糞まみれにして、頬に十字の傷をつけてやりたい気持ちを抑えるだけですでに血管は震えていた。 誇張法
蟻を見れば必ず踏み潰し、飛蝗が横切れば足蹴りし、猫が通れば張り手を加える倨傲の輩として彼は噂され、骨肉を好んで貪る好色家であり、一日に十体、三日で五十体の女を強姦しては、夫を平気でぶん殴る。鬼畜の名をほしいままにしていた。 誇張法
高山の雪解け水のごとく澄んだ心は、悪心を一切住まわせることなく清く流れ、見る者に清廉の風を与えて、うかつに近づけば余りの冷ややかさに驚きもするが、稀な虚心に驚嘆を覚えない人はおらず、清水のうまさを求めて多くの人に愛されることになる。 誇張法
肘掛椅子に足を組んで座り、多少前屈みに体を丸めて肘を立てている。細長いペンを持って居然と警戒しているのは、言葉の弾を跳ね返す為の防御体勢だろう。彼はいつでも居然とすることはなく、鈍い者からは居然としているように見られる。 提喩
金の飛び交う街を闊歩する姿が似合うスーツ姿の男は、いつでも自負心に満ちた胸を張って鷹揚に立ち振る舞う。彼の挙措に恥をかくものはいないが、嫉む者は何人かいた。 提喩
横顔からさっすると一種の虚脱状態にいるようだが、陰影の加減に惑わされずに目を凝らせば、虚脱からかけ離れた戦士であることが瞭然される。 提喩
ジーンズのポケットに手を突っ込んで銜えタバコのしかめ面をこちらに向ける。大慌ての虚誕を言うわけでなく、若者らしい逞しさがセピア色の風をまとって立っていたのだ。 転位修飾法
マントを羽織る男は通路に突っ立ち、侮った切口上を呼びつけた女に浴びせる。 転位修飾法
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