発生点/転換点7
完全な黒一色に沈んだアガルタのシリンダー中空。唯一の光源である軌道甲冑VLSのライトがかすかな軌跡を描き、廃虚化したビル群の起伏を嘗めていく。
VLSはかなり乱暴な勢いで高度を落としていき、ブースターユニットからの逆噴射が断続的に瞬くと、その度に周辺の建造物を浮き彫りになった。
着陸地点は居住区の開けた一角だ。光源が弱く不明瞭ながら、長辺が一〇〇メートル近くある敷地内には、背が低く平べったい建造物が二つ並んでいる。
不時着したVLSは、機体を命綱で外灯に固定し、解装した船外服姿で緩慢い地面へと降り立つ。着地前のスラスター噴射が堆積していた粉塵を舞わせ、視界はまだ良好ではない。
白いVLSから下りてきたのは、白の船外服に青藍アクセントを持つダイバー――ニルヴァだ。分隊から離れての単独行動で、
ヘルメットと腕部に埋め込まれたライトで周囲を照らし、あるものを見つけたところでニルヴァが立ち止まる。外部通信が受信されたことを示す警告灯が、船外服の腕部で点滅していた。
【――ああ、やーっと繋がったぜニルヴァ分隊長! あの、さっきからルリエス分隊長の
「バカなのお前、こっちは忙しいんだよ! いちいち他所の隊のことまで連絡してくんなよ」
【でも、ひょっとしたらあのひとハルタカに掴まっちまって。ほら、もし言ってたとおりハルタカが反逆者だったとしたら、ルリエス分隊長の身の安全がヤバいんじゃ……】
「ハァッ? 軌道甲冑でも体術でもこの僕に引けを取らないあのルリエスだぞ? あんな女を相手に、あのメカおたくの腰抜け野郎に何ができるっての?」
【……ですがね、ルリエス分隊長も分隊から離れての単独行動中らしくて。ほら……ここって気味が悪ィっつうか、ずっと眠ってた何かが出そうって、他の連中もビビっちまって……】
相変わらず歯切れの悪い応答しかできない仲間たちに、ニルヴァには無用な苛立ちしか湧いてこない。
だが、次の行動を迷っている時間が今のニルヴァには惜しかった。
「――ハルタカがルリエスを殺すとか万に一つもないから。それより悪いんだけどさ、こっちはこっちですっごく懐かしいものを見つけちゃったんだよね」
【ええっ!? な、懐かしいって、こんなやべえときにそんなぁ……】
「学校だよ、僕たちが通ってた学校! ここにあの野郎が隠れてるかもしんないじゃん。僕の方は一〇分でさっさと調べ終えるから、それまではそっちで適当に持ちこたえておいてよ」
あまりに気楽な口振りで応答すると、再びライトで手元にあったものを照らす。
元は芝生状の床材で覆われていたであろう、敷地から突き出ている案内板だ。腐食もなく真新しい金属製の表面に、共用語文字で〝第二世代ダイバー調整局〟と刻印されている。
――僕がアガルタにいた頃、この学校ってこんなヘンテコな名前だったっけ? ダイバーなのに、第二世代って何なの?
幼年期の記憶を探るも、ニルヴァにははっきりと思い出せない。
――ううん、ぼくらが大人たちに疑問を持たないよう、洗脳してた可能性のが高いよね。
VLSに戻ってバックパックから刺股を取り外し、ぎりと握る力を強める。そして、ここでは亡霊めいた自身の姿を写し返すガラス壁を叩き割ると、ニルヴァは躊躇いなく建物内部へと飛び込んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます