134 『力を一つに』
『……のう、いっそあれに喰われてみるというのはどうじゃろうか?』
「いや、それは勘弁してくれ……」
あんなのに飲み込まれたらひとたまりもない。たとえ咀嚼されずに丸呑みされても、結局は胃液で溶かされて死ぬだろう。いくらなんでも、そんな人生の終わり方は嫌だ。
『じゃが、今の我にできるのは、こうして逃げることだけじゃからな。それも、いつまでつづくことか。徐々にじゃが、あやつも力の使い方を覚えたのか、その身を最適化しておるようじゃからな』
「最適化?」
『うむ、ほれ、よく見るがいい。お主が最初に見たときと比べ、大きさが変わっておるのに気がつかぬか?』
そう言われてよく見れば、確かに最初に襲われたときに比べて小さくなっているようにも思える。あの時はいきなりなうえに一瞬でそこまで覚えているわけでは無いが、山ごと俺を丸呑みしそうだった、けれど今は巨大ではあるが山を飲み込む、とまではいかない程度の大きさに、かなりのサイズダウンしているようだ。
「けど、小さくなる分にはいいんじゃないのか? 相手が消耗してるから、ってことも」
『いや、全く消耗はしておらぬな。言ったであろう、最適化、と。単に大きすぎる身では我を捕らえるのに不便と、それにあわせただけであろうよ。その身を小さく、密度を高め、よりその性能を上げた、ということじゃ。このまま進めばいずれは我も捕まってしまうだろうの、流石に今の我ではあやつのように消耗無しの疲れ知らずとまではいかぬからな』
「おいおい、どうすんだよ、それじゃあ」
逃げるしか出来ないのに、いずれはそれすらも出来なくなるなんて。
『――とはいえ、手がないわけではない、お主の頑張りによるが、な』
「なんだと? 頑張りって、何をしろっていうんだ? 勿論、やれることなら手伝うが」
空亡が敵わない相手に何が出来るのか? 正直、俺がどうこうしたところで、この状況じゃどうにもならないようにも思えるんだが。
『なに、簡単なことじゃ。お主には、アレと戦ってもらうのじゃ』
「……え?」
なんだろうか、ありえないことを言われた気がする。……聞き間違いか?
『アレと戦ってもらうのじゃ!』
「いや、無茶言うな……!?」
『うむ、良い反応じゃな! まぁなにも無策で挑めというわけでは無いし、理由もあるのじゃ。我は言ったであろう、『今の我』では敵わない、と』
「あぁ、それは聞いたが……」
『ならば今の我ではなく、かつての我、つまりは封印される前の我ならば、あやつとも対等以上の戦いが出来るというわけだ』
「それは、そうかもしれないが、今更それは無理な話だろ……」
いくらかつての空亡が強くても、ここに居るのは封印されて弱体化された今の空亡だけだ。まぁ弱体化、といっても大概な性能ではあるけれど。
『ふむ、もっともな話であるの。確かに、今の我がかつての力を取り戻すのは難しいじゃろう。だが、分かれた力を一つに合わせる、ということは不可能ではないのじゃ』
「分かれた力を一つに……?」
『くくくっ、我の力の半分は、今何処にあるのか、考えてみれば分かるであろう?』
分かれた空亡の力。封印されているそれは、代々うちの、霜神の家系に受け継がれ、そして、いまそれが宿っているのは――、
「……なるほど、そういうことか」
空亡が言いたいことがようやく分かった。
それならば、確かに俺の頑張りによる、ということも理解できる。
『それでは、納得したところで、早速じゃが、合体なのじゃ……!』
そんな言葉が響くと共に、漆黒に彩られていた俺の世界は暗転する。
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