第2話 プロローグ 4月1日(木)その1

ブーブーブーブー・・・


どうやら机の上に置いたままのスマホのマナーモードを解除してなかったようだ。これが目覚まし時計代わりとなって僕は起きた。僕は机の上に置いてあった眼鏡をかけてから手に取ってみると『篠原洋子』と表示が出ていた。うちの母さんからだ。

「もしもし」

『たーけーしー!!母さんだけど、何か飛行機の到着が30分位遅れるって表示が出てたわよ。そんな訳で、未来にも伝えといてね。じゃあ、後はよろしく』

「え?ちょっと、おい、おい!」

「プープープー・・・」

 まったく、この人は、人の都合なんかお構いなしだんだから、って思って時計を見たら、もう9時を過ぎている。しまった、昨夜、ついレンタルDVDのアニメに夢中になって午前4時頃まで見てたから、7時に起きるっていう約束をすっかり忘れていた。

 僕はとりあえずカーテンを開けた。ここは札幌の近郊にある恵南市。「けいなん」ではなく「えなみ」と読む、人口約7万人の札幌のベッドタウンだ。もう殆ど雪は残ってないけど、まだ庭の隅には少し残っていたので、それが太陽の光を反射してキラキラしている。でも、そんな感傷に浸っている余裕はなかった。

 部屋のドアを開けて、とりあえず1階に降りた。まずは朝食を食べたいと思って台所へ行ったけど、今日に限ってテーブルには何もない。いや、正確には食べ終えたカップラーメンが1つと、使い終わったマグカップと箸が一緒に置いてあっただけだ。

「姉さん、食べ終わったカップをうるかしておかないと母さんにまた言われるよ!」

「あ、ゴメンゴメン。髪を整えたらちゃんと水に漬けておくから」

と洗面所から声がした。まったく困ったものだ。でも、その声の様子だと洗面台でシャンプーしてるようだ。

 ちなみに、姉さんは道産子弁を極力使わない。あまり理由を聞いた事はないが、思う所があるようだ。僕も少しだけ使うけど使い方としては中途半端だ。でも、それは母さんが原因だ。父さんは内地、正確には東海地方出身だからほぼ使えないというのが正しい。

 と、思いつつ冷蔵庫を開けたら、卵と食パン、牛乳を見つけた。仕方ない、有り合せの物で適当に作るとするかな。

「さっき、母さんから電話あったよ。飛行機が30分位遅れるからよろしくって言ってたよ」

「おっけー、おっけー」

と言いながら、少し前からドライヤーの音が聞こえる。まあ、姉さんに言わせれば髪は女の命。だから手入れをちゃんとしないと傷んで大変らしいが、どうもピンとこないなあ。

 僕は素早く卵を割り、牛乳を加えてパンを浸し、IHのスイッチを入れてフライパンを加熱してバターを溶かし始めた。タイムミングを見計らってパンを入れて焼きあっがたらシナモンと砂糖、と思っていたら居間に姉さんが入ってきた。姉さんの名前は未来。「みらい」ではない。「みき」と読む、我が家の長女だ。4月5日には女子高生デビュー・・・のはずだが、つい、この前まで通っていた恵南市立東中学校、通称トーチュウのジャージを着ている。え?・・・しかも、背中まで届く黒髪を何故か後ろで束ねている。え?え??

「姉さん、何でトーチュウのジャージ?・・・それに、その髪は?」

「え?だって今日は汚れてもいい恰好でって母さんに言われてるわよ。それより、あんたはまだ着替えてないでしょうが!人の事を言える義理はないでしょ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る