135 『巨大ロボ』
「は、なんだ、これ……」
眼前に広がる青い空に、見渡す限りの水平線。そして下を向けば、遥か後方に見える青い海。けれど、そんな光景が気にならないほどのものが今はあった。
それは、高層ビル程の大きさはあろうという金色に輝く巨大な蛇。
だが、それだけではない。
下を向いたとき、俺の目にはそれと同じ、いや――予想の埒外すぎたという意味では、それ以上に驚くものがあった。
「きょ、巨大ロボットだと……!?」
そう、巨大ロボだ。黒光りする重厚な素材で作られたそれはまごうことなき鋼鉄の巨兵。
眼前の大蛇よりは小さくも、それでも渡り合えそうなほど強大な鋼鉄の二本の脚は、とても頼もしい力強さがある。
が、ただ一つ、致命的な欠陥があった。――いや、この場合は『なかった』というべきか。
「なんで、腰から下しかねぇんだよ!?」
そう、俺の腰から下はロボの腰辺りに埋まっているものの、上半身は完全に剥きだし。
巨大ロボではあれど、腰から下のみというなんとも不恰好な姿なのだ。大きなロボット玩具の下半身に、小さな人間の上半身を無理やりつけたような状態である。
『仕方なかろう、我が完全に自由に動かせるのは、下半分のみなのだから。合体するといえど、お主のうちに封じられたほうからは魔力を引き出し役立てる燃料としか使えぬのだ』
「なるほど、それなら仕方ない、のか……」
『ほれ、そんなことより、くるぞ? 主導権は全てお主に譲ったので、好きに動くがよい!』
その空亡の言葉通り、輝く大蛇が俺へと迫る。このまま何もしなければ、生身のままの上半身に喰らいつかれてお陀仏だ。
「えぇい、こうなりゃ自棄だ! どうとでもなりやがれ……!」
どうやら、面倒なハンドルやレバーによる操作ではなく、俺自身が脚を動かすのに連動してこの巨大な脚も動いてくれるらしい。
「うぉぉぉぉお、喰らいやがれッツ……!」
埋まっていて動かないはずの足を動かすというのは変な感覚だが、こちらへ迫る大蛇の頭目掛けて、力いっぱい蹴りをいれる。
そして、次の瞬間、
バキン、という音が響いた。
「……はっ?」
それが、力いっぱい、蹴りぬいた結果である。
黒く大きく力強く、頼もしく見えていたはずの巨大な鋼鉄の脚は、あっさりと折れ、そして砕け散ったのだった。痛覚までは共有して無いお陰で痛みは無いが、黒い破片が舞うその光景に唖然としてしまう。
『呆けている場合では無いぞ、ほれ、またくるぞ!』
「ああっ、くそっ、どうしろって言うんだよ……!」
どうやら空中ジャンプが出来る超性能のようだが、流石に片足じゃどうにもできない。そもそもが蹴り飛ばしてもこっちが壊れるだけで無傷な相手にどう対応しろというのか。
「ぐっ……!」
なんとか身体、というか機体を逸らせて喰らいつきをかわすが、無事だったもう一方の脚を噛みつかれる。バキバキと、まるでプラモデルかのようにあっさりとロボの脚は砕け散った。
「なんだよこれ、張りぼてじゃねぇか……!」
海へと落ちる脚の残骸を見ると、あろうことか砕かれたその中身は空洞だった。重厚な鋼鉄のように見せて、その実態はガワだけで中はスカスカの張りぼてとか、こんなので一体どうやって戦えというつもりだったのか。
『くくくくっ、面白かったぞ、うむ!』
「いや、おい、ふざけてる場合じゃ……!」
愉悦を滲ませた声を響かせる空亡だが、こっちは余裕なんかない。というか、こいつも今は俺と一蓮托生のはずなのに、どうしてこんな余裕ぶっていやがるんだか。
『ふぅ、笑わせてもらったぞ。うむ、それでは、そろそろ本番といくとするかの』
「はぁ、今更なにを?」
言った瞬間、バシュンと射出された。――俺が。
「はっ?」
『やはり、キャストオフは浪漫じゃろ?』
迫り来る大蛇を捨て置き、巨大ロボから射出された俺の腰から下は黒い何か、空亡のよく使う靄のような何かで覆われていた。けれど、さっきのロボとは違い、感覚的に分かる。これがとてつもない力を秘めている、俺に与えてくれるということが。
『さて、それでは今度こそ戦うがよい。先ほどとは違い小さいが、機動性ならば折り紙つきじゃ。かわし、そしてお主の蹴りであやつを倒してみるがいい……!』
「あぁもう、簡単に言ってくれるな……!」
言いながらも、俺は大蛇のもとへと向かう。これならば、戦えるはずだ、と機体を胸に抱いて。
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