⒋ 目視亜(4) 意外なる眼決増力

「はっ?何だその反応?てめぇみたいな奴に喧嘩売った覚えなんてねぇぞ?」


「何を言っても無駄です。判別など出来ないのですから、可能性のある人物を片っ端から処していけば良いだけのこと」


 もはや茶玉模様であるか無いか――、その部分を重要視する様子も無く、格好の特徴だけから目の前のフード女に突っ掛かるリンジー。


 それだけ彼女はある人物の始末に強く固執するがあまり、ベクトルが変な方向に曲がってしまったということなのだろうか?


 全てはあの日――、足を踏み入れてしまったがばかりに………例の人物はこれまた厄介な存在に目を付けられたものである。


(これは……、話にならねな…………)


 めめめがそう悟った瞬間――、間髪入れずにリンジーは飛び出した。


 先程まで優しく差し伸べていた筈の手は一様に指を揃え、手刀の形に構えては眼球を狙って突き出すように、勢いよくその手を前に突っ込んでいく。


 めめめが起き上がるよりも先にリンジーは四本貫手を仕掛けると、命の危機を感じた彼女めめめは防衛本能の如く咄嗟に身体が動き、小さい身体ならではの軽い身のこなしで地面に両手を付いてお尻を持ち上げ、両足で地面を強く蹴り上げては、まるで身の危険を感じた海老の泳ぎの如くCのポーズで後ろにジャンプし、それを回避する。


「ふぃ〜、あっぶね。小さい身体なりして無かったら片目潰れてたかも」


 慌ててめめめは立ち上がり、博物館この場はもはや安全では無いとばかりに離れることだけを考え、速攻で出入り口へと駆け出した。


「やってられっかってのッ!」


 ぼやくなり、彼女はフードの奥底で静かに神眼を開眼。


「………異能開門コンバート。伝承能力:【総視揮そうしき】を発動する。

 『目異A 宮ノ門のtrue leader 女王が命じるcommands.付近にいるThose in 者は私をthe vicinity, 守護せよprotect me』―――」


 何やらぶつぶつと顔を下にしながら呟くと、目力:【視食ししょく】を宿した神眼右目玉がぎゅるんと一瞬回ったかと思えば、一変して複数匹の子蜘蛛の集団を模したシルエットのような瞳孔に鶸萌黄色ひわもえぎいろをした、別の柄目の神眼伝承の一種へと転じる。


 彼女が【総視揮そうしき】と命名する目力とやらの力を解放した直後――、すぐに感じ取ったがこの場所へと駆け付ける。


「アーハッハハーッ!この私、【視檻オクーロック】の“ ”がまだ生きていたとは誰も予想していなかっただろう。

 だがしかーし、私は自らを牢獄の中へと閉じ籠り、堅牢な牢檻の中、風害をひっそりと耐え凌いでいたという訳よ!」


「――そうか。なら、奴の相手は任せた」


 突如として彼女は目の前に現れるなり、肘を曲げて両手を頭の上に載せてさながら頭の丸みを瞳に見立てて《見開いた目の形を表している》かのような奇妙なポーズを決めては、その腕の状態を崩さないままフードを抑えて両手を頭の上から顔前へと持って行ったかと思えば、再び頭の上に持って行くを繰り返し――、


 何度も何度も頭のフードを外しては被ってはをするその姿は、まるで目の開閉でもしているような―――


 結局のところ結論述べれば唯々ただただハイテンションにふざけているだけの……『お調子者な“ めめめ ”』に向かって、冷たい視線を向けながら素っ気ない態度でお願いをする。


「りょりょりょ、了解でェェ――――すッ!」


 冷たくあしらわれようとも、なんのその。


 相変わらずのお調子者は高らかに返事するなり、奴は神眼を開眼する。


 等間隔に縦縞模様の並ぶ瞳孔、灰色の虹彩の神眼が顔を出す。


「ここだけの話なんですけどね。実は私、そこらの神眼者プレイヤーとは上をいく〝覚醒者〟なんですよタハハハッ!あ、変な笑い方しちゃった。

 ……と言うことはですよ?捕縛することに特化した力だけで無くゥゥ~、更に上の力も使うことが出来るんですよねェェ〜。いやぁ~、THE選ばれし者って感じで格好良いカッチョイ――ッ!って思いません?

 その名も〈拷問極刑ごうもんきょっけい〉。これからお見せするのは、世界からの断絶。携帯中毒者にとっては、地獄も地獄の世界へと幽獄させて上げましょう」


 そう言うと、奴の開眼した筈の神眼の瞳孔に変化が起こった。


 牢の格子さやのような形の奥から、まるで炙り絵のようにじんわりと――苦痛に歪んだ泣き叫んでいる表情をしているようにしか見えない、囚われ人を模したシルエットの瞳孔が新たに浮かび上がると、【視檻オクーロック】の真なる異能が開花される。


「【視檻オクーロック】/{視束しそく} :〈拷問極刑ごうもんきょっけい虹彩離断こうさいりだん〉 〜霧視モヤ晴れぬ断絶世界ホワイトアウトの幽獄~」


 直後……、リンジーの視界上に白い空間が展開―――。


 どういう訳かそれまで博物館周辺にいた筈の人の存在が一瞬にして無くなり、それどころか周りの木々や建物、道路や空そのどれもが掻き消されたかのように〈景色〉が視界から消え、お調子者な“ めめめ ”とリンジーの二人だけがこの空間内に隔絶され、形として孤立存在している。


 目神ヘアムのいる天国さながら、そこには何も無いただただ真白な空間だけが……否――、それは濃霧の中での走行中、車のヘッドライトを上向きハイビームにした時に起きる現象のような………灯りが乱反射して、かえって視界が悪くなる《不快な眩しさ》が空間内で嫌という程に襲ってくる。


 更には目の焦点ピントが合わず、単眼複視の症状みたく《一つのものが幾つかに滲んでブレて見える現象》まで襲ってくる始末だ。


 実に視界がクラクラとする、この空間は一体………?


「突然ですけど――、《眩輝グレア》って知ってますゥゥ?まあ……端的に言えば『眩しさ』のことなんですけどもォォ。人が嫌だと感じる眩しさには大きく分けて三種類ありましてね。

 眩しさゆえに目の機能を生理的に損なう『不能グレア』。その不能グレア程では無いものの、視界の把握が難しいと感じる『減能グレア』。心理的に不快感を起こす『不快グレア』。大きく分けてその三つに分類される。

 要はこの空間はその三種類の眩輝グレアによって構成された、言わば〈眩輝空間グレアゾーン〉。

 私が視界に捉えた人間を私の意思でこの空間内へと拘置する拷問能力の一つさ。言っておくけど、目を閉じたぐらいで抑えられるような眩しさじゃないから。口で言っても信用出来ないなら、実際に試してみると良いよ。

 そしてこの空間内にいる者以外、ここで起こったことを目視することは出来ない為、ここなら存分に能力奮って暴れようとも、一般人の目を気にせず闘うことが出来る。

 ……って、この空間内でまともに闘えるのであればって話なんですけどねェェ〜!タハハハッ!」


「くッ、道理で先程から目がイカれてしまいそうになるのはそれが原因という訳ですか。なんと悪趣味な空間で」


「悪趣味ィィ~?それマジでこっちからしたら、最高の褒め言葉なんですけどもォォ~!だってこの能力を扱う神眼を宿している私には、他の人が感じるその『眩しさ』とやらが通らないから、向かい合うてきさんだけに集中して神眼回収に専念出来るんでねェェ〜!」


 そう言うと“ めめめ ”は更なる〈拷問極刑〉を解放する。


「【視檻オクーロック】/{絆視ほだし}:〈拷問極刑ごうもんきょっけい虎挟見トラバサ・ミ〉 〜虎視眈々と張り巡らせた罠の脅威〜」


 両足を挟むようにリンジーの足元から二つのトラバサミが現れては瞬時にとらえ、痛みで悲鳴を上げる間もなく、囲う様に檻が出現。


 中心に立つリンジーに向かって鉄の棒が一斉に迫っていき、その棒一本一本にギッシリと括り付けられた数多のトラバサミが彼女の身体中を喰らいに掛かった。


「ぁぁああああぁぁぁぃあああぁぁぁぁがぁああああぁぁぁぐあぁぁああああああぁぁぁ――――ッ!」


 身体のあちこちで金具が挟まり、その度に襲い掛かる大量の鋸歯。


 指程度の細さであれば軽く切断を起こし、身体を突き刺し、歯が喰い込む度に彼女の断末魔は止まらない。


「身動きの取れない状態――、嫌という程、万力の如く激しい痛みに縛られ続ける――。まさに分かりやすく《拷問》を体現した力が今見せたもう一つの〈拷問極刑〉。

 〈虹彩離断こうさいりだん〉が《精神的拷問》であれば、この〈虎挟見トラバサ・ミ〉は言うなれば《物理的拷問》。

 もはや私の術中に囚われている今、手も足も目も憔悴してまともに機能している筈も無い―――そんな身体状態で足掻こうったって、何をしようにもする手立てなんてありやしないよ」

 

「………」


 口を利く余裕も無いほどに疲憊ひはいした様子のリンジーは何も答えなかった。


「やっぱ、能力の力量差の前には戦維喪失するのも無理ないか。そもそもが〝眼決増力ガンギマリ〟したからと、神眼者しんがんしゃの誰もが【からねェェ〜。

 《力を得るだけの素質》が無いと、眼球の急激な活性化によって引き起こされる死体肉体の崩壊――。

 多くの場合、神眼の急激な進化に眼球を受け止める器たる死体肉体順応適性に追い付かず、覚醒に伴い今まで以上に強い能源パワー………要は自ら抑え込むことの出来なかった、《眼光残滓暴発した力》が視神経を伝って体内に巡り巡って環流し、力の奔流に呑まれた体内中の器官や細胞はその暴発した力異分子による負荷に堪え切れず、熱膨張を起こして破裂―――。

 終いには死体肉体ならず骨諸共もろとも粉微塵となり、神眼以外は跡形も無く原型残らず灰と化す。

 私のいた《世界線》ではそれはそれは何人もの神眼者が四散していったことか―――あ、何言ってんだこいつって思ったろ。

 信じられないかもしれないけど私はこの世界とは違う、別の次元からやって来た存在でね。

 この空間へと引き摺り込む前―――、私と瓜二つの顔した奴の跡を追っていたようだけど………何も双子って訳じゃないんだわ、これが。

 考えても見なよ。ここに【神眼】っていう、個々に〈異能〉なる常識の理から逸脱した力を扱える眼球の存在があるんだぜ?

 数あればその中に一つぐらいはそれこそ――、『今ここに存在する世界と多次元を繋ぐ《門》のような出入り口を創り出すことの出来る異能』―――なんて、ぶっ飛んだ能力が扱える神眼が存在していたって不思議じゃないだろう?」


「………」


「まーただんまり。まぁ良いや。結局のところ、信じるか信じないかは個人の見解な訳だし?どう思ってくれても良いんだけどさァァ~。

 重要なのは今ここに、私が存在しているってことはさ。とどのつまり、力の暴発に打ち勝った訳で―――、

 その功績として得た力は《亜空間の掌握》。そこにいる筈であっても決して誰の目にもその姿を捉えることが出来ない、〈不可視な亜空間の展開〉と〈そこに閉じ込める目視対象の繋縛〉。

 果たしていつまでこの拷問に耐え続けられることやら。この力を得てからというもの、折角のこの空間を使用しない手は無いからねェェ〜」


「………」


「相も変わらず反応リアクション無し、と。なら、適当に話続けちゃうけど――命が懸かっている以上、少しでも敵に動きを取られる前に短期決戦でとっとと片を付ける両目を奪うことこそ、賢い立ち回りであると頭では分かっちゃあいるんだよ?いるんだけどさァァ~。

 周りには見えていない、誰の助けも求めることが出来ない状況シチュエーションを作り出せる能力だからこそ、単なる人避けってだけに使うのも味気無いじゃん?

 確かにその用途で使うだけってのも十分な働きがあるのは認めるよ?

 けどけどォォ~、大層な力を授かってそれだけって………やっぱ使い道レパートリーを増やせないことには命が掛かっている以上、いつどんな奴とぶつかっても対応出来るようやれること手札の数は多いに超したこと無いでしょ?

 だからこうして、普段から能力を使っていれば新しい発見があっても可笑しくないって言うか………それこそ、他の使い道を見出すキッカケが掴めるかもって思う訳」


「………」


「そう言うことだから、直ぐには殺さないよ。これから君には色々な拷問責めに付き合ってもらって――、玩具おもちゃのようにイジメ倒して――、この力の使い道有効利用についてより深く追求していきたいからねェェ〜!

 精々、誰の助けも求められない―――、この異次元の牢獄で視覚と疼痛とうつうに狂わされながら、いつまで付き合わされるかも分からない囚われ地獄に震えるが良い。わーはっはっはっはっは!……やっぱ慣れない笑い方だと棒読みになってしまうな。

 タハハハハッ!世知辛いよなァァ!私の〈虹彩離断手の平〉ので転がされる囚われの姫モルモットだなんてよォォ!けどこれが、これこそが現実ッ!ここに入り込まれたその瞬間から、君は既に詰んでいるんだよォォッ!」


「そう……ですね。確かにこれは詰んでいます。私が相手で無ければ………ですが」


 そう言うと、リンジーは着用しているNEMTD-PCメイド服の襟元をガッと力強く噛んで咥えては、ジタバタと顔を動かして瞼と眼球の間に鋸歯を食い込ませ、必死に痛みを堪えながら強引に眼球片目を弾き出すように掻っ切っては――、


 その勢いで鉄の棒と棒の間の隙間から彼女の血が付いた、涙目で濡れた右眼球が飛び出していく。


「ッんぐっ………ッゔ、ッん゙ん゙んんんんッぅぅうううううぅぅぅ――――ッ!」


 リンジーの痛みに悶える呻き声が小さく漏れる。


「ほへェ?威勢の良いこと言っていた結果が自ら神眼を差し出すとは………これで解放してくれと言っているのなら、そいつはNOノーというものよ」


「ふーっ!ふーっ!………まさか。そんな命乞いが通用するとは思ってもいませんので」


「おー、そうかい。そうかい。ならば奇跡の脱出劇とやらを、とくと見せてもらおうじゃあないですか」


 などと“ めめめ ”とやり取りをしている間、リンジーはこの状況を打破する為、ある軌道計算をしていた。


 たった一度見ただけの眼球が弾き飛ぶ様放物線軌道から眼球の弾き飛んだ軌跡ルートや飛翔距離、トラバサミの鋸歯を当てた時の歯の角度に至るまで色々――――


 その一つ一つを大まかに割り出し、何故あの距離と方向に飛んだのか………


 脳内による模擬演習イメージトレーニングを繰り返し行い、これから行う奇策仕掛けの為の段取りをしようという訳である。


「言われなくとも――――ッ」


 その言葉を合図にリンジーは動き出した。


 もう一方の左眼球もまた、トラバサミの鋸歯を使って勢いよく弾き飛ばす。


 二つの神眼眼球がその身から離れた―――、神眼者にとってそれが指す意味は…………


 死―――


 両目を失った死体リンジーは空っぽになった眼窩から血の涙を流しながら、完全に息をしていなかった。


 あまりの衝撃的な行動光景を魅せ付けられただけに、思わず上に向かって大きく弾き飛んでいった眼球神眼注目がいってしまい、ただただ唖然と――“ めめめ ”は宙を舞うその眼球神眼眺めて呆けてしまっていた。


「は?……ははっ、こいつめ。血迷ったか?命乞いが通用しないのなら、自ら命落とすってかァァ~?あーあ………折角の囚われの姫モルモットちゃんとの幽閉のひと時ランデブー愉快に滑稽に(狂気の)踊らされる様スキンシップ台無しドタキャンにされてしまうのは非常に残念だったけど、過ぎたことをクヨクヨと言っていても仕方無い……か」


 などと言いながら、全て終わったものだと――そう思ってしまったばかりに“ めめめ ”は気が付くことが出来なかった。

 

