093 『呼んでもないし、飛び出ても無い』

「それでは、私は暫く一人で色々やってみようと思います。最終日には、ちゃんと組んではあげますから、でき得る限り点数の方を稼いでおいてくださいね」


「むっ、あんたこそ、不甲斐ない結果だったら承知しないわよ!」


 なんて、声を掛け合い依織と分かれる。予選の間は二人でいるよりも、それぞれで相手を探して稼いだほうが効率はいいはずだ。


「さて、と。それじゃあ、誰に挑もうかしら……?」


 勝つのは当然だけれど、どうせ戦うなら、やっぱり歯ごたえのある相手のほうが面白い。予選通過が目的とはいえ、こういうイベントは楽しまないといけないわよね。


 なんて、考えながら相手を探そうとしていると、


「レイアさん、あたくしと勝負ですわ……!」


 なんて言葉と共にメイディがやってきた。――もちろん、あたしの返答は決まっている。


「望むところよ! 勝負はなんでもありの、戦闘でいいわね!」


「もちろんですわ! この戦いで、あたくしの実力を思い知らせて上げますわ!」


 そんなこんなで、あたしの記念すべき最初の相手は、メイディと決まったのだった。けど、ここで一つ問題が。


「けど、どうやって戦いの申請ってしたらいいのかしら?」


「そういえばそうですわね? この城の化身が、全てをとりおこなうと聞きましたが」


 そんな風に首をかしげていると、唐突にあたし達の間の床が盛りあがってくる。


「呼ばれて飛び出て、じゃん、じゃ、じゃーん! ジェーンちゃんだよ~♪」


 こうして、現われたのは予想通り、この城の化身と名乗った少女である。


 けど、呼んでない。というか、飛びでてというより、這い出てじゃないんだろうか?


「むむむっ、ジェーンちゃんに、何か言いたいことがあるのかしら? かしら?」


「……いや、なんでもないわ」


 何か言えばいうほどに面倒くさいことになる。そんな予感がひしひしとする。


「それより、あたくしとレイアさんの戦いはどうなるんですの?」


「あぁ、それはもちろん大丈夫よ! 折角の一組目の戦いなんだから、みんなが楽しめるように、盛り上がれるような場所でやりましょうか!」


 そんなことを言うと共に、指をパチンとならすジェーン。


 ――次の瞬間、景色が一変した。


「なによ、これ……?」


「なっ、何が起こったんですの……?」


 目の前にいるメイディも辺りを見回して戸惑いの声を上げる。


 気がつけば、あたし達はまるく囲われた広い闘技場の中心にいた。


「さぁさぁ、ここで思う存分、戦って盛り上げちゃって! ギャラリーの皆も期待してるわよ!」


 そう言って闘技場の周りを指し示すジェーンに釣られて目を向けると、先ほどまで一緒にホールにいたはずの少女達やママが、観客席に立っている。


 まさか、あの一瞬で、あたし達どころか、あの場にいた全員をここにつれて来たっていうの? いくらなんでも規格外すぎないかしら……?


「ほら、二人とも、細かいことは考えず始めましょう? あなたたちが望んだ戦い、折角この私が最高の場を提供してあげたんだから、しっかり盛り上げてよね」


 その言葉で、戸惑いが消える。


 色々と思うところはあるけれど、今は関係が無いのだから。


 そして、――そう思ったのは、相手も同じようだ。


「そういえば、こうして戦うのは、いつ振りでしょうか、レイアさん?」


「さぁ? けど、かなり久々な気はするわね。まぁ楽しませてよ、メイディ」


 気にするべきは、回りではなく目の前の相手のみ。


 意識を切り替え、同じく戦意の満ちたメイディと相対する。


「それじゃあ、始め~!」


 そんな気の抜けたジェーンの声で、あたしとメイディの戦いの火蓋は切って落とされた。

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