139 『暇つぶし』
「さて、それじゃあ改めて説明させてもらおうか。まず、僕がやったことだけれど、一言でいえば、あの娘の力を解放してあげたってところかな?」
「解放? じゃあ、お前はあれが本来のレイアだとでも言うのか?」
あの巨大な蛇こそが、レイアの正体だなんて。いくらなんでも荒唐無稽すぎる。そもそも、レイアには両親がいるのだから、彼女がラミアなのは確定事項のはずだ。
「うーん、ちょっと言い方がおかしかったか。正確には、あの娘の中に封じられていた力、とでもいったところかな? 代々あの娘の一族には封じられているんだよね」
「ふむ、なるほど、我と霜神の関係のようなものか」
「へぇ、おやおや、まさかお仲間……というか、似たような相手に会うとは驚きだねぇ!」
「まぁ、お主とは若干違うようだがの。我は人の念より生み出されたものだが、見たところそちらは違うであろう?」
などと、なにやら通じ合っている碌でもない存在達だが、今はそれどころじゃない。いつあの大蛇と化したレイアが来るかも分からない以上、無駄話をしている時間は無い。
「つまり、あの大蛇はレイアさんの中に封じられていたもので、あなたは私達との戦いの際にそれを解き放ったということですか?」
「ご明察。ただ、勘違いしないでほしいのは、アレは君たちの知っている娘ってことだね。僕が解放したのはあくまで力、あの力に意志とかは特には無いよ。まぁ記憶なんかは残ってるかもしれないけど」
「なるほどな。なら、レイアを助けるにはどうしたらいいんだ?」
これが一番重要な項目だ。正直、どうなっているかよりもどうやって助け出すかが一番必要なことだ。結局のところ、俺の目的はレイアを救うことなのだから。
そんな俺の返答に、ルキは嬉しそうに頷き、「青春だねぇ」と笑いながら答える。
「なに、簡単なことさ。今のあの娘は力に飲まれて暴走してる、だったら誰かがその顔をひっぱたくなりなんなりして、目を醒まさせてあげればいいのさ」
「なんだ、それだけでいいのか……」
どんな方法が必要か身構えていただけに、少し拍子抜けしてしまう。
が、続けて発された依織の言葉で、すぐにそれは誤りだと知ることになる。
「彰さん、これ、そんな簡単なことじゃないですよ。だって、よく考えてください、レイアさんが、いまどうなって、何処にいるのかを。顔をひっぱたくって、どうするつもりですか……?」
「……あ」
そう、今のレイアはあの大蛇なのだ。その顔、というのはあの巨大な頭部では無いだろう。ということは――、
「核となっているであろうあの娘を見つけ出し、そこで目を醒まさせるということじゃの」
「はい、大正解♪ 外から呼びかける程度じゃ無駄だろうねぇ。誰かが中に入って、直接あの娘に会ってあげないといけないだろうね。それも、しっかりと彼女の意識に刻まれているだろう相手が、ね?」
「なるほど、な……」
だったら、やることは決まったわけだ。
なに、やることはさっきとそう変わりはしない。核を見つけて壊すだったのが、核を見つけてそこに居るレイアを起こすことになっただけなのだ。
「さて、それじゃあ説明はこれでおしまい、僕はこれにてお暇させてもらおうかな」
「なっ、待て、お前は何のためにこんなことを……!」
「ははっ、最初に言ったとおりだよ――ただの気まぐれ、暇つぶしさ!」
最後の俺の問いかけにそう答えると、笑いながらルキは消え去る。もはやそこには最初から誰もいなかったかのように、その存在は掻き消えていた。
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