第8話 4月1日(木)美紀がやってきた④
結局、お昼は美紀の希望通り恵南にあるファミレスに行く事となり、母さんの運転で出掛けた。そこでも女子トーク炸裂で食べ終わった後に2時間以上も話し込んでいた。まったく、この人たちは、ドリンクバーを何杯飲めば気が済むんだ?店員さんがジロジロ見てたのに気付いてないのか?そのせいで、当初は美紀のベットなどを札幌へ買いに行くはずだったのが明日になってしまった。まあ、伯母さんが言うには、5日の入学式が終わった後の夕方の飛行機で帰るとの事だから、1日位遅れても問題ないのだろう。ついでに言えば、今は関東工場に単身赴任で行っている父さんも4日の夕方の飛行機で帰ってくると母さんから聞いた。父さんは6日の朝の飛行機で帰ってしまうとの事だが、その理由は、6日は夜からの仕事なので余裕を見て朝の便で帰るらしい。
そして・・・帰宅してからも話が途切れる事はなく、午後7時近くになって、母さんがそばを茹で上げ、それを全員で食べる事になった。母さんたちは「天ぷらそば」だけど姉さんは「かけそば」。やっぱり体重を気にしているらしい。でも、美紀はというと、なんと、「天ぷら&かしわ&ちからそば」。本人が言うには、食べても太らない体質らしい。そういえば、美紀は昼もスープバーとドリンクバーを何度もお替りしていたなあ。僕はというと「月見そば」。
まあ、北海道では当たり前の「引っ越しそば」を食べ終わり、後片付けも済んだ後、母さんと伯母さんは缶ビールとおつまみを持って客間へ籠ってしまった。2人共、500ミリリットルの缶を4本ずつ持って・・・って、おい、たしかに両方酒豪だけど、合計4リットルだぞ・・・これで済めばいいけど・・・。
そして、居間には僕と姉さん、そして美紀が残っている。2人はココアをカップに入れた後、スナック菓子を摘まみながらまた話し出した。いったい今日だけで何時間話しているんだ、こいつらは!ただ、1つだけ違うのは、美紀が眼鏡をかけている事だ。軽度の近視で、外出時はコンタクトだが、本来、家では基本眼鏡だと夕食時に美紀が言っていたのを思い出した。
僕はというと、コーヒーをカップに入れた後、ひたすらゲームをしている。カートレースをやっているんだけど、話し声が大きくて集中できず、ほとんど惨敗の状態だ。
「でさあ、美紀ちゃんは、どうしてうちから札幌の学校に通う事になったの?ねえ、猛も気になるでしょ?」
僕はゲームをやめて2人を見た。たしかにそれは気になっていた。
「それはさあ、あたしってスピードスケートの選手としては地元の摩周町では有名だったのを覚えているか?でも、もうスケートはいいかな、って思っているんだ。うちは知っての通り牛の牧場を経営してるけど、なんだったけ、PTAだったっけ?あ、PPMか、それが始まると乳製品の価格が下がるよね。そうなると、うちがいくらメガファームでも経営が傾くと思うんだ。だから、そうなる前に、うちの牧場に喫茶店か牛乳を使った洋菓子を売る店を作って地産地消の手伝いをしたいと思っているんだ。そう、あたし、パティシエになりたいんだよ。でも、摩周町にそんな学校はないだろ?釧路に行く位なら札幌だと思って、丁度1年前に家族みんなの前で『みっきーの家から通える場所の高校を出て、パティシエになる為の勉強をしたい!そして、うちに喫茶店か洋菓子店を作るんだ!』って話をしたんだ。お父さんは最初猛反対したけど、お母さんだけでなく、お爺ちゃんやお婆ちゃん、兄貴たちも賛成してくれたから、お父さんも渋々同意してくれたんだ。それで、お母さんから叔母さんと叔父さんに話をしたら即OKがもらえたんだ。だから、今、みっきーたちとこうして話ができるんだ。」
おいおい、PTA・PPMとはなんだ、とツッコミを入れたくなったけど、それを言ったら、今度こそ罵声を浴びせられるだろうからやめたけど、ふと、疑問が残った。
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