第15話
頭を抱えて沈み込むことではない、周囲に敵を向けて睨みつけることでもない、困難の訪れは既得の勇気だ。 換語法
地位でもない、名声でもない、家族の平和を祈念してきたから働けたんだ。 換語法
大雨に降られて不平を言うのではない、慌てて走るのではない、交差点の真ん中で悠々と大傘を差して雨宿りするのだから、気働きな見世物だろう。 換語法
楽譜を置いた机に肘を突いて頬を支える姿は創作者にとってありきたりの姿だろうが、身の内に潜む感情の機微は常にありきたりではない。 緩叙法
砂埃のひどい広場に立つ数人の女の子は、それぞれ顔をしかめて違った方を向いているが、友誼は気脈を通じていてやすやすとは仲違いしない。 緩叙法
あの人ったら、見知らぬ女に少なからず肝煎りしているみたいよ。 緩叙法
汽車を主体と見れば吐く煙は客体か、ああ、わたしの生は煙となる。 換喩
クラシックカーに乗り込もうとしている尻の大きな男はミナレット野郎だぞ、いいか、あいつの立場を逆用して十字架男を救い出すんだ。 換喩
鳥打帽を被って藁を集める黒人男性は蟻と呼ばれ、汲々と農場に勤め続ける。 換喩
周囲を一つに取り込んで、落ちる水滴は窮状に悶える女を宥める。 擬人法
赤い列車の到着から荷卸までの急調は滞ることがないので、止まり木から見ていた鳥は溜息をついた。 擬人法
燃え盛る車輪は回転を止めることができず、窮迫に耐え切れずに泣き叫ぶ。 擬人法
仕事後に食べるチョコレートが生きる目的だった。どんなに悲惨な労働後も、ベンチに仰向けになってかじれば苦悩から救抜された。 奇先法
カレーを作るために大量の小麦粉をばら撒いた。少年にとってコンロの炎は魅力であり、またとんでもない恐怖でもあるので、窮余の反動で消火器と間違えたのだ。 奇先法
彼は周囲の人から徹底して無視された。毀誉の言葉に反応するだけでなく、話しかけられただけで逆上して殴り掛かるのだから、一緒にいようと思う人などいるわけがない。 奇先法
学校の昼休みに教室で剣玉を披露している男子生徒を見て技癢を感じ、とある女子生徒は密かな趣味にしている剣玉の腕前を披露したくなる。男子生徒の技量は素人に毛が生えた程度であり、女子生徒は金をもらってもおかしくないほどの腕前である。見せれば勝てる。しかしここはぐっと堪えて別の競技で勝負して、滑稽に負けるべきだろう。なにせ剣玉で勝ってもしかたがなく、女子の剣玉となると陰気臭いからだ。 逆説法
偉い社長が来て恐懼した時は、思い切り喚いてやればいい。社長も同様に恐懼するだろうから。 逆説法
通りを歩いていると矯激に振舞う男がいたので、こちらも並外れて悲愴な態度で近づくと、あまりの陰湿さに感化されてまともになってしまった。 逆説法
重ねられた色と線に秩序はなく、描かれた形態には奥行きも幅もなく、一つの細胞の構成物を描いているようで密集して空間がなく、緊張を強いるいかつさがある。両手を広げる姿はかすかな恭倹はあるだろうが、圧倒的な混沌に哄笑している。言ってしまえば悪そのものだ。 強意結尾法
自分の頭蓋と校合したらしく、男は実に当惑してしまい、針山が自分の髪の毛だろうか、眉間の縫合痕は皺なのかわからなくなり、まともに取り合った結果表面は普通だが、中身はその絵に描かれている精神の型をしているだろうと思われる。疑った男がその絵の現実を証明することになったのだ。 強意結尾法
女はある絵に教唆されて少女の頭を割ったと言うが、派手な飾り付けの自宅の寝室に踏み込んでみると、壁に掛けられているのは黄色の背景に立つ黒い不気味な男であり、どのように教唆されたか伺い知ることはできない。ある芸術家がその絵を一目見たとき、この絵は馬鹿にしている、骨と血管を欲情させると言ったそうだ。 強意結尾法
コンクリート上を狭窄な青筋が八重に走り、地割れが血を吹いているようにも見える、あるいは白い路面を黒い雨が血を垂らすように降る姿か、殺人現場の死体を縁取る白線に見えないこともない、それでいて暗黒の中に生える若芽の生育もあり、戦慄を覚えさせること夥しい。 挙列法
本棚から大きな事典を手に取り、適当に開いてやたらめったら落書きしただけの夾雑さがあり、赤線で描かれた三角テントや青画面のブラウン管テレビ、何行にも書かれたワックスの文字、様々な色を憎しみ込めてぶち当てた判別できない嘔吐物、統一のない挿絵がばらばらに散らばっている。 挙列法
拳を固めて両手を挙げ、重厚な胸板と背は大きなエイに広がり、重なる十字架の線は筋肉の盛りあがり、蛸頭は髑髏の眼窩と口を大きく圧倒して迫ってくるのだから、拱手は出来ない、手を合わせての礼も祈りも知らない、それでいて暴力の存在は厳然たる美々しさを感じさせる。 挙列法
赤髪の手長男と口の突き出た醜い犬に嬌羞を求めて、思わず吐いてしまった。 くびき語法
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