第7話

 その美しい女性が嫣然としてわたしに微笑みかけた時の心境といったら、磯の波打ち際に団居するやつらのように、行き先、誘惑、決断に困り、驚き惑う矮小な男だろうか。 躊躇逡巡法


 クラスの女子どころか学校中の女ども、ましてや市の学校の多くにも名が知れ渡っているのだから、大層な艶福を享受しているはずの男に会っても、。自信持っていた心が否応なしに反発するのは青年にとって健全なことだろうから。彼と自分の家が間遠であるのに、わざわざ距離を縮めて円かな関係などになりたくない。 躊躇逡巡法


 好意を持っていた廉潔な彼のおぞましい艶聞を耳にして、。ショーウィンドウを前に眦を決して人形達を買おうとしたように、目映ゆく光る花々を過度に恐れることはない。 直喩


 。遠く二階屋の壁面に見える窓の目庇は、赤い和尚に被せられた帽子に似ている。浅瀬に掛かる石橋を渡ろうと、二組の男女が真秀に対面する。 直喩


 その宿の居間では若い男が数人集まり、同じ部屋にいる言語の違う若い女の子に意味の伝わらない言葉を使って下卑に盛りあがっている。たまたま食事の際に居合わせた男は表情を強張らせて、怏怏にその光景を眺めていた。肌に合わない所に来てしまったと不快になった。。泊まる前からまほらだと期待はしていないのだから、儘ならない所だと納得しないといけない。 追加法


 彼は自他共に方向音痴として認められ、知らない土地を訪れれば往々に道を間違えるのが通常であり、地図と周りへ交互に視線を向け往々に確かめるも、どうしても間違えるのだが、一度も間違えずに行き着くこともやはりあり、往々行き先に何の障害もなく到着するのは変に落ち着かず、諸所方々に建立された往々の寺社に頭を下げてお礼するも、。まるで焼団子の形した魔魅に誑かされたようで、高架道路の張り巡らされた地域にいて迷わないような、真向きに人生を進んでいる物足りなさを感じた。 追加法


 右目は製造ラインを確かめ、左目は労働者の動きを監視しながら、右手に掴む鞭を絶えず働かせて労働者の瘦せ肩を撃ちつけ、左手はタバコを挟んで頻繁に口へ運び、曲った口は腐臭の煙を吐き出す。それぞれの部位に管制機能が備えられていると思いきや、頭を働かせば直ちに混乱するので、見た目どおり各自集中して鞅掌に立ち動いているとも思えそうだが、。(悪事ニ対シテノ忠実忠実シサヲ持ッテイルカラ、仲見世デ働ク女中ノ円ヤカナ玉宛ラニ各器官ヲ操レルノサ)。 訂正法


 大海のごとく汪然に広がる道徳心にひびが入り、飛び出た眼球から汪然と涙は頬を伝う。。林間ニヒッソリ建ツ邸宅ノ回リ縁ヲ打チ壊サレルト、電飾ニ晒サレタ身体ハ、満腔カラ発露ヲ溢レサス。 訂正法


 嫉妬の怒りに男は身を任せ、壁にかかっていたを掴んで女の左胸を一突きした。人道に背く横道へと動かしたのは、浮気と知りながら無神経に遊んだ女の小さな横道が大きな要因だ。街のビル群に見下されながら、満更の下策でもなかったと内心満足すると、髪を短くに切った日、満山の桜に囲まれて息したことを思い出された。 提喩


 反り身に胸を張って労働者へ大束に指示するのは、政の真似事に浮かれているのであって、達観した者から大束に言わせれば、大した事でないのに真剣になって大束過ぎるのではないか、と。これまた仕事道具を大束に扱って壊すことで有名な男と勘違いしているのだから、話の収集が一向につかないので女は頭を掻くしかなかった(コノママジャ、マンジリトシテ、何モ手ニツカナクナルナァ、橋ノ下ノ無駄ナ人種ニチョット似テ、空威張リ? コンナ奴ニ係ウト、漫然トシタ日々ヲ送ルコトニナリカネナイ)。 提喩


 を話す男に触発されて、以前岩石に座る猿から聞いて熟考した憶念が思い出された(アノえて公ハ、誰モ彼モ瞞着シナイデハイラレナインダ。衆人ニ取リ囲マレテ、アレダケ漫罵サレテイタンダカラ)。 転移修飾法


 小首を傾げて話すには、が言うことを聞かず、仕方無しに遅れ馳せながらやって来た次第だ。満遍なく体は疲労している。木々に取り囲まれて、漫々とした泥沼に浸かっているみたいだ。 転移修飾法

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