Orbiting-6: 次世代少女通信衛星機構
次世代少女通信衛星機構1
ぼくは一度だけ耳にしたことがある。ダイバーになる前も、なった後も、姉に対する評価は様々なものがあった。いいものも、そして悪いものも。
けれどもぼくが知ったそのひとつは、おおよそ考えもしなかった最悪の言葉だった。
〝――ルリエス、お前がやっているのはただの人形遊びだ〟
〝――いい加減、ハルタカをお人形扱いするのはやめなさい。その子はおもちゃじゃないの〟
当事者たるぼく抜きに吐かれたそんな言葉は、当事者たるぼくにも最初は意味が理解できなかった。そもそもぼくは人形でなく人間だったし、〝人形〟だなんて暗喩を向けられるほど心のない子どもなんかじゃなかったはずなのだ。
あれからうんと大人になった今なら、彼らの言いたかったことが少しだけわかった気がする。あれはそもそもぼくを揶揄した言葉ではなくって、ルリエスというひとりの少女がハルタカ少年を勝手に弟呼ばわりしていた事実に異を唱えていただけなのだ、と。
〝るーちゃん〟――ルリエスが胸の奥底に抱えていた闇を、ぼくも薄らとながら知っていた。この世界で生まれながらに生きがたい女性体たちは、自分を守るための術を小さなころから学んでいく。それはたとえば沢山の友だちだったり、規範と法を味方に付けることだったりした。
そう、ルリエスの場合、それがぼくだったのだ。
身近に手に入った都合のいいぼくに〝弟〟という役割をあてがって、自身は姉を演じるというあの行為が、彼女が生きていくために必要だったのだ。そしてぼくもそれを納得して、仕方がないことだと受け入れた。
ぼくがルリエスを慰めるための〝人形〟だって、あんな言葉を認めたつもりはない。
だって、今や血の繋がりだとか、愛だとか、そういう抗いがたい関係性が失われたこの時代にこそ、ぼくたちふたりみたいな、近しいけどあくまで他者である繋がりが必要だってわかっていたから。
でも、もしかしたら――いや、もしかしなくてもぼくだって同じなんだ。ヒトとしてのルリエスが現実世界から消えていなくなったあの日、ぼくも姉という都合のよかった〝人形〟を、彼女の記憶とともに取り上げられたと言われたら耳を塞いでしまいたくなるから。
この薬指に収まる銀色の輪っかは、証しであり、絆であり、そして呪いを形にしたものだから、未だに外せないでいる。
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