　戸棚を開けて中身を散らかしても、引き出しをひっくり返し、ごみ箱をほじくり、鞄の中を調べても見つからない。女は携帯を机に置いていたことをはっきり覚えている。女が隣の部屋に寝ている間に、三人の女が机の前で飲み食いしていた音も聞いた。誰が鞄の中に携帯を入れるのだ？　況や盗まれたのだ。それを認めたくないので、見つからないものをじたばた見つけようとしているのだ。他人の迷惑を考えない放縦な三人だと思っていたが、まさかここまで常識の知らない者達とは──盗人ヲ捕マエタ事ヲ讃エ、褒賞トシテ韓国風きむちヲ──、豊饒なる悪徳国家の土壌から芽の出た悪意め！　強意結尾法

　まずしなければならないのは彼の注意を惹きつけることで、滋味溢れる海産物を献上し、燦燦に輝きわたる宝石類を堆く積み、判断を鈍らせる芳香を漂わせ、凄艶な女と引き合わせることを約束して、それから初めて申し届けをすることで允可されるだろう。飽食の毎日を過ごしているのに、珍味を嫌うことはないだろうし──きゃびあニ反吐ヲブチマケル──、方図がない欲望を毎日満たそうと、登山者の気概に通じる抑制さを発揮してきたのだから、方寸ばかりに敷き詰めた逸品ではとても満足しないだろう。　挙例法

　パソコンの話を聞くと眉根に皺を寄せ、人が携帯電話を使用していると愚痴愚痴言い、スイカを使って改札を通ると鼻で笑い、珍しい光景をデジカメで撮ると質の良し悪しを云々する。食事をするも行き先を決めるも時間がかかり、未だに墨を擦って手紙をしたためる因循な男だと有名だった。弁当製造機械は衣類を縫製できるだろうか？　方正とは言い難い偏狭な性状の彼に？　マイケルという弁当製造機械の名には、そういうことが出来るという意味などは包摂されていない。　挙例法

　空と女の顔を見比べ陰晴を確かめる。滂沱ト流レル岸壁ノ岩清水、「あの、申し訳ないですが……」とは言うものの（放胆ヲ信条トスルコノ俺ガジャケン！）、彼方に放談することさえもかなわず。　くびき語法

　顕然することはない。豊かな憎悪と感謝は隠然している。

（逢着シタアタシ達ネ……）

「方途はすでに判然しているんだよ！」

（放念スルカシラ、彼、アタシノコト放念スルカシラ……）　くびき語法

　知己のいないところで貧民に施しを与えるのは、孤独の内に昇華する陰徳の華々しさだ。身の内から澎湃する善意を止められず、悪事を働こうとするも、二つが旁魄することなく決然としてしまう彼女の稟質は、長く伸びた蓬髪からは看取できない。　形容語名詞化

　肩に細くかかる緩んだ下着の紐に、しどけない女の淫靡さが表われている。さて、それは捧腹させるようなことだろうか、仮に穴蔵から這い出てくる雌熊を彷彿させたとしても、笑みを浮べて鋒鋩を突きつけたくなることだろうか。形容語名詞化

　それは玉手箱のようであり、どんなに華美な装飾がほどこされてようとも、箱以上の存在であることはなく、それ自体が自ら動くことは適わず、その場にじっと佇んでいることしかできない癖に、なぜこうも人の心を動かすのだろうか。よく目を凝らしてみても隠約な色彩をはっきり捉えることができず、なんとなく官能が騒がされるのを感じるのみだ。そう、あの女の口にした言葉はそのように隠約であり、意味を汲みつくすには、余りにも神々しく見えも聴こえもするのだ。放漫ヲ悔イル加湿器ノ嘆息。ただそれだけの言葉に飽満したのなら、それこそ自己の暴慢といえる。　懸延法

　口を窄めて息を強く吐く様は確かに嘯くようであり、鳥か獣が吠えるように嘯くのでもあり、または出来もしないことを滾々と嘯くのでもあり、そうかと思えば知らん顔して嘯くのだから、いったいどれが本当の姿かわかったものではなく、いやそもそも、本当の姿と定めるのが無駄なことであって、それぞれが全て本当の姿の一面でしかないのだと気づいたのは、なにせお面屋さんだったから──。いやに暴勇らしく見えたあの鉢巻姿の顔も、裏に暴戻な所業をしでかしてきたことを示していたに違いない。　懸延法

　一炊の夢・昨年からの追撃は転た激しくなるも、唐辛子を主食に力をつけて辛くも危機を逃れてきたのだが、形勢がこれほど変化すると転たひどい有様で、戦火に入り混じって生活する商売人の心も転たに不安定なものだ。辺ニ芳烈ナぺっぱぁぁノ香、口ニ入レタ山椒ヲ頬返シデキズニ、誤ッテ舌ヲ噛ンダ辛イ痛ミ。兼用法

　女は右側に並ぶ花壇にそろりと顔を逸らした。シクラメンの花弁と男の心底を打ち見ているのは、心に香るものを確かめたいから。（アノ頬桁ガチョット過ギル面差シハ、神社ノ境内デ見レソウナ、火影ニ揺レルじゃがいもダケネ……、素晴ラシイワ！）。　兼用法

　ハンモックに揺られる女は小首を下げてうつうつとしているのだが、心が起きて体が眠っているのか、それとも体が起きて心が眠っているのか、先程の失態がよほど響いているように見える。長いこと墨守してきた弊習に穴が空いたようで、裏の婆のところに行き卜してもらう毎朝の定めも、もはや行うことはないだろうと弱気になっていた。　交差反復法