第5話 ドキドキ初デート その5

 あれからどれくらいの時が経っただろうか……

 俺は未だにメイド服のファスナーを上げられずにいた。


 如月さんは恥じらいが混じった声で、


「きょ、恭介君。恥ずかしいから、はやく……あげて……」


 俺だってはやくファスナーを上げて、この目隠し状態から解放されたい。そして如月さんのメイド服がみたい。

 だけど……この二人羽織、極限に難易度が高いんだよ。

 俺は如月さんに打開策を提案することにした。


「あのさ……如月さん」


「なに?」


「目隠ししたこの状態じゃ、俺はファスナーをきっとあげられないとおもう。だからさ……」


「だから?」


「ここはおもいきって目隠しをとっちゃうっていうのはどうかな?」


「うぅ……」


 返答は中々こない。

 表情こそ見えないが、そこまで悩む必要がどこに……

 すると如月さんは、


「私だって今の状況恥ずかしいだよ。だけど、絶対だめ。恭介君、エッチなこと考えてるに違いないもん」


「いや、そんなことは……」


 それにしても先ほどから如月さんの声が俺の耳元から聞こえてくるのが気になる。

 それに俺の胸にあたるこの柔らかい感触。

 鈍感な俺でも、俺と如月さんがどのように相対してるのいるのか薄々わかってきたけれど、わかればわかるほどドキドキしてきてしまう危険な状況である。

 この状況早く打開しないと、とんでもないことが起こる予感がする。


「わ、わかった。じゃあ、あと一回だけ頑張ってみるよ」


「うん」


 とは言ったものの、そう簡単にファスナーを上げることなどできるわけがなく、無情にも時間は過ぎていって……

 どれくらいの時が経っただろうか……如月さんに異変が起こり始める。


「ねぇ、恭介」


「へっ? 恭介って……如月さん?」


「もっと楽しいことしよ?」


 突然俺の事を呼び捨てにする如月さん。

 目隠ししているから彼女の表情はわからないが、この艶やかな声色とエロチックな雰囲気。

 俺はどこかで似たような経験をしたことがある。


 彼女は俺の頬に手の平をふれさせて、


「我慢してたんでしょ? 私が解放してあげるからね」


「な、なにを解放するんだよ?」


「うふふ」


 そう言うと、彼女は自身の指を頬から喉元へはわせた。

 そして首、上半身へと滑らせていく。


突然の出来事に頭が追いつかず、微動だにできない。しかし脈は早まり、強烈な興奮が広がっていく。

 彼女が一体何をしようとしているのかわからないけど、このままでは……

 そして彼女の指が俺の下半身に到達し、如月さんは俺のズボンを下ろしていく。


「ちょっと、それはまずいって!」


「何がまずいの?」


「だってお店の中だし、美玲さんがいつ入ってくるかわからないよ」


「興奮しちゃうね」


頬を赤く染めた如月さん、いやサキュバスはこの状況を楽しんでいるかのようだ。


「恭介いいにおい、ずっとこうしたかった」


サキュバスは俺に身をゆだねて、甘く囁く。

俺の脳は完全にピンク色に侵食され、サキュバスのなされるがままとなっていた。


これが噂の魅力ってやつか。

どうなってもいいやと思った矢先、試着室のドアが急に開き、美玲さんが入ってきた。


「チ〇カス! 試着室で何やってるのよ」


「いや、何もしてないです。逆にサキュ、じゃなかった如月さんに襲われていたところですよ」


「って何であんたが試着室の中にいるのよ」


「それは如月さんが、ファスナーをあげられないって言うから手伝ってたんですよ。美玲さんこそなんてタイミングで試着室に入ってきたんですか?」


「私はあんたたちのことをずっと別室で監視してたのよ」


「監視って、美玲さんのお店だけど、そこまでしていいですかっ」


「いいのよ。ここは私のお店。いわばここは私の国。私は女王様。なんでも許されるのよ」


「いやいやいやいや、そんなことは許されるわけがない」


 まるで暴君のような発言を続ける美玲さん。まぁ、美玲さんのおかげでサキュバス状態の如月さんを回避できたのだが。

 それにしても監視してたって、如月さんの着替えを覗いてたんだな。


「っていうか。ちょっと目隠しとってごらんなさい」


 美玲さんの言葉に感情がこもっていないのが気になったのだが、俺は言われたとおり目隠しをとった。

 そしてあたりを見回す。


「な、なんて……」


 目に映ったのは上半身をはだけさせ、なんともエロイ恰好をして恥じらっている如月さん。いつのまにかサキュバス状態ほ解除されたようだが……

 そして目を血走ばらせ激怒している美玲さんがいた。


「あんたは如月ちゃんにこんな恥ずかしい恰好をさせて……これでも言い逃れをするつもり?」


「いや、でも……。別室で一部始終を見ていたんですよね。それじゃあ……」


「うるさい。だまれ。変態!? 自分は目隠しをして、〇〇〇させようとしていただなんて、どんな変態プレイよ! もうっ、おさかんだからって、場所をわきまえなさいよ」


 やばい美玲さん……俺の発言をオール無視でマシンガンのようにしゃべり続ける。


「やっぱり私の目に狂いはなかったわ。ち○カスはやっぱり極めて特殊な変態だったのね」


「もう変態でもなんでいいんですが。こんな状況じゃ、信じてもらえないかもしれませんが断じて違いますけどね。これには深いわけがあって」


 とは言ったものの、如月さんのトランスのことは言えないしな。


「どんな深い理由があるのかしらね」


 美玲さんは完全に不審者を見る目で俺を睨んでいる。俺はこのお店にはもう立ち入りできないと覚悟した瞬間。

 如月さんが。


「美玲さん、やめて」


 如月さんが弱々しい声で美玲さんに訴えかける。


「如月ちゃん、どうしてこんなやつをかばうの?」


「美玲さん、恭介君を悪者扱いしないで、私がお願いしたの本当だから……」


 と、如月さんが俺のことを釈明くれたのだが、顔色がどんどん悪くなり後に続く言葉を発せられなくなり。

俺と美玲さんは心配の声をかける。


「如月ちゃん、如月ちゃん!?」


「如月さん! 大丈夫!?」


「うん、今日はいろいろ刺激的だったから、ちょっと疲れただけ、休めば平気だから、メイド服も今度着てあげるから、美玲さんこの話はおしまい。いいよね?」


「まったく、今回は如月ちゃんに免じて許してあげるわ」


 渋々承諾する美玲さん。

 というわけで俺への冤罪は回避できた。

 そして如月さんのメイド服姿を拝むのも当分の間お預けとなったのである。


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