⒊ 胎瞳(2) 目ぢかラッシュ!

【前書き】

 基本、能力名だけが語られる目力バトルにおいて、こんなにもが飛び交う1話があったものだろうか………。

 今回は数が数だけに何をしているのか、伝わりづらくては読み難いということもあるので、もしかすると……目力バトル史上!初めての試みかもしれませんが、かなりこだわって付けた所存でございますので、どうぞお楽しみに。


 今後は、今回のように技名を言うようなキャラクターの登場がどんどん出てくるかも………?


 前置きが長くなってしまいましたが、それでは本編をお楽しみ下さい。


 ------------------------------------------------------------


Dannazioneダンナツィオーネ,L'aspettoラスペット diディ unaウナ terzaテルツァ parteパルテ spiacevoleスピアチェヴォレ……………」


『あ゙?何を言っているんだ?……もしかして、この状況に挫折して、物思いに沈んでしまったか?』


Ahあー………さっきのは―――『不快な第三者のお出ましだ』、って言ったんだよ。

 ……なんて。最早もはやこれだけいたら、第三者なんてどころの人数じゃない、か」


『それは―――皮肉っているのか?』


「……いいや?このどれもが、本物の〈代行屋〉だって言うのなら、その中の誰の目を奪えばあの方が喜んで貰えるのか、考えていたところさ」


『あの方ってのは………一体、誰のことだ?』


『いやマジ、それ』


『えっ?……てか、こいつも依頼受けて回収作業してんの?

 私の真似事している同業者ってか?』


 周囲の【白妙の蟲眼金ホワイト・パラ=ド≠ラ=ックス】がヴァンピーロの言葉に対して、思い思いに口を挟んでいく。


ヴォイに言う義理は無いな」


『ハハッ、答えて貰えないでやんの』


『ああ、そうかい。こちとら私を一人、殺されたんだ。答えないなら、それで良い。 

 だが――私の命を奪った罪はデカいぜ。………逃げられると、思うなよ』


『あー……ちょいちょい。私が私に水を差すようであれだけど………

 これ――仮面付けているから、こんなに同じ格好をしている奴がいると、どの私が喋っているのか、イマイチ分かって貰えないところがある訳で。

 正直、何を言っても締まらなくない?私たち………』


〈〈〈……それを、呼び出した張本人の私が言うな!〉〉〉


『……おおっ、私こわっ…………』


 【白妙の蟲眼金ホワイト・パラ=ド≠ラ=ックス】同士で、変な戯言を繰り広げている中――


 その頃、岩陰の奥からこの様子を近くで見ていた藤咲芽目は息を潜めて、興奮冷めやらぬ様子でいた。


(……実に、実に最高じゃないか!

 なんだ、あの力――。あれが全てあいつだって言うのなら、こいつは相当規格外な能力を隠していたことになっちまう。

 ……決めたぜ。――私は、奴と手を組むことにする)


 芽目は一人、そんなことを思っていると、突然――横から誰かが顔を覗かせる。


『……あれ?誰かいるよー!』


『ほんとだ。こんなところに一人隠れてら』


「―――ッ!」


 驚いて振り返ると、そこにいたのは例の【白妙の蟲眼金ホワイト・パラ=ド≠ラ=ックス】の連中である。


「どうしてここに………」


『どうしてって………いっぱいいるから?暇だから、周囲の散歩をしていただけ〜!』


『そんな私がいちゃ……マズい?不都合だったかな?

 それこそ何か――、取り込み中だったとか?』


『あっちの話に混じるといっても、話すこと無いから、こっちはこっちで自由行動〜!ッて訳。

 そしたら、何やらコソコソ嗅ぎ回っている、怪しげな奴を見つけちゃったものだから………

 様子を見て、邪魔者になるようなら始末しちゃおっかと、ちょっくら顔を出して見たとこ~!』


『そうそう!そうです!そんなとこ~!』


「――それならそうと、丁度良い。私はお前達に、ある話を持ち掛けに来ようと思ったんだ」


〈〈〈ある話?〉〉〉


「それはだな―――〈代行屋〉。ここは一つ、私と手を組みやしないか?」


『へっ?』


『私を誘っているって言うの?

 今のこの状況を見て、私にそんな話を持ち掛けられる程の――、少なくとも対等な力関係があるとは………とても思えないのだが?』


『――ないのだがぁ?』


「それなら――、この状況を切り抜けられる程の力があることを、今ここで証明すれば良いか?」


 そう言うと、退路を完全に塞がれ、取り囲まれた環境から、芽目は一瞬にして【視認瞬移テレポーテーション】をし、さっと奴らの囲いから難無く抜け出る。


「こんな包囲網、私にとっては容易に抜け出せる」


『ヒュ〜!やるぅ〜!』


『こんな囲いには意味が無いと言う訳か。――面白い』


「実力を見るのは、これで良いか?何も私は争いに来た訳じゃない。

 なんなら、ヴァンピーロあいつの始末に一役買うが?」


『あー、良いって。あそこにいる私らに勝手にやらせておけば』


『そうだよ!やらせておけば良いんだよ!』


「何と言うか――あそこにいるのだって、あくまでも一人二人の自分なんだろう?

 変な話だが、自分という存在を気に掛けないのか?」


『あー、確かに正真正銘、ではあるんだけれど、まあ見ての通り………

 色々な性格をした連中の集まりって感じで、特別私達一人一人に、何か斗出した一貫性を持ち合わせている訳では無いんだわ、これが』


『―――まあ、好きにやらせておけば………程度に?

 それぞれがこれだと思う、最良の選択肢を取って、行動あるのみ―――ってなノリだよねー!ほ〜んと』


『関心がある奴もいるし、そうでない者もいる―――』


『私達を呼び寄せたあの能力には《無限》とも言える、人生の分岐路を辿った先に存在する―――、

 それぞれが歩むことの無かった、『私』という人間が―――、

 多次元世界………無数の並行世界へ繋がる、数限りない《門》を介して、異なる世界線の私達をこちらの世界へと繋ぎ合わせる、その力は――』


 …………………………


『【目異宮ノ門アイホート】―――』


 …………………………


「成る程。それが大量発生した、お前達の正体という訳か。道理どうりで一貫性が無いと思ったのだが、そう言うことなら納得がいく」


 時を同じく、ヴァンピーロ側でも能力についての同じ話がされていた。


『それでそれで?この話を聞いてどう思ったよ?

 要は『私』という異なる神眼者を、いっぱ~い!い~っぱい!呼び出すことが出来るって訳だ。

 神眼者成る者、それがどんな世界線の私であろうとも唯一、神眼者となる運命からは。私の経験談上、そうみたいだぜ』


 すると、好戦的な一人の〈私〉が唐突に目力を解放する。


『食らえや!【電目でんもく】!』


 瞬間――、《豆電球のようなシルエットの形をした瞳孔を秘めし、サンフラワー色をした虹彩の神眼》がマスクの裏で開眼。


 マスク越しに黄色い眼光が漏れ出ると、奴の視線の先にいたヴァンピーロに、(高圧)電気が流れる。


 それは決して比喩的な表現を言い表しているのでは無く――、±正・負電気エネルギー陽子・電子を持つ粒子:《電荷》の移動や相互作用によって発生する、『荷電現象』としての働きが――、人体において物理的に起こっているのである。


 最早もはや、身体が痺れる程度のそんな甘い電気では無く、顔が――、喉が――、身体が――、焼き尽くされるような、爆発的な痛さが全身を駆け巡る。


「……――――ぁッ!」


 あまりの激痛に耐え兼ねてか、ヴァンピーロは悲鳴にならない声を上げる。


『目力:【電目でんもく】。その名の通り、電子目次本の略………じゃあ無く、《この目で捉えた、電気を通すもの-物体や生物など、『半導体』・『導体』であるものを対象に、際限無く電気を流していくことが出来る異能》だ。

