⒋ 目視亜(3) 神眼と魂

「……はぁ、はぁ、はぁ………が……、眼球の痛みが……引いた…………?」


 目力:【乾き目ドライアイ】の能力が解除され、だいぶ平静さを取り戻した皐月は自身が顕現させた《颱風竜ムシュリルギャンブラン》の暴走を鎮めるように、目力を解除しドラゴンはゆっくりと消滅していく。


「伊駒先生!大丈夫ですか?」


「あ……ええ、もしかして………噛月さんがやって………くれたのですか?」


「いえ……、ウチ一人の力だけじゃあ、どうなッていたことか。これは先生の友達の纂紅つべにさんの力と何より……、先生が顕現させたあのドラゴンの存在が大きかったッてのもあッて………。

 何と言うか……、リードを持って遠くから様子を見ていた小暮先生と連れの犬は別として――、これは三人誰一人として欠けていては、為し得なかッたことなンで。

 伊駒先生の――皆の力が合わさッてこそ、掴むことの出来た結果なンですよこいつは」


「そ、そうか……、私の力も、か。

 そう言われると何だか少し、照れくさいな」


「……えっ、ちょっと待ってッ!何その反応――、皐月可愛過ぎでしょ」


「あ……あのー、事態は終わったんですか?まだ残党が残っていると思うのですが………」


「あー、それならこの通り――」


 朱音がそのように返答を返した直後、暴風によってそこらに転がっていた彼女の能力下にいためめめ達は、自らの手で次々に両目を抉り出し、あちこちで血を噴き出しながら続々と倒れていく………。


 そんな恐ろしい光景が広がっている中――、太陽照り付ける真夏日のような暑さであるにも関わらず、何故かそこだけ不自然にも存在していた《水溜り》から一つのがギョロリと現れ、キョロキョロと辺りを見回す動きがあった。


 周囲に誰もいないことを確認したのか、その水溜りはうねうねと《象の歯磨き》のように盛り上がっていき、一人の人の姿へと形成されていく。


「【水視武器ミズ=シ=ブキ】-《百船水門アルゴス・ゲート》其の13/◦水浸視みずびた=し◦………。

 開眼時、身体が濡れた状態にある時――、または水が出来ているポイントを目にすることで、水と一体化出来る異能力。

 何やら妙な巨大ドラゴンが出て来た瞬間、嫌な予感が働いたものだから敢えてここは距離を取って、基礎となる◦水視すいし◦の力で生成した水を上から被り、この能力を使って液状に変異していた訳だが………、

 何とまぁ、惨たらしいこって」


 そこには、先のヴァンピーロとの一戦では前線に買って出る姿を見せていた、今や幼き姿の水使いの〔生まれ変わりめめめ〕の姿があった。


「あの様子では、生き残っている私は〔私〕ぐらいなものか?

 あっ、でもそういや……【目異宮ノ門アイホート】を伝承した私の存在は見なかったが、流石にくたばっちゃあいねぇよな?

 そういや、めめめの中に神眼じゃなく、神耳かみみ………だっけか? 

 確か……、そんな名称で呼んでいた代物を授かって生き返った世界線のめめめといつの日だったか………、何気に会話をしていた時にふと耳にしたのだが――」

 

 彼女は何か思い出すように独り言を呟いていた。


「聞き耳上手の神様だか何だか………名前は忘れてしまったが…………、ちょくちょくEPOCHの《お知らせ》で【耳寄り情報】という見出しでゲームがいのことの情報とかも流れてくるとかで―――、

 その殆どが雑談がたり的な感じのものが多いらしいのだが、ある時……何でもあの目神とはちょくちょく連む仲だとかで、神眼しんがん――それも目力:【目異宮ノ門アイホート】絡みのことで書かれていた内容があったらしく、それによるとあの神眼は『理不尽な死を遂げて逝った人間の魂だけを旁魄して練り上げて創った』という《意欲作》だそうで、の神眼以上に『死にたく無い』という人の執念と怨念が執着して形となった代物なだけに、何が何でも生きようとする強い力が働いてまないとか何とか………。

 目力として開花されたその力の特異性は、持ち主に生命を繋げようとする八つの力が現れ始め………っと、そのあとは何だったっけか?

 可能性の数だけ無限個に枝分かれして存在する、様々な世界線から自分という存在を引っ張って来られる力を筆頭に―――ある力は魂を喰らい、生命エネルギーを吸収する捕食の力。またある力は吸収した生命エネルギーを糧に、死から這い上がる力。

 そのまたある力は………んーえっと、そんなようなのが続いて――、後は………何だったか。忘れてしまった」


 何やら一人、妙なことを口にし出す〔めめめ〕。


 彼女の話は続く。


「あ、そういや……盲目の人達の魂だけを旁魄して練り上げて創った神眼の話も聞いたことあったが、それってどんな神眼なんだろな。

 ってか、って自分で言ってて、なんのことだったのか………一緒に聞いていたような、聞いていなかったような…………なんだったっけか……中々思い出せなかったんだが、今思い出したわ。

 生き返ることが出来なかった者………神眼を移植されてみて、痛みに耐え兼ねて力尽きてしまった人間や動物といった魂や反対に――、痛みに耐え抜いて生存権を手にした奴らから頂戴した眼球…………耳や舌、その他各々の神様によって取られたり抜かれたり…………

 大半の生まれ変わる機会を失い、自己意識だけがのこった思念体:〈魂〉と、その内の一部のごく限られた魂からしか得ることが出来ない、生命力の強い優れた高エネルギー体英魂の〈パーツ〉を奴らは褫魄する取り込むことで、それらは神々の創り出す【神を神たらしめる最も優れた象徴せし名を冠するもの生命器官】のリソースとして使われている……らしい。

 ここでようやく『旁魄する練り上げる』って意味に繋がる訳だが、要は生き返ることも出来ず、もはや活動停止した肉体では返り咲くこと叶わず、完全に行き場を無くして詰んでしまった存在意義を失った人の《スピリット》と―――、一握りの生還のキップと交換で得た、生気溢れる《エネルギー》を取り込んで一つに纏めそれを吐き出したものが生命器官:『神眼しんがん』に、『神耳かみみ』に、『神舌かんかつ』………だったか?後はもう忘れた。

 吐き出し口は涙から――、耳糞から――、唾液から――、練り上げ方の手法特徴は神様によって様々なんだとか。

 ……ってか、目茶苦茶メチャクチャ独り言いってたわ、私。自分の事ながら、何を熱中してこんなにも話してたんだろ…………実に謎だわ」


 ―――――――――――


 ――――――


 その頃、【ふつべ恐竜博物館】にて――


「さて、と……。あれだけの数だ。回収はあいつらに任せるとして、私一人抜けたところで気が付く筈も無いだろう。

 ましてや、人混みのいるこんな施設の中で神眼者プレイヤーが襲って来ることなんて、まず無いと思って良い筈だ」


 噛月朱音が《めめめ軍団》から逃げるように、商店街を出て行った方向とは反対方向の――、道を進んだ先に実はある、ふつべ恐竜博物館の施設内にて例の存在めめめがいた。


 幼子姿このナリで保護者も無しに入場券を購入して、館内に入るなんて真似事奇怪な行動が出来る筈が無い為、には入れないものの―――子供である身を逆手に《逆転の発想》を利かせ、『とある手段』を用いて施設内へと立ち入っていた。


 それは入口前のパンフレットスタンドに置かれていた、ここの恐竜博物館のチラシの右端に切り取りで使用出来る、10才以下のお子様対象と書かれた三角状の『発掘体験無料券』なるものを上手く使い、本館とは別で外に設けられた体験ブースに参加する形でここへ来ていたのである。(通常は本館の入場料とは別で参加料金[500円]を支払うことで、中学生以下の子供までなら参加可能のキッズ向けイベントと銘されている《公式HP調べより》)


 どうやら化石一つ発掘出来るまで体験OKなんだそうで、逆にそれを活用するかのように、神眼者に襲われるような危険とは掛け離れた、純粋に発掘体験を楽しむ子供達ばかりに囲まれた安全な空間の中、子供一人が滞在出来るギリギリの時間まで粘る形で、適当に砂いじりをする姿があった。


 なんでも子供達に自分自身の手で化石を掘り出す、発掘の瞬間を楽しんで頂きたいという思いから、精巧に作られたレプリカが紛れ込んでいることが殆どなのだが、中には本物の化石も見つかることがあるらしく、実際に発掘したものについては記念品として持ち帰ることが出来るのだとか。


「非常に退屈だが、これ程まで好条件な安全地域は早々に無いからな。

 今日のところはここで安全に――」


「安全に……、何だって?」


 突然――、かがその場に一瞬にして現れたかと思えば、ノーモーションでめめめの目を奪いに掛かろうとする手が勢いよく伸びていく。


 何気なく呟いていただけの自分の声に割って入って来た謎の声に驚いた彼女は、咄嗟に手に持っていた刷毛ハケをその何者に向かって放り投げてしまう。


 そのことが逆に奴に驚きを与え、思わず伸ばした手で飛んで来た刷毛ハケをキャッチする形で止めてしまった。


「躾が成ってぇ餓鬼は嫌いだよ」


 そう言って、横から一瞬にして現れたのは、周りの子達と比べて少し大人びて見える一人の女の子―――


 瞬間移動使いテレポーターであった。


「てめぇは妙なスカウト女ッ!何故ここに………ッ」


「……寄ってたかって、さんざ人のこと痛め付けやがって。

 あれだけゴキブリみたく、無限に湧き出るしぶとい能力だ。まさか腹の中からも出て来るだなんて、思ってもみなかったが。

 何でそのこと知ってんのかって顔してんな。単純な話、てめぇがあの一件でくたばったとは思っちゃいなかったからあの後――、転々と飛びながら、神眼を大量に回収していった女のことを付け狙っていたのだが、そしたらあの惨事だ。

 ありゃあ完全に警察沙汰だな。指紋とか毛の一本ぐらい、それこそ現場にベッタリ残っているんじゃないのか?

 いざ警察に見つかりでもしたら、能力使う訳?仮にそれで一人二人始末したとて、仲間内なかまうち警察サツ同士、連携してあれこれ情報を取り合って、色々面倒になることまっしぐらだろうよ。

 そうやって事の発展次第では、島中見掛ける電子看板3Dホログラムやらドローン放送やら何でも通じて、島民に対する注意喚起の呼び掛けをおっ始めるだろうな。

 掴まされる情報によっては緊急放送が流れるなり、例の目神によって両目玉ふっ飛んじまうんじゃあないか?

 それこそ―――『本日、布都部商店街通りの平山精肉店にて、女性三人を殺害したとみられる犯人は依然逃走中。現場に残された足跡から小学校低学年ほどの女子児童であることが推定され―――』とか何とか放送があったのち、よくある犯人の特徴が流れる時に――『眼球が発光する奇怪な女子児童』……な〜んて、突拍子にとんだ爆弾発言が流れでもした終いには、ドッカーンってな。

 そして最後にはこう流れるんだ―――、『くれぐれも島民の皆様は外出をお控え下さい』――と」


「………」


 何も言わず、黙って耳を傾けるめめめ。


「……けどよ、うじゃうじゃと無限に現れるお前を完全に滅ぼすことが可能なのか?まぁ………だからこそ、潰し甲斐があるというもの。何たって、やられた借りを何度だってやり返すことが出来るんだからなあッ!」


 そう言って、再び眼球を奪いに手を伸ばす芽目。


「このッ!」


 めめめは咄嗟の判断で砂を手掴みすると、それを芽目の顔に目掛けて勢いよくぶちまけた。


「うわっぷっ……ぺぺっ………このやろッ…………目に砂が………」


 奴の視界を奪うことに成功しためめめは直ぐに借り物の刷毛ハケを手に取り、体験コーナーを任されている従業員の元へと駆け寄っては、リタイアします発言をしてさっさとこの場を離れるように遠くへ走って行った。


「ちっきしょう。また奴にしてやられるなんて………早く目を洗って視界を取り戻さねぇと。洗面所は……洗面所は何処どこに………」


 汚れた顔でウロウロしていると、先程めめめとやり取りをしていた従業員が心配そうに芽目に声を掛ける。


「君、大丈夫かい?お顔が汚れているようだけど………って――」


 何やら従業員はあることに気付く。


「ちょっと、君ッ!一体、何処どこから発掘体験ブースこの場所に入り込んで来たんだ?ブースの受付では君のような子は見なかった筈だが……、失礼ですがブースのチケットを提示して頂けませんか?」


「チッ、面倒だな………」


 芽目はそう言うと、右腕の腕時計型コンパクトミラーを出来るだけ顔に近付け、半目で僅かに一瞬だけ光ったかと思えば――


 すぐに芽目は何処どこかへと飛んで行ってしまい、この場からいなくなるのだった。


 ―――――――――――


 ――――――


 ボチャーン!


