第4話 ドキドキ初デート その4

 如月さんは今、俺の目の前にあるドアの向こう側で着替え中である。

 まさか俺が女の子の試着に立ち会う日が来るとは思っていなかった。

 カサカサっと音が聞こえてきて、思わず聞き耳を立ててしまう。服が擦れる音がしているだけなのに、こんなにもドキドキしてしまうなんて。俺の頭の中は体育倉庫での出来事がフラッシュバックし、どんどんピンク色に染まっていく。

 俺はすぐに我に返り、雑念を振り払う。

 駄目だ、如月さんでエッチなことを考えてしまった。今は如月さんとデートを楽しむことだけを考えないといけないなのに。

 と考えていた矢先、試着室の中から如月さんの声が聞こえてくる。


「恭介君、今何考えてた?」


「へっ?」


 思わず変な声をだしてしまった。

 如月さんでエッチな妄想をしていたのがばれたのか!?

 もしかして如月さんってエスパー?


「恭介君。聞いてるの?」


「はいっ! 如月さんでエッチなことなんて考えてませんっ」


「何いってるのよ。そんなことわかってるから。仮にエッチなこと考えてたら、今日から恭介君のこと、変態君って呼ぶことになっていたけど」


 よかった。

 俺がエッチなことを考えているのがばれたわけじゃないのね。

 だけど最近妄想が激しいから自重しないと。


「恭介君。美玲さんってタイプなの?」


「な、なにを突然言い出すんだよ」


「だってすごく楽しそうに会話してたから……」


 あれを楽しいというのか?

 チ〇カス、チ〇カスって連呼する電波をあしらっていただけなのだが、しかし如月さんには楽しく会話しているように見えたってことだよね。


「私、美玲さんみたいにおもったこと、言えないから」


「……………………」


 俺が返す言葉を探していると、如月さんは続けて、


「だから、うらやましかった。私……も、美玲さんみたいになりたい」


「駄目、絶対駄目っ! 如月さんが美玲さんみたくなったら俺はもう立ち直れないよって」


 俺はそう言った後、店内へのドアへ顔を向ける。


「よかった。美玲さんいなくて」


こういう時って必ず本人が聞いているんだけよね。自ら死亡フラグを立てたかと思ったが大丈夫のようだ。


「恭介君、どうしたの?」


如月さんが疑問符を俺に投げかける。

俺は思っていることを正直に伝えた。


「だって美玲さんが聞いてたら面倒くさいことになるじゃん」


「そうなの?」


「そうだよ! なんかそう言っている間にどんどんフラグを立てている気がするけど」


「よくわからないけど、わかった。それじゃあ、恭介君の好きな人のタイプ教えてっ」


「俺のタイプなんか聞いてどうするんだよ」


「いいのっ。早く言って」


「だからさ、俺のタイプは」


 うぅー。改めて口にするのは恥ずかしすぎる。

 俺は典型的な日本人だな。


「うぅ……タイプは……」


 如月さんが催促してくる。


「早くっ、言って」


「如月さんがタイプだよ」


「ほ、本当?」


「うん」


その後如月さんからの返答が途絶えて、気になった俺は試着室に耳を澄ませると「うぅ……」とか「もう、恭介君ってば」と声が聞こえてきた。俺の返答がまずかったのだろうか。

それからしばらく経って、如月さんが声をかけてくる。


「き、恭介君の言葉信じてみる。メイド服楽しみにしていてね」


 それからしばらくの間、俺は待合室でドキドキしながら待っていると、試着室の中から、


「恭介君、試着室のドアの前に来てくれる?」


 俺は「わかった」と承諾し言われた通り、試着室前にいく。

 すると試着室のドアが急に開き、俺の服の袖を掴む。

 そして間髪入れずに試着室へ引っ張りこまれた。

 頭の中が整理がつかず、試着室の中を眺めるのだが。

 そこには恥ずかしそうに両腕で体を隠す如月さんがいた。


「ど、どうしたんだよ如月さん」


「あのね、お願いがあるの」


「お願いって?」


「まずは目をつぶって。話はそれから」


「なんだよ。試着室にひっぱられたかとおもったら目をつぶってって」


「だって恥ずかしいだもん。早くっ」


 俺は如月さんの言う通りに目をつぶる。


「目をつぶったよ」


「絶対あけちゃだめだからね」


 すると如月さんは俺の目に布らしきものをあて、俺の頭の後ろで強く結んだ。


「き、如月さん一体何を!?」


「絶対外さないでっ」


 わかったけど、一体これってどんなプレイだよ?

 俺はなぜ試着室に呼ばれたんだ? 如月さんに疑問を問うた。


「それでこの後はどうすればいいの?」


「背中の、ファスナーあげて欲しい」


 なるほど、ファスナーを上げて欲しいのね。

 それで恥ずかしいから俺に目隠しをしたのか。


「そんなの美玲さんにお願いすればいいのに」


「あの人は絶対だめっ。怖いもん」


「たしかに……」


 美玲さんは可愛い子への執着がとんでもない方向に向いている。

 二人きりにしたら何をしでかすかわからない。


「それじゃあ、ファスナーあげるよって、目をつぶってるから難しくないか」


「大丈夫。私が誘導するから」


 誘導って……なんか二人羽織のようなことになってきたぞ。


「それじゃあ、私が動くからそのまま動かないで」


「わかった」


「準備出来たよ。恭介君、動いていいよ」


 俺は今なぜか上から手をまわすような感じになっている。

 ファスナーを上にあげるだけなら、上から手をまわすことはないはずなのだが。

 胸にあたる柔らかい感触、それに首元に息が吹きかかる。

 この状態謎すぎる。

 恐る恐るファスナーを探っていくのだが、柔らかい何かに手が触れると、

 如月さんの体がびくんと震える。


「き、きょうすけ君……そ、そこはだめっ。くすぐったい」


「あっ、ごめん」


 目隠ししているし、この二人羽織は究極に難易度が高い。

 俺一体何してるんだろうね?

 こんなところ美玲さんに見られたらやばいじゃないか?

 と思っていた矢先……

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