彼女は最後まで歌い切った後、その場に倒れた。

 遊び疲れて眠る少女のような死に顔を見せている。


「もう『死』をテーマにするのはやめましょう。リストカットでも人は死ねるんです。いくらあなたが死を表現する音楽家だとしても僕は……好きな人が苦しんで死ぬ姿なんて見たくありません」


 返事はない。

 今さら何を言っても無駄なのだ。

 だって彼女は終わっているのだから。

 腕に巻かれた血まみれの包帯がそれを物語っている。


「自殺遊戯は遊戯であって自殺ではありません。というか、勝手に終わらせないでください」


 眼帯少女、もとい、茨木さんが息を吹き返した。


「え、なんで……? でも、その包帯は」


 それを聞いた茨木さんは、ぐるぐる巻きの包帯を取って見せた。

 その下に隠れていたのは、傷一つないケチャップまみれの腕だった。

 驚きと恥ずかしさのあまり、開いた口が塞がらない。

 そんな僕を見て、耳を真っ赤にさせた茨木さんが言う。


「終わらせませんよ。まだ始まってもいないのですから」


                 了

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

短編小説『ロッキンホース・ロックンロール』 川住河住 @lalala-lucy

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