第9話 4月1日(木)美紀がやってきた⑤

 僕はその疑問を美紀にぶつける事にした。

「あのさあ、美紀はどこの高校に行くんだ?」

 姉さんも僕に続いた。

「そうそう、私も気になっていたんだよね。父さんも教えてくれないし、母さんだって『美紀ちゃんが来れば分かるわよ』としか言わないし・・・さっきから何回か美紀ちゃんに聞いたけど、うまく話題を変えられて結局教えてくれないから、じれったいわよ」

 これを聞いた美紀は、頬を指で軽く引っ掻きながら

「あー、それね・・・えーと、まあ、いいかあ。そろそろ教えてやるよ」

「え、どこどこ?早く言って。ねえ。早くゥ」

「まあ、って言うだろ?今から制服に着替えてくるから、ちょっと待ってろよ」

 そう言うと、眼鏡をテーブルに置いて居間を出て、小走りに階段を駆け上がって行った。美紀の姿が見えなくなると、姉さんが小声で僕にこう言ってきた。

〈猛、どう考えてもトキコーは無いわよね。〉

 トキコーとは、姉さんが進学する私立札幌時計台高校の事だ。道内有数の進学校で、もし美紀がスピードスケートをやめるのなら、スポーツ特待生で入学するとは考えられないからだ。

〈ああ、僕も同感。なんだ、あのってのは?の間違いだよ。それにあれはTPPだろ?さっきの話のやつは〉

〈だよねえ。そこは昔から変わってないわね〉

〈だよなあ。2桁同士の掛け算を解くのに3分位かかってたよなあ〉

〈でも、どこの学校かな?札幌北部高校かな?あそこのセーラー服は愛いのよね。あと、私立日本海大学高校のスカートは私の好みなんだけど、猛はどこの高校だと思う?〉

「・・・・・」

 まあ、僕はあまりこだわりがあるタイプではないし、それに美紀がどの高校の制服を着ても似合うとは思えないから気にならないかな、とか考えていたら、階段を下りてくる音がしたので、ふたりとも、廊下の方を見た。

 そして、ゆっくりと美紀が居間に入ってきた時に、僕と姉さんは絶句し、タイミングを合わせたかようにこう言った

「「・・・・それって・・・それって・・・トキコーの・・・」」

「だろだろ、驚いただろ?だから2人を驚かせようと思って黙ってもらってたんだよ」

「じゃあ、やっぱりスポーツ特待生で入学したの?」

「いや、一般受験だ。北海道の有名私立高校の多くは、本校や系列校以外にも、主な都市の試験会場で受験できるだろ?あたしは釧路で受験したんだ。これでも6年の時から塾に通っていたし、他にもネットとか通信教育で頑張ったんだぞ。すごいだろ!一応、札幌誠心女学院と釧路北洋高校も受験して全部合格したんだけど、トキコーにしたんだ。まあ、本当は札幌誠心にするつもりで頑張ってたんだけど、お母さんに2人ともトキコーを受験するって聞いたから、滅茶苦茶頑張って、ホントに奇跡が起きて合格できたんだ」

「うん、たしかにすっごい!おめでとう!美紀ちゃん」

「おう、サンキュー、みっきー。これで5日は3人で入学式に臨めるわけだな」

 最後に美紀は満面の笑顔で僕と姉さんにこう言った。

 そう、この言葉に間違いはない。僕も4月から新1年生としてトキコーに通うのだ。つまり、僕らは同級生だ。でも、僕と姉さんは双子でもないし、義理の姉弟でもない。姉さんが4月生まれで僕は3月生まれというのが理由だ。それ故に、僕と姉さんが同い年であるのはのだ。だから、事情を知らない人に「双子さんですか?」と聞かれた事は多々あっても、「どちらが4月生まれですか?」と聞かれたことはないのだ。

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