⒋ 目視亜(4) 意外なる眼決増力
「はっ?何だその反応?てめぇみたいな奴に喧嘩売った覚えなんてねぇぞ?」
「何を言っても無駄です。判別など出来ないのですから、可能性のある人物を片っ端から処していけば良いだけのこと」
もはや茶玉模様であるか無いか――、その部分を重要視する様子も無く、格好の特徴だけから目の前のフード女に突っ掛かるリンジー。
それだけ彼女はある人物の始末に強く固執するがあまり、ベクトルが変な方向に曲がってしまったということなのだろうか?
全てはあの日――、足を踏み入れてしまったがばかりに………例の人物はこれまた厄介な存在に目を付けられたものである。
(これは……、話にならねな…………)
めめめがそう悟った瞬間――、間髪入れずにリンジーは飛び出した。
先程まで優しく差し伸べていた筈の手は一様に指を揃え、手刀の形に構えては眼球を狙って突き出すように、勢いよくその手を前に突っ込んでいく。
めめめが起き上がるよりも先にリンジーは四本貫手を仕掛けると、命の危機を感じた
「ふぃ〜、あっぶね。小さい
慌ててめめめは立ち上がり、
「やってられっかってのッ!」
ぼやくなり、彼女はフードの奥底で静かに神眼を開眼。
「………
『
何やらぶつぶつと顔を下にしながら呟くと、目力:【
彼女が【
「アーハッハハーッ!この私、【
だがしかーし、私は自らを牢獄の中へと閉じ籠り、堅牢な牢檻の中、風害をひっそりと耐え凌いでいたという訳よ!」
「――そうか。なら、奴の相手は任せた」
突如として彼女は目の前に現れるなり、肘を曲げて両手を頭の上に載せてさながら頭の丸みを瞳に見立てて《見開いた目の形を表している》かのような奇妙なポーズを決めては、その腕の状態を崩さないままフードを抑えて両手を頭の上から顔前へと持って行ったかと思えば、再び頭の上に持って行くを繰り返し――、
何度も何度も頭のフードを外しては被ってはをするその姿は、まるで目の開閉でもしているような―――
「りょりょりょ、了解でェェ――――すッ!」
冷たく
相変わらずのお調子者は高らかに返事するなり、奴は神眼を開眼する。
等間隔に縦縞模様の並ぶ瞳孔、灰色の虹彩の神眼が顔を出す。
「ここだけの話なんですけどね。実は私、そこらの
……と言うことはですよ?捕縛することに特化した力だけで無くゥゥ~、更に上の力も使うことが出来るんですよねェェ〜。いやぁ~、THE選ばれし者って感じで
その名も〈
そう言うと、奴の開眼した筈の神眼の瞳孔に変化が起こった。
牢の
「【
直後……、リンジーの視界上に白い空間が展開―――。
どういう訳かそれまで博物館周辺にいた筈の人の存在が一瞬にして無くなり、それどころか周りの木々や建物、道路や空そのどれもが掻き消されたかのように〈景色〉が視界から消え、お調子者な“ めめめ ”とリンジーの二人だけがこの空間内に隔絶され、形として
目神ヘアムのいる天国さながら、そこには何も無いただただ真白な空間だけが……否――、それは濃霧の中での走行中、車のヘッドライトを
更には目の
実に視界がクラクラとする、この空間は一体………?