 最初に弾き飛ばした眼球に付着したして、痛みのあまり流れた涙……厳密に言えば【癒時雨ナミダメ】がその効果を発揮し、血液に涙が滲んだその直後、ただの血液だけだった状態から復元して血肉に――、骨組みに――、『町田リンジー』という人間の形へと左目以外を除いて形成再現されていくところを………。


 血液からの復元という驚異的な回復力で〈虎挟見トラバサ・ミ〉の檻から脱出してみせたリンジーは、〈虹彩離断こうさいりだん〉でチカチカする視界に抗うように何度も涙を流すなり【癒時雨ナミダメ】で常に再生し、視力を回復し続けながら“ めめめ ”をその視界に捉えると、彼女は奴のいる方に向かって歩み寄る。


 そうして“ めめめ ”の背後を取ると、奴の左後頭部に向かって左掌を斜めから打ち込んではその反動でぐりんっと顔を横向きに捻らせ、そうして自分リンジーの手前に持ってきた右目を狙いに間髪入れず、リンジーは残った右手を突っ込むと鮮やかな手捌きで右目片方の神眼の回収を決める。


「ぎぃあああああぁぁあああぁぁぁぁ――――ッ!」


 突然の神眼狩りハントを受けてしまい、引っこ抜かれた痛みの衝撃で“ めめめ ”は声道の小さい幼子特有の甲高い叫喚さけびを上げる。


「……く、くそがァァッ!何故なぜ……何故あの〈虎挟見トラバサ・ミ〉から脱出出来たァァ?」


 リンジーは奪った神眼を服のポケット奥深くに突っ込むと、口を開いた。


「それは――、まんまと私の仕掛けた視線誘導に釣られたからですよ。あの時、神眼左目を敢えて高く飛ばすことで注目を惹かせ、たとえ眼球の方に目がいかずとも自害したと見せた衝撃インパクトからは目が離せないのが人間のパルティキュラリテ。――〈特質〉ですから。〈興味本位〉とも言えましょうか?

 結果、私の持つ目力の力で血液の状態から肉体の形へと十分に戻るまでの時間稼ぎが出来た訳であり―――、

 この空間内の眩しさの中、貴女の背後を正確に捉えることが出来たのも、同じく私の目力が持つ再生力を逆手に取って、目を開けば常に視覚をやられ続けるのであればそれを上書きするように――、絶え間無く回復を繰り返すことで視界問題を解消。今の状況へと転がった訳です。

 仮にも質問の意図が違ったのであればそれは、戦闘経験の差――、能力の相性――、いやそれだけ、貴女ご自慢の【覚醒した目力】より私の使う目力の方が優れていた、ということでは?」


「コケにしやがってェェ~ッ!覚醒した目力がッ、無覚醒の目力に強さで負ける筈無いだろうがァァッ!」


「――確かに、単純な《攻撃力》としての強さであれば、私の目力は貴女の扱う目力とは違って、遥かに劣っていると言えるでしょう。

 ですが目力は何も、攻撃性のある力があるものだけが目力では無い。

 お嬢………ブシュラ様が言うところの【受動パッシブ型】と呼ぶ私のような力でも、使う者の素養センスと力量次第で攻撃性の目力――仮にもそれを【能動アクティブ型】と呼ぶその力にだって、渡り合えるだけの強さを大きく引き出すことだって出来るってことですッ!」


「こんな……こんなことがあってたまるかよォォ――――ッ!」


 そう言って“ めめめ ”は再度、リンジーに向かって〈虎挟見トラバサ・ミ〉を発動する。


 ガチンッバチンッと、またも四方八方から展開された鉄格子が白い地を引き摺りながら、格子に取り付けられたトラバサミが町田リンジーの身体のそこかしこに鋸歯が突き刺さる。


 だがその直前――、リンジーは神眼狩りによってすっかり汚れてしまった右手とは反対の左手で涙を拭うと、指に付着したしずくを落下していく左目神眼に向かって飛ばしては、躊躇いも無く右目を引っこ抜く。


 再び【癒時雨ナミダメ】の涙によって、今度は左目を核に『町田リンジー』という形が右目を除いて瞬く間に再現されていく。


 上空で蘇生したリンジーは鉄格子を蹴って落下速度を落としつつ器用に着地すると、さきの行いによって抜き取った右目を持っていた筈の手には、死んで力が抜けたことで自然と手の平から転がり………、それを拾い上げては右の空いた眼窩へと突っ込むと、例の強力な修復力回復能力によって綺麗に内部の神経系が繋ぎ合わされ、移植修繕されていく―――。