 そうして、芽目が降り立った先は辺り一面の海だった。


 緊急事態だったからか、顔に付いた砂を洗い落とすのに、何処どこかの洗面所や水飲み水栓を行き先に頭で考えるよりも早く、手っ取り早く一面に水広がる《海》そのものを頭に思い浮かべた方が早いと思ってのことだったのか、芽目は海に落ちるように瞬間移動テレポートして来た。


 ダイナミックな空中ダイブをしたのち、ぷふァッとすぐに海から顔を出すと、すっかり顔に付いた砂が洗い流され、手で顔をゴシゴシして目の周りの水滴を肌感覚でいくらか払えたことを認識すると、再び彼女は神眼を開眼し、コンパクトミラーを目にしては何処どこかへと飛んでいってしまうのだった。


 ……………………………


 ………………


 その頃、逃げためめめは―――


「奴は……追い掛けて来ない、か」


 どうにも後ろから駆けて来る足音が聞こえず、ふと後ろを振り返れば芽目がいないことに気付いた直後のことだった。


 ドンッと正面にいた人とぶつかり、小さな身体はその反動でよろめいてしまい、後ろに倒れ思わず尻餅をつく。


 大丈夫ですか?と心配するように、相手の人が手を差し伸べてくれようとしたのも束の間。


 その人の腕に装着されたEPOCHエポックから、まさか耳にするとも思わなかった警告アラーム音が鳴り響く。


『ピーピー!神眼者プレイヤーとの遭遇を確認しました。直ちに目の前の相手に対し、警戒態勢をとることを推奨します』


 それなる知らせが告げられた直後――、相手は一言……口にした。


「君は………EPOCHエポックを付けていないが、神眼者プレイヤー…………なのか?」


 そう言ってきたのはまさに丁度、博物館を出ようとしていた、犬耳カチューシャを頭に付けたメイド姿の一人の人物。


 このような特徴的な格好をしているのはほかでもない、『町田リンジー』である。


 そんな彼女だが、めめめの格好を見るなり、顔つきが一変する。


「フード……神眼者…………もしや、お前か?」


 一難去ってまた一難。


 あろうことかめめめは、フードを羽織った神眼者に並々ならぬ執着心を抱き続ける存在リンジーと、こうして相見えることとなってしまうのだった。


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[あとがき]

-ちょこっと雑学編-

 目羅巳六が所有する【時暴時期じぼうじき】の神眼の誕生には、

時間に追われる毎日を過ごしていた人や過去に強い未練のある人など、時間に対する強い思念を持っていた人の魂を結集して生まれたのだという。


 ここでは【時暴時期じぼうじき】の神眼を例に挙げたが、他の神眼に宿る力の根源も全て同様――、痛みに耐え兼ねて復活を果たすこと叶わず、神眼者になることが出来なかった破綻者一人一人の内にあった未練思いが〈目力〉の効果の特徴となって現れることから、この力は目神が後付けで付けたのでは無く、《神眼》を創った際に元の魂たちの憶念がエネルギーとなって現れた副産物――、それが〝目力めぢから〟である。


 それゆえ、神眼となって一つに練られた魂の未練思いには一貫性があることが挙げられるが………

 唯一、悠人の持つ【目能蔵放エネルギータンク】の神眼を形作っている魂は、序盤で通達されていたようなとある経緯により、あり合わせのもので練って創られた為に、てんでバラバラの《性格性・環境性せいしつ》をもった魂たちの元、誕生している。


 元となった魂たち一覧(数ある一部を紹介)

・常に努力を惜しまず、第一線で活躍することを夢見て突き進み続けていた、成長意欲が強く、まさにこれからだった若きアスリート魂(欧米系女性11歳)


・職を失い、歳のせいか中々再就職にあり就けず、気付けば強盗に手を染めてしまった魂(中南米系男性47歳)


・誰に対しても義理堅く真心があり、真面目で気配りの出来た清らかな魂(アジア系男性24歳)


・要領がよく大抵のことは柔軟に対応出来るが、どれも中途半端なもので、一つのことを極めることが苦手だった器用貧乏な魂(北欧系女性36歳)



 あの目力は……、この目力は……、一体どんな特色をもった魂が結集して生まれた産物なのだろうか?是非とも考察してみるのも面白いかもしれませんね。

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