第6話 4月1日(木)美紀がやってきた②
姉さんはその後も僕に適格な指示を出すと共に、自分も荷物を1階の母さんたちの部屋に持って行ったり僕の部屋に移したりしている。でも「僕の部屋もついでに片付けて掃除機をかけましょうか?」と言ってきたから、また『お宝』を見付けられても困ると思い、断固拒否して「午後から自分でやる」と言って事なきを得た。まあ、ほとんど片付いていて、埃取りの為の拭き掃除と床の掃除機かけ位しか残ってないけど。
そうこうしているうちに玄関が開く音がして、誰かの喋り声が聞こえた。それをきっかけに姉さんは下に降りて行った。残された僕は拭き掃除と掃除機掛けを一人で終わらせると、下に行ってみる事にした。
でも、階段を降りて玄関を見たら、おかしな事に気づいた。メンズのスニーカーが2組あるのだ。1つは僕の物だが・・・近づいてよく見たらサイズは僕の靴より1cm小さいだけだ・・・たしか母さんは、伯母さんと美紀が来ると言っていた。だとしたら、この靴は・・・美紀の物だとは思うが、いくらなんでも女子高生がメンズの・・・。
僕は恐る恐るといった感じで、そっと客間を覗いた。畳の上で4人が話し込んでいて僕に気付かないのが幸いしている。母さん、姉さん、そして伯母さんは確認できた。そして、もう一人、ちょうど僕に背中を向けて話をしているけど、その服は・・・どう見てもメンズの黒いセーターと紺のジーンズで、しかも僕とそう変わらないヘアースタイルである。それに・・・どう見ても、姉さんより背が高い。もしかすると、僕とそう変わらない位の身長ではないか?
あれは美紀なのか・・・いや・・・まさかな・・・。
僕は美紀の2人の兄のどちらかではないかと一瞬思った。だが、上の兄は4年前の時に今の僕より靴のサイズが3cmも大きかった。さらに下の兄は先月大学を卒業した新社会人で、父さんと同じ森崎乳業に入ったと父さん自身から聞かされたから、今日はどう見ても東京の本社で入社式である。となると、伯母さんがいるからには・・・美紀だ・・・。
僕は覚悟を決めて客間に入った。
そしたら、その背中を向けていた人物が僕に気付いたようでこちらを向いた。
あれ、こいつは・・・僕の知ってる美紀ではない・・・超イケメンに見えるけど・・・。
「よう、猛か?4年ぶりかな?相変わらずモヤシみたいだなあ」
と、まるで親戚のオヤジが僕に声をかけてきたような口調で話しかけてきた。それに、仮に女性だとしても声が低い。アルトか、あるいは女性のテノールか、そんな感じだ。
「ふふ、美紀ちゃんは相変わらず猛にはキツい事を言うわねえ」
「ばっか野郎、みっきーは猛に甘いんだよ!こんなモヤシもんが男だったら女のあたしはなんて表現すればいいんだ?」
僕は唖然として2人の会話を聞いた。たしかに・・・この超イケメン(?)は美紀だと認めるしかない。でも、どうみても男にしか見えないのだが・・・。
この僕の疑問を解消するかのように、伯母さんが僕に話しかけてきた。
「あらー、猛君、久しぶりね。ごめんね~、美紀は学校以外ではメンズの服しか着ないのよ。学校では仕方なくセーラー服を着てたけど、家に戻ってきたらすぐに着替えてしまう位に嫌いだったのよ。まあ、これはお兄ちゃんたちの影響かなあ?洋子はどう思う?」
「あら、そんな事ないわよ。これはこれで立派な着こなしだと思うわよ。それに、めんこいじゃない」
おいおい、こいつのどこが可愛いんだ?母さん、それはないだろ・・・それは美紀も同じ意見のようで
「伯母さん、頼むからやめてくれ。照れるじゃないか」
と反論した。
でも、姉さんまでが美紀の事を可愛いと言い、さらに
「まあまあ、でも、美紀ちゃんは背も高いし綺麗だから『男装の麗人』みたいで凛々しいわよ」
と言い出す始末である。さすがに美紀もこれには参ったようである。
「はあ、みっきーまで・・・正直、勘弁して欲しいぞ。まあ、これでも女だから、一応、女らしい言葉もつかえるぞ。『ねえ、久しぶりね、猛君。4年ぶりの再会といった所かしら。元気にしてた?』」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます