第12話
苦難の時期は長く続かず後には必ず光を迎える、仕事のプロとよばれる人はそう助言してくれたが、わたしは眼が見えないのでかわたれ[明け方、夕方の薄暗い時刻]時の判別がつかない。 引用法
眉毛を細い柳葉に繕うのは色が濃すぎる感じがして、瞼もなんだか眠気に食べられた感があるね、隈といったらそのままだから痣かな、顔全体の白さも水死体らしく、頬紅はトマトケチャップをぶっ掛けたみたいだね、そう、良く化粧されているけど元に比べて代り映えしないな。 迂言法
他の人の幸福を見るとなんだか唾が溢れてきて、ところかまわず吐き出すばかりで、目の前でひったくりがあり犯人が傍を通りかかってきても気にもずに笑い声をあげる男だから、喜んで人を陥れる姦策に加担するのを誉とする、奸悪極まりない悪逆な存在がわたしの前にいる。 迂言法
まさか、心を尽くして勘案した結果がこれほど無計画な展望だとは。 詠嘆法
ああ、看過していたことを看過していたとは。 詠嘆法
彼女の顔つきと振る舞いは閑雅な落ち着きに湛えられていて、閑雅な木造家屋と相俟って活動している。 くびき語法
この人を助けるべきという感懐の重さが、わたしの頭をひどくもたげる。 形容語名詞化
眼界に広がる果てしなさに教えられ、自己の眼界は少し広くなったかな。 形容語名詞化
彼の身なりを眺め、話しかたと仕草を察するかぎり寛闊なお坊ちゃんという感じを受けるので、会計を終えて店を出るのについて後を追うと、歓楽街を抜けていよいよ閑静で敷地の広い住宅街にはいり、豪邸のひしめきあう中でも図抜けて立派な一軒家に入ったから、すぐに表札を調べにいくと、寛闊の好人物として名を馳せた大物企業家の彫像が飾られていた。 懸延法
画面を占める重厚で計算尽くされた構図からは猛々しい男の跳梁を覚え、多くの線は太く分厚く塗られており、とこどころ細い線もあるがレイピアのするどさは誇らしげな騎士精神に貫かれ、そういえば色は青やら赤やら主張の強いものが多く、糢糊としたところがないので画家は中年の男性と思い込むところ、過去に観たある作品を 鑑みると、一点似たところを見つけて、寸時に女性の作品だと確信した。 懸延法
悪夢に苛まれて安らいだ気がしないくせに、することがなく惰眠を貪るから体がだるくなり、睡眠はわたしに艱苦しかもたらさないとたわけたことを口にするのだ。 兼用法
蛇口をひねると水は一定の間隔で溢れるので、間歇かい、親父は静かに尋ねた。 兼用法
わたしの培ってきた管見からすれば、不細工なお洒落とお洒落な不細工はたしかに存在していて、片方は生まれた時点でやりきれない外見を感受して生きる宿命を帯びているわけです。 交差配語法
宿の布団に包まって彼は至極勘考した、わたしが他人を寄せ付けないのか、それとも他人がわたしを寄せ付けないのだろうか、どちらのせいもできるだろう。 交差配語法
この頃の女の行状をつとに言い表せば、たとえ寛厚な先生といえども目玉が飛び出るだろう。 誇張法
冬の静電気の如く発生しやすい彼の狂騒を諫止するには、ニトログリセリンをひっくり返しても足りない。誇張法
沢庵坊主を食べてやる。くだらない言葉に子供は莞爾するのだから、大人よりも他の気持ちがわかるのだろう。 言葉遊び
おい女、そこばくの動きも看取できないなんて、やるせ姉ちゃんだな。 言葉遊び
てめえの失態を寛恕しろと乞われても、寛恕の欠片をこれっぽちも持ちあわせていねえんだ、馬鹿野郎め、んなことできるか。 修辞疑問
自他共に認める根っからの怠け者が、通りがかりの蛙に恋をしただけで緩徐な性質の体の働きを改善できるものか。 修辞疑問
その仏像を目で見て凝視して観照出来てやっと見えるものがある、先入見を除いて観照することは難しく、海外から輸入された美意識での観照となると話はさらにもつれあう。 冗語法
鋭角な角がひやりと眼前をかすめ、中年女は凍えた肝を冷やして寒心に震えた。 冗語法
社交的な男の人好きする顔、たしかに悪くない、歓心を与える杯、いけしゃしゃ、台に横たわるのは如何なるものか。 省略法
荒れた山道にありました、ほっこり陥穽にはまる彼、大笑い、逃げ出す、先人の陥穽はいつもぼくを捕えて憚らない。 省略法
ころころ魚の眼睛はめまぐるしく動く。 声喩
どうどう、冠絶な作家になる。 声喩
日本で逡巡していたほうが良かっただろうか、敢然と海外へ出てみたはいいが、明確な目的があるわけでもなく、ただその場にいるのが嫌なだけで耐えられなかったのではないかと思うが、いったい真情はどこにあるのだろうか。 設疑法
国民は首相に向かってあれこれとけちをつけているが、けちをつける人間がどれだけ非を持たず、間然のない道徳な生活を送っているだろう。この国の首相こそ国民の性情を寸分なく象っていると気づかないものだろうか。 設疑法
さらば世俗の生活よ、超凡の士となるべく仏像を観想して仏を想い、ただ観想するのみに行動を捧げる。 詠嘆法
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