 本当ならば洗眼してからこのような芸当をやるに越したこと無いのだろうが、【癒時雨ナミダメ】の癒しの力にはちょっとした洗浄性のような効果もあるようで特別、問題は無いとのことらしい。


「――無駄なことです。元より、貴女の展開する目力が〈拷問〉の名の通り、即死性の攻撃で無かったことが結果的に――……《神眼を開眼する隙》と《涙を流す時間》を与えてしまった。

 嗚呼ああ………それと、《貴方を始末する策略を練られる時間》もでしたね」


 その言葉を最後に、リンジーはあっという間に“ めめめ ”との距離を詰めるとの元へと急接近すると、瞬く間に奴が持つもう一方の左目片目をすッと慣れた手捌きで奪い取ってしまうのだった。


 悲鳴を上げる間も無く、絶命した“ めめめ ”がバタリッと力無く崩れて倒れた姿を尻目に〈虹彩離断こうさいりだん〉による白い空間はゆっくりと解けていき――……


 元いた世界の景色が現れていく視界が晴れていく様子を目にしながら、転がった奴の死体を見て周囲で騒ぎにでもなる前に――、リンジーは早足に切り開かれた出口へと向かって突き進むのだった。


「覚醒者だか知りませんが、相手が悪かったですね。さてと、奴は何処どこへと姿をくらましたのやら………」


 ------------------------------------------------------------

[あとがき]

眼決増力ガンギマリ〉済の神眼に関する解説

 今回登場した“ めめめ ”のように覚醒した力を扱えるようになると、自分の意志で《通常の目力》と《覚醒で目覚めた目力》の切り替えをすることが可能になります。


 これによって、状況に応じて能力の使い分けを行うことが出来る為、戦術に幅を利かせられるアドバンテージを得られることは非常に大きいですが、神眼の元となっている魂に残る執心思念との共存意識回帰係数が高くないとその神眼は心を開かず、覚醒能力を上手くコントロールすることが出来ません。

(要は生き返ることが出来ず、神眼となってしまった魂たちの執着未練にどれだけ心を通わせるシンパシー持てるか、耳を傾けることシンクロが出来るか。

 如何に魂に対する寄り添う心理解を持てるかが重要である)


 それつまり、魂が抱くおもいに関心を持ったり感性同意を持てるような、比較的同じ感覚を持った魂との間であれば、簡単に覚醒出来る傾向にある。


 ※そもそも前提として、〈眼決増力ガンギマリ〉によって活性化した力を抑え込めない順応出来ないと覚醒のステージにいくことが出来ないのだが……

 第二部 ⒍ 刮目(3) 対策品にて、斬月が謎の力を出したかと思えば、その闘いで【鎌鼬かまいたち】を使えなかったのには、そのシンパシーやらシンクロやらの繋がりパスが上手く出来ていなかったことが大きく関係していたのですね。




 そしてこれは余談ですが……もしも幸運にもアニメ化した時には、この回の映像表現がポ〇ゴンショックにならないよう、配慮した表現演出にして欲しいところですね。

(目を題材とした物語だけに、目に気を配らないのではなんてこったいってな感じになってしまいますものね)

 ※設定上、【視星シ☆スター】のような目眩ましとは違って、ガチで失明レベルに視覚を破壊する眩しさとは言え………



 ◼︎能力解説◻︎


目力:【総視揮そうしき

目異宮ノ門アイホート】の八つからなる、伝承能力の内の一つ。

 

 その力は【目異宮ノ門アイホート】で呼び出した《他世界の自分存在》にのみ効果を有効とする統率絶対命令を可能とする異能

(ちなみに声の声量はさほど関係がないらしく、目力の効果範囲内にいる《他世界の自分軍団》に対して脳内に直接テレパシーのように語りかけてくる感じ何処からか伝達する形で一斉に命令を下す声を飛ばすことが出来る力なのだとか)


                   監修:M.K.

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