「突然ですけど――、《
眩しさゆえに目の機能を生理的に損なう『不能グレア』。その不能グレア程では無いものの、視界の把握が難しいと感じる『減能グレア』。心理的に不快感を起こす『不快グレア』。大きく分けてその三つに分類される。
要はこの空間はその三種類の
私が視界に捉えた人間を私の意思でこの空間内へと拘置する拷問能力の一つさ。言っておくけど、目を閉じたぐらいで抑えられるような眩しさじゃないから。口で言っても信用出来ないなら、実際に試してみると良いよ。
そしてこの空間内にいる者以外、ここで起こったことを目視することは出来ない為、ここなら存分に能力奮って暴れようとも、一般人の目を気にせず闘うことが出来る。
……って、この空間内でまともに闘えるのであればって話なんですけどねェェ〜!タハハハッ!」
「くッ、道理で先程から目がイカれてしまいそうになるのはそれが原因という訳ですか。なんと悪趣味な空間で」
「悪趣味ィィ~?それマジでこっちからしたら、最高の褒め言葉
そう言うと“ めめめ ”は更なる〈拷問極刑〉を解放する。
「【
両足を挟むようにリンジーの足元から二つのトラバサミが現れては瞬時に
中心に立つリンジーに向かって鉄の棒が一斉に迫っていき、その棒一本一本にギッシリと括り付けられた数多のトラバサミが彼女の身体中を喰らいに掛かった。
「ぁぁああああぁぁぁぃあああぁぁぁぁがぁああああぁぁぁぐあぁぁああああああぁぁぁ――――ッ!」
身体のあちこちで金具が挟まり、その度に襲い掛かる大量の鋸歯。
指程度の細さであれば軽く切断を起こし、身体を突き刺し、歯が喰い込む度に彼女の断末魔は止まらない。
「身動きの取れない状態――、嫌という程、万力の如く激しい痛みに縛られ続ける――。まさに分かりやすく《拷問》を体現した力が今見せたもう一つの〈拷問極刑〉。
〈
もはや私の術中に囚われている今、手も足も目も憔悴してまともに機能している筈も無い―――そんな
「………」
口を利く余裕も無いほどに
「やっぱ、能力の力量差の前には戦維喪失するのも無理ないか。そもそもが〝
《力を得るだけの素質》が無いと、眼球の急激な活性化によって引き起こされる
多くの場合、神眼の急激な進化に眼球を受け止める器たる
終いには
私のいた《世界線》ではそれはそれは何人もの神眼者が四散していったことか―――あ、何言ってんだこいつって思ったろ。
信じられないかもしれないけど私はこの世界とは違う、別の次元からやって来た存在でね。
この空間へと引き摺り込む前―――、私と瓜二つの顔した奴の跡を追っていたようだけど………何も双子って訳じゃないんだわ、これが。
考えても見なよ。ここに【神眼】っていう、個々に〈異能〉なる常識の理から逸脱した力を扱える眼球の存在があるんだぜ?
数あればその中に一つぐらいはそれこそ――、『今ここに存在する世界と多次元を繋ぐ《門》のような出入り口を創り出すことの出来る異能』―――なんて、ぶっ飛んだ能力が扱える神眼が存在していたって不思議じゃないだろう?」
「………」
「まーた
重要なのは今ここに、私が存在しているってことはさ。とどのつまり、力の暴発に打ち勝った訳で―――、
その功績として得た力は《亜空間の掌握》。そこにいる筈であっても決して誰の目にもその姿を捉えることが出来ない、〈不可視な亜空間の展開〉と〈そこに閉じ込める目視対象の繋縛〉。
果たしていつまでこの拷問に耐え続けられることやら。この力を得てからというもの、折角のこの空間を使用しない手は無いからねェェ〜」
「………」
「相も変わらず
周りには見えていない、誰の助けも求めることが出来ない
確かにその用途で使うだけってのも十分な働きがあるのは認めるよ?
けどけどォォ~、大層な力を授かってそれだけって………やっぱ
だからこうして、普段から能力を使っていれば新しい発見があっても可笑しくないって言うか………それこそ、他の使い道を見出すキッカケが掴めるかもって思う訳」
「………」
「そう言うことだから、直ぐには殺さないよ。これから君には色々な拷問責めに付き合ってもらって――、
精々、誰の助けも求められない―――、この異次元の牢獄で視覚と
タハハハハッ!世知辛いよなァァ!私の〈
「そう……ですね。確かにこれは詰んでいます。私が相手で無ければ………ですが」
そう言うと、リンジーは着用している
その勢いで鉄の棒と棒の間の隙間から彼女の血が付いた、涙目で濡れた右眼球が飛び出していく。
「ッんぐっ………ッゔ、ッん゙ん゙んんんんッぅぅうううううぅぅぅ――――ッ!」
リンジーの痛みに悶える呻き声が小さく漏れる。
「ほへェ?威勢の良いこと言っていた結果が自ら神眼を差し出すとは………これで解放してくれと言っているのなら、そいつは
「ふーっ!ふーっ!………まさか。そんな命乞いが通用するとは思ってもいませんので」
「おー、そうかい。そうかい。ならば奇跡の脱出劇とやらを、とくと見せてもらおうじゃあないですか」
などと“ めめめ ”とやり取りをしている間、リンジーはこの状況を打破する為、ある軌道計算をしていた。
たった一度見ただけの
その一つ一つを大まかに割り出し、何故あの距離と方向に飛んだのか………
脳内による
「言われなくとも――――ッ」
その言葉を合図にリンジーは動き出した。
もう一方の左眼球もまた、トラバサミの鋸歯を使って勢いよく弾き飛ばす。
二つの
死―――
両目を失った
あまりの衝撃的な
「は?……ははっ、こいつめ。血迷ったか?命乞いが通用しないのなら、自ら命落とすってかァァ~?あーあ………折角の
などと言いながら、全て終わったものだと――そう思ってしまったばかりに“ めめめ ”は気が付くことが出来なかった。
最初に弾き飛ばした眼球に付着した血液に反応して、痛みのあまり流れた涙……厳密に言えば【
血液からの復元という驚異的な回復力で〈
そうして“ めめめ ”の背後を取ると、奴の左後頭部に向かって左掌を斜めから打ち込んではその反動でぐりんっと顔を横向きに捻らせ、そうして
「ぎぃあああああぁぁあああぁぁぁぁ――――ッ!」
突然の
「……く、くそがァァッ!
