第9話

 彼が歌い終わると、先生は一言、、実際に両手を揚げて蔑んだ目を彼に射つけた。その姿は魅してきた歌を跳ね返さんと壁を作るようだった。 反語法


 。広場で熱心に話す男の物語を聞いていて、衆目は妄りなことじゃないと、太陽の影を伸ばしてきた存在を見上げて納得した。 反漸層法


 姿便。道道に飛び散らして撒いて、やけに黄色くへこんだ雪にお喋りするように。 反漸層法


 彼の大いなる嫉妬に燃えている。彼女の大変な思い違いに迷っている。それでいてどちらの顔も見付きは同じようだ。 反復法


 文藝世界を概観すると頭でっかちがひしめき合い、音楽世界の概観はつんぼの耳たぶばかり震えている。。頭も耳も密殺すべし。 反復法


 固陋な老人に似た岩盤を少しずつ削り、トンネルを開削して一言、と、仕事に満足した晴れ晴れな顔つきをしている。悪いことは見て取れない。 皮肉法


 。嫌になるまで、存分に味到してください。 皮肉法


 西、どうしたって改悛できるものか。見咎めは無駄ですよ。 諷喩


 、その話を聞いて男は慨然と立ち上がり再び作業を始めた。電池で漲る陽性な動きの良さでもって。 諷喩


 、これは自然界の必然の循環であり、決して蓋然の現象ではない。偶然はすべて必然にあるのだから、たまたまなどと軽視して、もう起こりはしないなどと見做して油断すれば、簡単に飲み込まれるぞ。 平行法


 姿。男の見端は汚らしく、女の見場は清潔だから不思議だ。 平行法


 道端に横たわる黒焦げに焼けた人型の塊を、握る手に汗は滲み出し女は慨嘆に身を震わす。見晴かす咆哮が立つ。 黙説法


 階下から聞こえてくる弦楽の重奏に耳を向けて、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロがいない、どうして優れた諧調が成り立つのだ、この部屋を染める淡い色彩の壁紙が助力しているのか。何かしら悪いことが見舞ってきそうだ。 黙説法


 。その時における状況によっては効果があり、掻い撫での説教に救いを見つけて惑う。一が二となり、三が一となり、見紛っていることにも気づかずに。 問答法


 。混迷していた情勢に追い討ちをかけて、日脚は早く晦冥の世と様変わりする。それでこそ新たな光が届くときは鋭く地上に差し込むだろう。身罷るまでは目も光を探し求める。 問答法


 近況は悪く一向に復調の兆しが見えない、、開落の徒花となって才能を枯渇させたのか。どこをどの時間でも、人々が、自分の中の誰かが、いつまでも耳擦りをやめない。 呼びかけ法


 ここ数年変わらない職場での立場は、部下と上司に挟まれ息苦しく介立したまま、呼吸が苦しく水面にあがることもできない。、意気地なく隠れていないで眼前に現れてくれたら、おそらくわたしは会社を後に介立して、仕事の労苦を不平に変えることなく生の躍動とするだろう。自分の心情の他に耳立つ声はなく、泰然自若として上辺でないその奥へと見通すこともできるだろう。 呼びかけ法


 、必死に乖戻して壁を強く打ちつけた。この未聞の出来事は一体どこの誰かと尋ねれば、近所の身近な青年のことで、画一的な世間のインタビューが頭の中で再生されるようで、真面目で、静かで、礼儀正しくて、などと見目だけの人物の苦悶の表情がわからなかった。 類語法

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