第6話

 館内へ足を踏み入れて木造の大扉を右に入ると、彫像の部屋となっており、部屋は湿気た空気に満たされながら、爽快とはいえないものの、どこか鬱陶しさを、暑苦しさを、要するに異質な感受性を増幅させる影響があり、部屋の中央に立つ裸像の男から、男の影像のものとは思えない血の迸りを受けたのだ。古ボケタ古屋ノ窓カラ覗ク昧爽ノ林間。(色欲ノ土壌ニ埋伏シチマイソウダゼ)。 接続語多用法


 空間は白色に包まれているのに、色が存在しないようなのに、心を漂白する効果があるのだろうに、右奥の壺は黄色か、黄緑色か、オレンジ色か、何かしらの蛍光色に輝いており、左隅のミシンはすき通りコバルトブルー、エメラルドグリーン、湖水の太陽光、、部屋には色がないがうっすらともはっきりとも形容できない色調で互いに映発しており、取り残されている感を醸し出している、、ひどくわたしの眼もぼんやりしている。いや、眶あたりから抉られて宙に浮いているような、地下鉄のホームの鉄臭い酸素不足に紛らされたような……。 接続語多用法


 調、ここに弁舌捲し立てて勢い良い鋭鋒を向けたところで、巧緻な論法と鋭い口の端は何も意味を成さない。種々の欲求に紛れて学校へ行く気が失せたのではないのだから、近所の仲見世に連れて行くのではなく、郊外の秣場で農作業にでも従事させたほうがよほど人の為になる。 漸層法


 。猿は悦服して中年男のしもべとなった。でぱぁぁと内デ商品ニ向ッテ捲シ掛ル中年婦人、ドンナ事業モオ手ノ物、仕事ノ間口ガ広イ三流業者。 漸層法


 えも言われぬ逞しい体に()わたしは心酔しきっていた(彼ノ目的ヲ枉ゲテデモ……)。あの冠も実しやかに作られていて、あたかも神具に見えてしまう。 挿入法


 与えたきびなごをどうにか嚥下したようすを見て()、やっと安心を覚えた自分の心持に気づいた。まざまざと感じた橋作りのチェーハニカに、柾目に見い出すことのできる自然の技巧を見た。


 、息をのんで瞬ぐこともできないので、その絵に対して評される区区の眼識を考えることができなかった。 対照法


 あの女への慕情が淵源となっているのは判然するが、、確かに行っていることは同じなのだ。飛来したものがあまりに待ち設けていた事と違っていたのかもしれない。なぜか、待ち侘びていた時間を、関係のないわたしが後悔している。 対照法


 相好をこれ以上醜くする法がないほど崩して、かの女への愛憎をおいおいと怨嗟しているところへ、、突然そんな女が目の前へ姿を現したのだから、うっかり舌を噛んで男は気絶してしまった。川原の芝の上で真っ向から対峙するつらさは、虐げられてきた枝葉末節のことまで思い出させたのだ。 脱線法


 颯爽と現れた女は高貴な品性を備えてはいないが、情欲に訴える近づき安い艶色に顔形は整い、また、体躯の醸し出す性質に合った艶色の着物を着ている。姿、こうして街筋をしどけなく歩いて賞賛を得るようになった(見ロ、蛆虫ノ末流達メ、鯨ニ纏ワリ付ク小判鮫ノ様ニ、アタシニ付イテ来ナ)。 脱線法

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