Orbiting-5: 孤独の星々、最後に瞬く星

孤独の星々、最後に瞬く星1

 奇しくも巡り会うことになった二基のASを伴い、ハルタカは地球軌道を遁走していた。

 程度はどうあれ、自分は人類社会を裏切った側と見なされているだろう。たとえ人類のためだったとはいえ、仲間を欺いてジェミニポートを出奔した身だ。

 あの時アガルタまで追ってきたニルヴァらも、奇しくもあの場で自分たちの出自を知ってしまった。その後に基地まで生還できていたとして、彼らがラムダ担当管理官に正確な事実を報告したとは考えにくかった。


「――廃虚化したアガルタの人工子宮プラントに潜んでいたのは、新種の箱舟だった。そいつに寄生された保育器は、ネットワークへのハッキング攻撃を行うための一種の装置だ」


【まったくもって最悪な展開ですわね。所詮は機械にすぎない自分たちでは〈楽園〉に踏み込めないから、人体からつくったASの偽物を踏み台にしようって魂胆。おぞましいにも限度がありますわ】


 他の兵器を乗っ取る機能を持つ箱舟たち。〈楽園〉がこれまで箱舟からのハッキング攻撃を受けてこなかった理由は、特定の量子情報を持つ生命体――つまりアリス=サットのみを認証するという〈楽園〉固有の衛星通信規格ネットワーク・プロトコルにあるとスプトニカは言っていた。


「スプトニカはあれを呪い――ウィルスって表現してた。実際に〈楽園〉のあの光景を見た今なら、呪いなんて表現しても不思議じゃないってわかったよ」


【お前も他人事みたいに仰いますのね。これが天敵であるASへの対抗策となり得ることが証明されたのです。箱舟どもが積極的に人類種を狩る理由ができたという意味でしてよ?】


 そう言われて、言葉がうまく出てこなくなった。

 回線越しにアーネが突きつけてきたのは、これまで思考から目を背けていた現実だ。もし箱舟たちが基地だけでなく、戦術的に人間そのものを襲うようになれば。それは同時にASという防壁すらも失わせることを意味し、その先にはもはや絶望しかない。


【〈楽園〉を寸断させたであろうそれらが稼動を続ける限り、わたくしたちASの迎撃網を箱舟たちは突破し続け、人類種の領域をも蹂躙するでしょうね】


 いつだったかスプトニカは言った。ASの目にしか見えないものがあるように、人間の目にしか見えないものもある、と。

 周囲に広がる宇宙はあまりに広大で、ちっぽけな自分に見えるものは多くない。ネットワークなしには救いの声すら届かない暗闇の中で自分たちは生きている。


 ――ならば、ぼくたちは生き延びるために何をすべきか。

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