第11話 僕と学校と判明と親交 -03

    三



「そんなことがあったのか。いやはや、もてる男は辛いねー」

「どこをどうすればそうなるんだ……」


 食堂。

 一般生徒が多数昼食を取るその場所の中央付近の場所で、僕は、はぁと溜息をつく。

 その僕を見て目の前の少年――高見たかみ広人ひろとは、あっはっはと笑った。

 彼は僕の友人だ。席も僕の右後ろと近い。入学式以来の仲だ。

 広人はカツ丼を頬張りながら、うどんを食べる僕に、じとっ、とした目を向けてくる。


「しっかし、つくづく女にもてるよなぁ」

「だから、あの話のどこが女にもてる男の話なんだよ?」

「だってよ、他の人とは必要なことしか話さない真美、奈美の双子姉妹と話しているんだぜ。絶対に二人はお前にほの字だって」

「それは、あの二人と仲がいい鈴原さんがいたからだろう。そういう惚れた腫れたはよく分からないけど」

「鈍感」

「さっき真美に言われたな、それ」

「マジか」


 あははと広人はわざとらしい笑い声をあげると、にやりと嫌らしい笑顔を向けてくる。


「じゃあ、その鈴原さんは?」

「それはないんじゃないかな? がっつり会話したのも昨日が初めてだし」

「そうなんだ。何で急に昨日からそんな仲が進展したんだ?」

「あぁ、それは……初めから説明するとさ、実は昨日、鈴原さんとは線路の下で会ったんだよ」

「へぇ……って、は?」


 彼の箸が止まる。

 無理もない。僕は突拍子もない非現実的な話を淡々と語ったのだから。処理するまで時間が掛かるのは仕方のないことである。

 ようやく話も口にしたカツも飲み込んだのか、少し低いトーンで問い掛けてくる。


「……何で線路の下なんだ?」

「落とされたんだよ。後ろからね」

「犯人を見たのか?」

「いや、僕は見ていない。だけど、鈴原さんは見たらしいよ」

「……犯人をか?」

「いや、犯人の腕だけらしい。あと他の手掛かりはその人が付けていたという腕時計だけだそうだ」

「へえ、それじゃあ分からないな、犯人が誰かは」


 少しだけ声のトーンが戻る。もしかすると冗談に聞こえたのかもしれない。

 それならばそれでいい。

 話している途中で気が付いたが、広人に心配を掛けるようなことを口にしてしまっていた。ならばこのまま微妙な形で終わらせるのもありだろう。

 広人のカツ丼がちょうど無くなるのを見て、僕は最後まで残していた油揚げを胃の中に収め、手を合わせる。


「ご馳走様でした」

「あ、ああ、ご馳走様」


 広人も同じように手を合わせ、二人して席を立つ。


「この後どうする?」

「うーん……運動、って感じじゃないし、腹ごなしも兼ねて屋上まで行くか?」

「屋上で叫ぶのか。広人、頑張れ」

「そんなことしたら封鎖されるじゃねえか、屋上。風に当たりに行くだけだよ」

「風か。たまにはいいな。午後の授業の前にさっぱりするのも」

「お前……高校生らしくねえなあ……」

「よく言われる。お前から」

「だよな。はっはっは」


 そう笑い合いながら、僕達は屋上に向かう。

 何一つ変わらない、いつもの日常だ。

 広人との友人関係も含め、いつも通り。


 ――この日の放課後まで、そう思っていた。

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