第7話 4月1日(木)美紀がやってきた③

 僕はこれを聞いて寒気がした。それこそ某歌劇団の男役の人が女性の語り口で僕に話しかけているとしか思えない。でも、目の前にいるのは美紀だから・・・何か言わないと・・・

 仕方なく、僕は声をかけた。

「や、やあ、久しぶりだね。うん、元気にしてたよ・・・それにしても、その、その・・・」

「『え、なあに、猛君』」

「母さんの言う通りだと思うよ。可愛くなったね・・・」

 しまった、と直感した。美紀は可愛いらしい、などと言われるのが大嫌いだったはずだ。絶対、この後に罵声を浴びせられるかプロレス技を仕掛けられるかのどっちかのはず。でも、さすがに4年もたっているから後者はあり得ないはずだが・・・。

「う~ん、さすがに猛は分かってるね。あたしの美貌に惚れたのかな?うん、私は猛の事が大好きだよ」

「ちょっと、おまっ」

「おいおい、顔を赤くするなよ。エイプリルフールに決まってるだろ。」

「勘弁してよー、心臓に悪いよ!」

「まあ、猛も既に知ってるとは思うが3年間お世話になるから、それこそ、優しくしてくれよな。みっきーも、そういう訳でよろしくな」

「こちらこそ、改めて、よろしくお願いします」

 たしかに、この2人、昔から仲が良かったから殆ど阿吽の呼吸で分かってるんだろうな。それに引き換え、僕は昔も今も美紀に振り回されている。成長してないのかな・・・。

 そう思っていると、チャイムがなった。窓からは三毛猫が描かれたトラックが見える。どうやら、美紀の引っ越しの荷物が届いたようだ。

 これを見た母さんと叔母さんは

「あらいやだ。三毛猫引っ越し便が来ちゃったわよ。猛、悪いけど玄関のカギを開けて頂戴」

「そうね。とりあえず荷物だけ降ろしてもらってからお昼ご飯にという事にしましょう」

 そう言ったら、今度は姉さんと美紀がこう言いだしたのだ。

「え、何?お昼は引っ越しそばにするの?やっぱり引っ越しの時はそばに」

「アホか、どうせならファミレスにしてくれ。あたし、ドリンクバーが好きなんだよね」

 はあ・・・まったく、これだから女子トークにはついていけない、と思ったが、さすがに伯母さんの前でそれを言うのは控えるべきだと思った。

 僕は仕方なく母さんに言われた通りに玄関へ行きドアを開けたら、三毛猫の絵のついた帽子を被ったお兄さんが2人立っていたので、荷物を運びこむ部屋を説明してあげた。母さんと伯母さんはすぐに来て2階へ行き、荷物を置く場所をお兄さんんたちにあれこれと指示していたけど、2人のはお喋りに夢中で結局引っ越し屋さんが帰るまで客間から一歩も出なかった。

 それで、引っ越し屋さんのトラックが動き出した直後、客間から美紀が大きい声でこう言ってきた。

「お母さーん、みっきーもファミレスでいいって言ってるからさあ、早く行こうよー。摩周にはないけど恵南にはファミレスあるんだろ?私、ちょっと期待してるんだよねー」

 これに続いて、姉さんまでも大きい声でこう言ってきた。

「そういう訳だからいいよね?母さん、伯母さん。あ、猛は勿論OKよね。こんな美少女2人のお願いを断るような男の子はいないわよねー」

 はあ、何を言ってるんだ、この2人は。でも、姉さんはたしかにトーチュウでは校内一の美少女の生徒会長として有名だったし、美紀も、最初はイケメンと見間違えた位だから、髪の毛をもう少し伸ばして、服装をメンズではなくそれなりの物にしたら、十中八九、美少女の部類だろうな。

 母さんたちもどうやら異論なさそうだから、ここは大人しくの意見に従おう、と思った。

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