リンジーは奪った神眼を服のポケット奥深くに突っ込むと、口を開いた。
「それは――、まんまと私の仕掛けた視線誘導に釣られたからですよ。あの時、
結果、私の持つ目力の力で血液の状態から肉体の形へと十分に戻るまでの時間稼ぎが出来た訳であり―――、
この空間内の眩しさの中、貴女の背後を正確に捉えることが出来たのも、同じく私の目力が持つ再生力を逆手に取って、目を開けば常に視覚をやられ続けるのであればそれを上書きするように――、絶え間無く回復を繰り返すことで視界問題を解消。今の状況へと転がった訳です。
仮にも質問の意図が違ったのであればそれは、戦闘経験の差――、能力の相性――、いやそれだけ、貴女ご自慢の【覚醒した目力】より私の使う目力の方が優れていた、ということでは?」
「コケにしやがってェェ~ッ!覚醒した目力がッ、無覚醒の目力に強さで負ける筈無いだろうがァァッ!」
「――確かに、単純な《攻撃力》としての強さであれば、私の目力は貴女の扱う目力とは違って、遥かに劣っていると言えるでしょう。
ですが目力は何も、攻撃性のある力があるものだけが目力では無い。
お嬢………ブシュラ様が言うところの【
「こんな……こんなことがあってたまるかよォォ――――ッ!」
そう言って“ めめめ ”は再度、リンジーに向かって〈
ガチンッバチンッと、またも四方八方から展開された鉄格子が白い地を引き摺りながら、格子に取り付けられたトラバサミが町田リンジーの身体のそこかしこに鋸歯が突き刺さる。
だがその直前――、リンジーは神眼狩りによってすっかり汚れてしまった右手とは反対の左手で涙を拭うと、指に付着した
再び【
上空で蘇生したリンジーは鉄格子を蹴って落下速度を落としつつ器用に着地すると、さきの行いによって抜き取った右目を持っていた筈の手には、死んで力が抜けたことで自然と手の平から転がり………、それを拾い上げては右の空いた眼窩へと突っ込むと、例の強力な
本当ならば洗眼してからこのような芸当をやるに越したこと無いのだろうが、【
「――無駄なことです。元より、貴女の展開する目力が〈拷問〉の名の通り、即死性の攻撃で無かったことが結果的に――……《神眼を開眼する隙》と《涙を流す時間》を与えてしまった。
その言葉を最後に、リンジーはあっという間に“ めめめ ”
悲鳴を上げる間も無く、絶命した“ めめめ ”がバタリッと力無く崩れて倒れた姿を尻目に〈
「覚醒者だか知りませんが、相手が悪かったですね。さてと、奴は
------------------------------------------------------------
[あとがき]
〈
今回登場した“ めめめ ”のように覚醒した力を扱えるようになると、自分の意志で《通常の目力》と《覚醒で目覚めた目力》の切り替えをすることが可能になります。
これによって、状況に応じて能力の使い分けを行うことが出来る為、戦術に幅を利かせられるアドバンテージを得られることは非常に大きいですが、神眼の元となっている魂に残る
(要は生き返ることが出来ず、神眼となってしまった魂たちの
如何に魂に対する
それつまり、魂が抱く
※そもそも前提として、〈
第二部 ⒍ 刮目(3) 対策品にて、斬月が謎の力を出したかと思えば、その闘いで【
そしてこれは余談ですが……もしも幸運にもアニメ化した時には、この回の映像表現がポ〇ゴンショックにならないよう、配慮した表現演出にして欲しいところですね。
(目を題材とした物語だけに、目に気を配らないのではなんてこったいってな感じになってしまいますものね)
※設定上、【
◼︎能力解説◻︎
目力:【
【
その力は【
(ちなみに声の声量はさほど関係がないらしく、目力の効果範囲内にいる《
監修:M.K.
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます