⒊ 胎瞳(4) 視上最凶のキャッチャー
「――っと、その前にこの手荷物をどうにかしないとだな。………仕方無い。この辺にベンチの一つも無いものだし、少しの間だけ
「それじゃあ、ひと準備出来たところでどちらから責めようか。やっぱりあの得体の知れないスライムより、溺れ掛けようとしている人のいる方から動いた方が良いよな」
すると、
野球バットとボールが描かれた――、何とも奇妙な形状をした瞳孔に、若草色の虹彩の瞳が花開く。
「……かっ飛ばせーッ、
何やらぶつくさと小声で、己に対する謎の
『なっ……何だこの強い力は………身体が………持っていかれそう……だ…………』
『ど、どっからこの強い力は働いてんのさァァ――――ッ!マスクを抑えているのがやっとなんだがァァ――――ッ!』
『う……嘘だぁぁッ!わ……私の眼球が…………マスクを抑えている僅かな隙間から吹き飛んでい…………うぁぁあああああぁぁぁぁ――――ッ!』
『わ、私にも同じことが…………いやぁあああああぁぁぁぁ――――ッ!』
『何がッ……一体何が起きて、……飛ば………飛ばされ…………ぎゃぁあああああぁぁぁぁ――――ッ!』
突如として巻き起こった――、馬鹿みたいに強い風が【
被っているマスクやフードはおろか、身体ごと吹き飛んでしまいそうな威力を前に――
慌てて【
踏ん張りが利かず、足は地面を離れ、身体は宙を舞ってコントロールを失い、あやゆる
【
だがそんな些細な抵抗も敵わず、《耳》や《鼻》・《口》という――、あらゆる『穴』を介して体内へと入って来た風は、内側から押し出すように―――
次々と【
「くそったれッ!」
そう言って、一人の【
周囲をキョロキョロと見回し、この可笑しな現象を引き起こしているであろう、
すると、海岸を隔てた先のところで野球着の着た一人の人物を発見する。
「そこか!」
「おおーっと!こいつは決まったーッ!【
大量の
声のトーンがワンテンポ上がり、実況アナウンサーみたく、一人盛り上がってそのようなことを声に出す。
熱が冷めやらぬ様子で
「おおーっと!風向きが変わり、(
吸い寄せられるように、どんどんと沢山のボールをキャッチしていきます!
素晴らしい【
素晴らしい試合でした。マスク女に大きな拍手をッ!」
その言葉通り、飛ばされていったバラバラの眼球は、さきの強烈な暴風が纏めて
「……っと、すっかりいつもの
どうにも
などと言いながら、
エコバッグから袋入りのじゃがいもを全て取り出し、空のビニール袋を用意すると、ひとまずはその中に眼球を纏めて詰め込んでいった。
「それにしても、この数は―――少なく見積ったところで、一ヶ月はゲームに参加せずとも、十分に生きられるストック?仮にもゲームと銘打っている訳だから、大量の〈残機〉が獲得出来たものだって言うのが正しい、のか?
………っと、そんなことに頭を悩ませていないで、あれだけ大見得を切った手前――、これで助けられていなかったら滅茶苦茶ダサいったらありゃしねぇぞ」
まずは一人目――
一番近くで倒れていた藤崎芽目の元へと駆け寄っていく。
神眼を回収したことで既に水の牢は解除され、びしょ濡れで横たわる彼女の姿があった。
彼女の左腕を軽く手に取り、《示指》・《中指》・《薬指》の指先を――、左手首の内側にある《橈骨動脈》に沿って平行に置き、均等に力を加えて15秒間に流れる脈拍数を数え、リズムの整・不整を観察する。
「
……って、また変なスイッチが入っちゃってるし。これじゃあ、
またも――、
続いて海辺の方へと向かって駆け寄り、倒れていた
それで、問題は………
「これは……生きている、のか?」
枷から外れた、目の前の紅いスライムである。
どうやらこれはスライム状になった奴自身の能力によって、変わり果ててしまった姿なのだろう。
こればかりは、
そんなことを思っていると、紅いスライムはウネウネと激しく蠢き始め、中から一つの眼球の形をした物体を飛び出して来た。
出て来た拍子にコロコロッと眼球は地面の上を転がり、そんな眼球が紅いスライムへと視点が合った瞬間――
バンッ!
と、音を立ててスライムが突然破裂し、まるで能力の解除されたように、血溜まりの中から一人の少女-手足の揃った〈元のヴァンピーロの身体〉がその姿を現した。
「うおっ!」
突然の出来事に
その直後、
片方の目だけが収まっておらず、本来ある筈左目の部分に大きな空洞部-『眼窩』が露わになった状態の彼女の姿があった。
「
「私――?私、今こんなユニフォームの格好して、確かに間違えられやすいかもしれないけど、
名前の感じからして分かる通り、女の子だよ」
上体を起こし、転がった片目を拾い上げながら、ヴァンピーロは言う。
「女の子……?
英語のボーイと勘違いしたという訳か」
「えっ!違うの?」
「さっき言ったのは、
一般的に、親しい間柄でも無い人を対象に、『貴方』という言葉をイタリア語で話す際は『
『
その二つが主に『貴方』を意味する言葉として使われていたところを、『
『
それでも私の出身の南イタリアでは、今でも二人称単数としての、V・O・I ――『
だが、400年前に一度は死んでからというもの……それからは一向に衰えず、その当時のままの
フラフラと己の足だけで世界中を当ても無く、見て――、回り続け――、放浪と生活していた日々を過ごしていた為に、今や複数形として使われるのが一般的だのなんの、正直あまり詳しくは知らないのだが、な」
「……何かしれっと、400年前に一度は死んで――とか、ぶっ飛んだ話があったけど、まぁその………アレだよねっ、アレっ!
……要は英語じゃなく、その言葉事情にも詳しくないから良く分からないけど、結論として―――英語で無い、恐らくは祖国の言語を発音していたという認識で違いないか?」
「やっと――理解したか。だが今はそんなことよりも、喉が乾いてしまって仕方が無い。血を使い過ぎてしまったようだ。
何やら窮地を助けてくれたようで悪いが、何か飲み物持ってないか?」
「えーっと、その………急に飲み物要求されても…………あっ!スポドリなら、まだ中身あったかも!」
そう言って、上に置いて来てしまった通学カバンのある元へと引き返すと、中からスポーツドリンクの入った、一本のスクイズボトルを取り出しては、再びヴァンピーロの倒れた海辺の方へと駆け戻って行き、彼女に向かってそれを差し出す。
ヴァンピーロはスクイズボトルを受け取ると、キャップを外してすぐさま中身の
余程、喉が乾いていたのか――、ゴクゴクッと喉を鳴らしながら瞬く間に飲み干してしまうと、用済みになったボトルを
そうして、
「あれ……なんや血が凝塊しよって、それに身体を貫かれたとこまでは覚えとるんやが………一体、何がどないなっとんね…………」
「見桐………見桐ッ…………!嗚呼良かった、無事でいて………」
「これまた、心配掛けてしもたみたいやな。フライちゃんも……なんやボロボロになって………」
「うっ………服が濡れて……そうか………あの時、妙な目力によって閉じ込められ、溺れ掛けていて…………まさかこの状況は――、助かった、のか?」
「おっと、皆さん――目が覚めましたか?」
「「
一斉に声の主-『
「なッ……、あのやろ…………まだ、くたばってなかッ…………」
「ふッ……、そう言うお前も、しぶとく生きているようで――。
それよりも私としては、そこで血溜まりの上に横になっている彼女が、依然として生きていることに厄介さを覚えるのですが………」
「正直――、
「あッ……、てか、テメェにだって言えることなんやで!よくもさっきは見桐を―――……」
何やらバチバチに言い争い始め、闘いでも始まりそうな雰囲気を前に――、奴らのそんな様子を見兼ねた
「まぁまぁ、ここは穏便に。貴女方の間で何があったのかは分かりませんが……まぁ薄々――、察しが付きそうなものだけど…………そんなことよりもほらっ、ここは一つ!
私から一人一人に神眼をお一つ、プレゼント致しますので、これで手を打って頂けないかと」
そう言って再度――、カバンの元へと引き返して行き、ビニール袋から先程回収したばかりの神眼を三つ手に取り、見桐達の方へと戻って来ては、それを一つ一つ、彼女達の手の中に握り締めさせる。
「
これで今日一日は無事生存出来るってことでっ!
ほらほらっ、各自解散解散ッ!」
などとユーモアあることを言って、さきの空気感を和ませるように、
すると、神眼のプレゼントが効果あったのか、何かまだ言いたいことでもあった様子を見せつつも――、
「……これはもしや、奴の神眼ッ!
「ふッ――、神眼を差し出すとは、随分と気前が良い奴なことで。
そういうことなら、ここは彼女の顔を立てて、引き下がるのも悪くない。
こいつは有り難く頂戴するとしよう」
「これ……ほんまヤバいで、フライちゃん!思わぬ形で、今日のところの神眼が確保
「私達は本当の意味で助かった、のか?しかしこの神眼は一体、誰の………?
何だ………、妙に生温かい……………まさかッ、この眼球って…………」
各々は思い思いに言葉を言い残しては、手の内に置かれた神眼を見つめ――、一人は何か思うところがあった様子を見せる―――、が、それでも隣に立つ見桐のことを想ってか、これ以上は何も言わず、周りの者と合わせてそれぞれ分かれ、この場を後にする。
「さてと、私も家に帰らなくっちゃ!普段から部活だ何だ明け暮れて、あまりお店の手伝いが出来ていない分、一日中ずっと、おばあちゃん一人に店番させる訳にもいかないもんね。早いとこ、材料持って行って上げないと―――っと」
この時……一瞬だが……、
それこそ蠢い………何処か、引っ掛かりのある―――妙な現象が見えた気がしたのだった…………。
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[あとがき]
◼︎能力解説◻︎
目力:【
視野の先に大きく渦巻く突風を生み出し、名の通り欲しいままに吹き飛ばしてしまう異能
イメージ画:https://kakuyomu.jp/users/chaian/news/16817330650352178733
目力:【
視界上にあるモノを対象に目前で謎のスクリューが巻き起こり、この神眼の宿主たる人物の手の中へと吸い寄せられるように働き掛ける、奇妙な力を行使することの出来る異能
(ただし、吸い寄せられるモノには制限なるものが存在し、宿主の体重40%未満の質量までに限る)
手の中へと吸い寄せられていくその性質上、質量制限があるのだろうが、その分――、似通った目力として挙げられる【
イメージ画:https://kakuyomu.jp/users/chaian/news/16817330650352306282
監修:M.K.
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