第1話

俺は中世ヨーロッパに似た雰囲気の町に立っていた。

どうやら、無事に異世界へ来れたようだ。だがしかし、問題はそこじゃない。


「へぇ~、異世界って初めて来たけど、こんな感じなのね」


なぜか俺の隣には、女神ハピネがいた。


「あの、ハピネさん?」

「ん、なに?」

「なんでいるんですか?」

「あぁ、あなた運が悪すぎて、ほうっておいたら、またすぐ死にそうだから」

「おい、ハピネ」

「態度の変化がすごいわね。言っておくけど、決めたのは私じゃないからね。文句なら上に言って」

やっぱり残念な人だ。


そのとき、空から一枚の紙が降ってきて、俺の手の中に落ちた。

なにかが書いてある。


通告


女神ハピネは、あまりにも女神としてなっていないので、今回の転生者と共に、下界へ追放する。

転生者が魔王討伐を成し遂げるまで、帰還を認めない。


最高神


「そもそも、あなたがあまりにも生前で不運だったから、仮とはいえ幸運の女神の私が」


「おい、残念女神、これ」


「ん?なによこの紙、通告?......」


通告文を読むハピネの手が、だんだん震えだし、顔が青ざめてきた。


「え...どういうこと...追放?...私が?...フフフフフフ」


とうとう現実逃避して不気味な笑いを始めたハピネを、周りの人間が冷たい目で見ている。子供の目を覆い隠す母親もいた。


「おいハピネ、とりあえず落ち着けって」


「落ち着けって...追放されたのよ。きっとこのまま、この世界でモンスターか荒くれものに殺されて終わるのよ」


現実逃避が終わって自暴自棄が始まった。


「諦めるなよ、ここで冒険者として成功して、他の神様を見返してやろうぜ。まずはギルドみたいな所に行って、冒険者登録をしよう」


すると、ハピネがこちらを見て。


「なんか今のあなた、すごくカッコよく見えるわよ」


「今のじゃなくて、いつもだろ?よし、まずはあのおばさんに、ギルドの場所を聞いてみよう」


なぜおばさんか。男に声かけて、相手が荒くれものだとマズイからだ。


「あの、すいません」


「あぁ!あたしに何の用だクソボウズ!ぶん殴られたいのか!」


これがゲームなら、こういうテロップが出ていただろう。


『荒くれもののおばさんが現れた』


なんで俺はいつも運が悪いのだろうか。


「ハピネ、助け...」


女神ハピネは、離れた気の影に隠れていた。


「てめぇ、全力退避してんじゃねぇ!このクソアマ!」


大きなマダムフィストおばさんのこぶしが飛んできたそのとき、俺は二回目の死を覚悟したが、そのこぶしは、何者かの手によって受け止められた。

見ると、それは純白の鎧で全身を包んだ騎士だった。


「ご婦人、町中での暴力沙汰はご遠慮いただきたい」


騎士の言葉に、おばさんは不満そうな顔をしながらも、こぶしを納めた。


「けっ!国家騎士が。クソボウズ、命拾いしたね。二度と気安く声をかけるんじゃないよ」


「あ、はい」


おばさんが去ると、騎士はこちらを向き、兜を外した。すると、現れたのは、銀色の長髪の美女の顔だった。


「大丈夫?と言っても、歳は私とそんなに変わらないか。この街には、さっきみたいな人が何人かいるから気をつけた方がいい」


「あの...」


「おっと申し遅れた。私の名はユリス、国家騎士でこの街の警護を任されている。君は...ひょっとするとこの辺りの人間ではないのかな?」


「え⁉あ、はい」


「なに、この辺りの者は国家騎士と聞いただけで嫌な反応をするのでね」


「あ、そうなんですか。俺は佐々木 妃っていいます。あそこに隠れているのはハピネ」


「おや、あの子も君の連れか。君達、この街に来たということは、冒険者を目指しているのかな?なら、まずはギルドに行った方がいい。ギルドは、この道をまっすぐ行って左に曲がると見つかるはずだ」


「ありがとうございます。ユリスさん」


「ユリスでいいよ。またどこかで会えたら、ゆっくり話そう。国家騎士を嫌わないやつは久しぶりだからな」


「はい、それじゃあ」


俺がユリスに教えてもらった道を行くと、ハピネが小走りに付いてきた。


「あの女騎士さん、いい人だったわね」


「そうだな」


「......多分あなたより年上よ」


「だから?」


「別にー」


なにか言いたげなハピネを横目に、俺はギルドを目指す。あのユリスからも、ハピネと同じようなオーラを感じたのだかが、多分気のせいだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る