128 『意味不明』
『――して、今こそ相応しき姿へと成れ、蛇身創成の術!』
なんて、呪文が紡がれると奇跡が起きた。
白蛇の千切れた身体から、尾が生えてきたのだ。俺が手を繋いではいないのに。
『ふぅ、これでよかろう。本来は、人の子を同胞へ迎え入れるための秘術なのじゃがな。まさかそれをこのように使うとは、思いもよらなかったぞ』
「すまん、助かった。俺じゃあ正直、その場しのぎしか出来なかったんだ」
『よいよい、この場に辿りつき二人の祝福をするのが妾の役目じゃからな。できうることならその身を癒やすのもやぶさかでは無いさ。しかし、癒やしの術を使ったのかと思っておったが、また別な力じゃったのか』
「まぁちょっとばかり、変な力でな。それより、白蛇は大丈夫なのか?」
見た限りでは断ち切られていた身体から白い蛇の尾が生えて問題ないように見えるが、それまでに少なくは無い血を流していた。いまだ意識を失ったままであるのも気にかかる。
『くふっ、心配はいらぬよ。妾の魔力と、この娘の魔力が馴染むのに時間がかかっておるだけじゃ。それが終われば、元気に目を醒ますであろうよ』
「そう、か。それならよかった」
あの場を切り抜けるためとはいえ、白蛇の身体を断ち切ったのは俺なのだ。一応帰ってからレイアにもあの薬をまた融通してもらうつもりだったが、あれは人間の身体を作ることは出来ても蛇の身体はできそうになかったから。
『さて、では娘が寝ている間に聞かせてもらおうか、お主らの関係を。下手な言い訳や、嘘などではない、本当の間柄を、な?』
どこかからかうように聞いてくる着物蛇。ただ、本来表情の読み取れない筈の蛇頭なのに、その声や眼差しからは怒りではなく、面白がっているような印象を受ける。
「はぁ、やっぱそうなるよなぁ」
まぁ流石にあそこまでお膳立てされた状況で躊躇った以上、恋人として正式に結ばれるためにやってきた、なんて信じられるはずが無いだろう。
諦めて、俺は全部を話すことにする。目を醒まさない白蛇には悪いが、流石に誤魔化しきれるとは思わない。それに、形式だけとはいえ、やはりこんな形で結婚のようなことはやるべきではない。
「……と、いうわけだ」
そして、俺の話を聞き終えた着物蛇はというと、
『なん、じゃと……!?』
何故か、驚愕していた。目を見開き、その蛇の口の顎が外れるほどに大きく開いて。俺から伝えられた事実に驚き、そして固まっていた。少し、大げさ過ぎないだろうか?
「いや、そんな驚くようなことだったか?」
恋人でない、というのは流石にばれていた筈だ。確かに、恋人以外というと従者というのが一番ありそうなのかもしれないけれど。だからといってただの知り合いで縁があったから連れてこられたのは、意外でもそこまで驚くようなことじゃないだろう。
『ここが、当主試練の場所と思われておったなんて……!』
「えっ、そこなのか」
確かに、本来の目的とはかけ離れているとは思うが、それでも当主と認められるため、いうなれば箔をつけるためにこの場を訪れる、というのは試練という形式がある以上は、そこまで意外なものなのだろうか。
『くっ、だから人と蛇の男女でここを訪れるものがおらなかったのか! 妾も思っておったのだ、何故か男どおしでこの場を訪れるものどもが多いとは! あれは、同性愛ではなく、この地の役割を間違って認識しておったからか……!』
「お、おう……」
確かにそれは悲しくなるな……。
よく考えれば、こいつはここの管理者のような立場なのだ。なのにその役割が間違って伝わっていた、なんてことは存在意義的に色々な思いもあることだろう……。
「その、気を落とすなよ……」
なんて慰めるが、ここが『種族の壁を越えて結婚を誓う場所』と知られたなら白蛇の目的は果たせなくなってしまうだろう。つまり、この真実を知りながらも俺と白蛇はそれを周りに伝えることは出来ない、というわけだ。
「う、うぅ、ん? 一体、なにがどうなってるんだ……?」
そうこう騒いでいる間に白蛇が目を醒ます。そして、この場を見て戸惑う。
まぁそれも当然だろう。着物を着た白い大蛇が、その身体をうねらせながら嘆きを叫ぶ光景なんて、いくらなんでも意味不明だろうから。
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