第5話
盛んに茂っている鬱然たる髪の毛は、真夏の草草、草草の真夏、どちらにも形容つかない鬱然とした心情を吐露しているようだ。ほくそ笑むのは草の根に忍ぶ毛虱か、朴訥な彼があけっぴろげに笑みを見せることはしないから、奴らは陽気な代弁者といったところだ。 交差反復法
盛夏の空に盛りあがる雲や直射に挑もうと伸びきる草木の如く、鬱勃とした怒気は女の顔ばせを天地創造の気味に一変させ、鬼を食わんとする、引ん剥いた目ん玉をじろりと向けるのだ。血走った眼から地場を歪ます怒気が走り、誇ラカニ受ケ取ッタ木造ノとろふぃぃノ、決メタ臍ヲ砕クヨウニ、なんて恐ろしい形相だ──。 誇張法
軽蔑するにも程がある。たかがおならをしただけで、人殺しをした人を見るように疎疎しい態度するなんて、いったいわたしの何を捕捉したという、汚らしい細引き網で縛り付けたと勘違いするな。 誇張法
あの泥棒め、人の食料を気づかないうちにかすめて、うまうまとうま煮を食べたって? まんまとやられた! 少ない給金から細々と貯めてきたのに、毎日山谷を跋渉して榾を集め歩く苦労が……。 言葉遊び 駄洒落
春の陽射しが柔らかくうらうらな午前だというのに、あそこにいる親爺は無神経に怒鳴り散らして、花見客の視線を一身に集めている。花より頑固な親父にみんなは面白さを感じているのだろう。さすがに間違って絆される人はいないにしても、あの親爺の手足を絆そうとする人ぐらいはいないだろうか。 言葉遊び 地口
歯の抜けた口を開いて人々に講演していて、うら恥ずかしく思わないのか。ホタホタト熱弁スル彼ノ前ニ、酔イ痴レル聴衆、(アノ青年ノ顔ヲ見ルト、私ノ話ニ触発サレテ何カヲ発意シタミタイダ)。寝入りそうな聴衆全体が欠伸をしそうだ。 修辞疑問
幾ら必要ないといって、雑草を抜くように社員をうろ抜いて何の同情も感じないか? 社内の隅から勃興した義憤に厚い反対勢力は、すでにほっこりした温かさではなく、先鋭な意気の集合体に変成していた。 修辞疑問
その女の仕事はいい加減に乱雑であり、胡乱を極めて不真面目だからこそ、不信で胡乱な人物と見なされている。数年前に発心して会計士を目指していたが、特に勃然とした理由もなくやめてしまった。 冗語法
表面のすべすべした上滑りとでもいう床に寝転びながら、クラシック音楽は古臭く黴臭く時代遅れな考古学的辛気臭さを持つ退屈な産物と言い、ポップスは楽しく面白くわくわくする音楽と弁じていながら、どちらの音楽も日常ほとんど聴いていないという事実を平然と答えるところが、皮相を触るだけで表面しか見ない軽はずみな上滑り男と噂される点だろう。(コノ人、キット何カ一ツノコトニ没入シタ経験ガナインダ)。その通り、勃々と好奇心が湧き上がるのを体感したことがない。 冗語法
両腕を広げて羽ばたく仕草を行い、唸り声をしぼり出すと、顔が酷く醜く歪んだ。その男の云為は何を意味しているのだろう。ぽつんと倉庫の側に立っている子供がぽつんとつぶやき、その男の意味をより悪い方へと補綴する。 象徴
メディアに洗脳されて集まるんだから、所詮奴らは雲霞の衆に過ぎない。風に吹かれればどうなるものかわかりきったものだ。此レラノ歩度ハ皆一定。程無くして崇拝していた物に不満を吐き出し始めるだろう。 象徴
上方は淡い赤が細く、中は菱形を含んだ濃い緑が太く、下方は赤に繰り返され、その他の線も濃淡を凝らした色の対比に配されて、整然とする繧繝彩色に施されている。それは殆あの女の子の見る毎晩の悪夢に酷似していて、熱りの冷め切らない強欲の色付けの繰り返しだ。 省略法
然り、修辞、筆法、沢の春の薫風に勝るべし、いざ知らず、そは 蘊奥に慄く。(彼奴ノ遺児ノ辺ニハ、骨惜シミヲ好ム者ハアルガ、骨張ッタ物言イヲ放ク者ハナイ)。 省略法
男は虫退治に専心してばかりだから、ぽろぽろと、鋭意奮闘してアブラムシを取り除く。山奥ノトアル居酒屋ノ前デ褒メ称サレル花崗岩、奔湍ガ洗イ削ッテ、イズレ梯子トナル。 声喩 擬音語
月の満ち欠けを見て、ふと女の心にぎらぎらした美醜の盈虚を感じた──。郊外にある食料品店の駐車場で、奔騰する嫉妬が凡百の記憶と共に体中を浸潤したのを思い出した。 声喩 擬態語
五歳で万葉集を読み始め、六歳で人に教授し、七歳には原文のファウストを読み解き、八歳にて人の生きる道についての長編を書き記す。このような穎悟な子供に自分がなりたいと思うだろうか。坂の多い住宅街で郵便配達に奔命して、一日中自分という凡慮に顔を付き合わせて入れば。 設疑法
腰に長物を帯刀して地上に突き立つその男は、才気煥発な雄渾で力強い表情を表わしており、近づく者を萎縮しないではいられないのだが、その英姿な風貌も一反残虐な方面へ流れると、それは無残極まる事態にならないと思われるだろうか。事例を細かに枚挙することはない。荒海に架け渡された桟橋を幾星霜も邁進してきたのだから。 設疑法
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