第2話
唯々として承諾する反面、胸底に潜む黒いものは反逆の炎をちらつかせていた。黒いヤカンから届いた文殻を手荒く把持したし──踏ミシダク彼ノぶらぁすち──、それに、左手にライターを持たせて火をつけることを付与した。 婉曲法
なあ、いかで乗り越えられるのだ? また、いかで乗り越えたらよいだろうか? ああ、いかで乗り越えよう。するめ臭い足で隅々まで触って。フィンまで声を振り立てて、無聊はない、震い付きたくなる劣情を抑えるのだ。 縁語
あなたは遺憾だと思われるだろうが、実際私もその結果について遺憾であり、どんないかんも拒否して再び事を始めるべきだ。営々とそのヴィルクングをまわりに触れ込んでいけば、いつかは彼らを腑分けすることになるはずだ。すれば、彼らとの紛糾はもう起こらないだろう。 縁語
如何に解決しようとも、如何せん体が言うことをきかない(精神ト身体ガ吻合スレバ、二階ノ紛雑ヲ、種族間ノ紛擾ヲ、ウマク取リ計ラウコトガデキルノダガ……)。 音彩法 同母音反復
左様なことで、作法に適った威儀さながら、砂防を重々しく乗り越える(何故ノ奮戦カ? 奮然トシテ足ヲ歩ヲ進メル? 決マッテイル、紛然タル社会秩序ヲ変革スルタメ)。 音彩法 同子音反復法
寄居したくとも依拠する人がおらず、空虚を感じるばかりだ。ならばせめて、陽気な道化師にでも扮装するか。顔にきつく粉黛をほどこし、そして、現代の文物をさらりと諧謔しよう。 音彩法 類音語反復
いざいざ田んぼに向かい、土壌に愛情をこめよう。インフォルマシオンに乱され、紛々としたカベサの中を──粉本ニシタ多種多様ナしぃうだっノ景観ガ飛ビ交ウ──雪ぐのは自然だ。誰でもない、自ら溜めた憤懣はオトロスにあててはいけない。 掛詞 兼句
日頃は口数の少ない無気力な女も、勇み立ち、こめる憤怒を放散させて声を荒げた。手袋に非があるのは分明だ。奮励しているニット製造を貶み笑ったのだから、身に纏っている弊衣を笑われるよりなんて痛みがあるだろう。 掛詞 接気掛け
あの女には腹が立った。見下げた目でわたしを見やると、かすかに溜息をもらして、右手で叩きなさい、左手は布団を飛ばないように抑えなさい、ほら、そこ、それではだめよ、頭がわるいんだから、これぐらいもできないんなんて、だから、そこよそこ。引っ掻くように尖った顎を動かしてわたしを頤使したのだ。兵戈を立てようか、平滑な氷の表面を事件へと滑ろうか──睥睨スル鬼ノ眼・ 活写法 現在形の使用
蹲っている子供に近づいて、「どうしたの?」、「おなかが痛いの」、「薬は飲んだ?」、「持ってない?」、「これを飲みなさい、よく効くわよ」、ブレザーの内ポケットから鹿の糞の形した錠剤を渡し、子供の頭を撫で、悲痛な面持ちを浮かべて慰藉した。それは、ところてんに広がる煮汁の平沙は砂でなく、砂礫の流動が閉止したある種の停滞から、地下水脈が地上へと勢いよく迸出する頭の禿げ上がった政治家の弊政の残滓だろう。 活写法 対話形式
好適な投資先を見つける、現地の有力者との橋渡しをする、笑顔で迎える、美味な饗宴を設ける、条件の良い形で権利を手に入れる、これが彼に異数の俸給を取らせた理由だ。好機を迎えて、わざわざ隅に隠れて屏息することはない(むぅじぇすとゔぁトとぅるぅさすちヲ並ベナイ)、平板なほど相手を喜ばせる。一人広漠とした平蕪に立ちながら、雑草と風と語り合いながらノートに書き記した。 括約法
引きつった咆哮、拉げた怒声、肉に打ち付ける鈍い打音、何かを破る居たたまれない破裂音、これらの音が女を居竦ませた。この街の弊風は女にとって 平明すぎる人生の説法だった。その観点からすると、女の信条はどれも弊履なものにすぎない。 括約法
とても見ていられない、そんな君のために一緒に涙を流そう。周囲に気にかけず、憚ることなく涙で傷を洗えばいい、雨脚は君をぼやけさせてくれる。雨声は共に嘆きをあげてくれる。そんな労しく思ってくれる空があれば、この砂漠の横断も楽になるだろうに。あまりの熱波に辟易してしまい──僻遠ノおあしすヲ目前ニ枯レタかだべる──劈頭から挫けてしまう。 活喩
今目撃した光景に目をつぶり、男を見逃してやりたい。一脈の黙認劇が胸底からふつふつ湧き上がるのを女は確かに自覚した──広大ナ碧落ニ目ヲ奪ワレテ、瞥見スルコトモデキナイ──別懇になりたかったから。 活喩
思いもしなかった。拳を振り落とす素振りなく、睨むもことも罵ることもせず、恥ずかしげに一揖したのだ(コレトイッテ別段ナ気立テガアルワケデモナイクセニ、箆棒ナ寛容ヲ見セルトイウノカ、気勢ガ縁カラ腐食シテイッチマウ)。 換語法
待ち合わせ場所に着いてみれば、山田がいない、佐藤がいない、田中も鈴木も後藤もいない、ただ加藤一人だけ、西本が来たことを喜んで和やかな微笑を浮かべて立っていた。絵の具、ティッシュペーパー、タッパー、釘、陶器の片影は薄情で、変改しなかった小麦粉だけが変幻のない誠心を備えていた。 換語法
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます