寓居の園の子どもたち2

 ルリエスハリオンのコントロールルーム内を、ハルタカの体躯がたゆたう。おびただしいまでのスクリーン群が、ひっきりなしに観測情報をこちらに見せつけては移り変わっていく。

 短い電子音が鳴り、視界の先でホログラムが人型の像を結んだ。

 粗くノイズにまみれたそのホログラムとは、見慣れた大人の姿――ラムダ担当管理官だ。


【――久しいな、ハルタカ四級生。こういう形で再会することになるとは、私も思いもしていなかった。だが健康そうで何よりだ】


 彼の言葉から、あちらにも自分の姿が送られているだろうことがわかる。なので少しだけ表情を緩め、応答する言葉を何とするか思いをめぐらせる。


「こちらこそ、ご無沙汰しております、ラムダ担当管理官。とは言え、今の状況は、ぼくの扱いを抜きにしても到底喜ばしいとは言いがたいですが……」


 皮肉を言いたかったわけではなく、そうとしか説明しようがなかったのだ。

 依然としてアガルタから生み出されたデブリ帯は地球軌道をめぐり続け、オービタルダイバーの基地は大人たちの領域から孤立したままだった。箱舟の脅威だって変わりない。自分たちは最悪の窮地を脱することができただけで、幕開けた動乱のさなかで溺れているに等しいのだ。


【ニルヴァ五級生の武装蜂起については、君からの報告を信じよう。残りの反乱分子に奪われたというタウラスポートについても、〈天蓋都市こちら〉から可能な限りで追跡してみよう】


 怒りも悲しみも見せない、他人事のように冷淡な言葉だけがネット越しに送り届けられる。彼の在席する〈天蓋都市〉は、ここより遥か遠い軌道にあるから情も届かないのか。


「――彼らを見つけたら、あなたはどうなされるおつもりですか?」


 驚くことに、何ら悩むことなく、すぐに応答があった。


【私にはどうしようもないことだ。管理者として、彼らの成長と動向を見守るのみだ】


 そしてハルタカにではなく、どこか遠くを見据えるような目をして。


【そこは君たちの世界だ。問題が起これば、結論を出すのも君たちの役割だと学んできたはずだ。ならば、君もその知識と経験を生かすといい。我々は、我々にできることをしよう】


 罰することなど考えもしなかったかの口振りで、遠い世界からこちらを眺めるこの大人は、ただ子どもたちに道筋だけを示した。

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