 物体はともかく、生物に電気を流すと言っても、そいつは単なる脳からの電気信号を神経が手や足の筋肉を動かす、『生物電気』なんてレベルものじゃあ無く、この力が対象に向かって流せる電流(A)・電圧(V)に為、それこそ《生物の身体発火しんたいはっか》を再現させる勢いをもった電気を流すことも可能―――。

 人体が持つ電気抵抗力はその殆どを皮膚が担っていると言われており、体内においては500Ω程度に過ぎない。

 人間の体内に流れる血液は、余程の不健康な身体でも無い限り、弱アルカリ性で電気を流しやすい性質を持っている。

 神眼者と言ったら、一生、老いることの無い肉体だ。

 とあれば、こいつは絶大的に効くってもんだろう?』


「……――どうか、な」


 サァァ―――……と砂のように消えたヴァンピーロ。


『何―――ッ?』


 どうやら用心を兼ねて【睅澹霧血ブラッデイヴァポレイト】の能力を――完全には解除していなかったようで、肉体そのものを血の霧状へと変異し、電気伝導を分散させて、人体に掛かる力を小さくし、大きく感電になる前に阻止したのである。


 あたかも、斬月の左目の【変幻自雷へんげんじらい】の下位互換のようなその力だが、神眼者の特質からすれば、確かに驚異的な能力である。


 いくら男性に比べて痛みに強いとは言え、年齢を重ねていく毎に衰えていく抵抗力には、どうしたって抗えないというもの。


 俗に言う――、『年には勝てない』というやつである。


 少なくとも、老躯な方で神眼者プレイヤーな存在を目にしたことが無い。


 それはここにいる神眼者プレイヤーだけで無く、他の者も揃って、そう言うことだろう。


『あーあ、情けねぇ。血を細かく分散させて、電気の通りを弱められているじゃねぇか』


『イキリ出て来て、とんだ恥晒し〜ッ!』


『何だとォォ!』


『邪魔だ。私がやる』


 そう言って、別の【白妙の蟲眼金ホワイト・パラ=ド≠ラ=ックス】が前に出る。


 そんな中……、風辺眸衣ふらべむいはと言うと、特別どの【白妙の蟲眼金ホワイト・パラ=ド≠ラ=ックス】もが彼女に対して何か仕掛ける様子も無く、完全に一人この状況を前に取り残されてしまっていた。


 ヴァンピーロとの一戦で負傷していたこともあり、闘いの荷が降りたことで急な脱力感に襲われ、そのまま力無く倒れるのだった………。


 そして、新たに始まった一戦―――


『【水視武器ミズ=シ=ブキ】-《百船水門アルゴス・ゲート》其の1/◦水視すいし◦』


 何やらマスク越しに、ウォーターブルー色の眼光が漏れ出ると、突然――奴の目の前にプカプカと浮遊する、大きなが出現する。


 単純に水の塊が現れただけだが、一体、ここからどのように能力が発展するのだろうか。


『《水網漁ハント》ッ!』


 奴が水の球体を目にすると、ただ浮かんでいただけのそれがまるで――生命の宿った生物のように、大きなうねりを起こしては、周囲に広がった血の霧をすくうように取り込んでいく。


 完全に霧状のヴァンピーロを水の中へと閉じ込めてしまい、それをどうするかと思えばあろうことか海底に向かって、上から水の球体を勢いよく入水させる。


『こうすれば、海の流れに混じって分散した身体を、二度と元に戻すことが出来なくなるであろう。これで奴は終わりだ』


 波風に煽られるがまま、液体上になっていったヴァンピーロの身体分子しんたいパーツが、四方八方に分散して流されていく。


 まさかこれで、ヴァンピーロの命運は終わるというのだろうか………


 否――、彼女には更なる血の力が存在していた。


 血の分子の一つ一つはその大きさに見合った小さな小魚へとすると、一匹一匹がだんだんと水上に顔を出し、トビウオみたく水面を跳ね上がったかと思えば、そのまま今度は蝙蝠コウモリの姿へと形を変えていく。


 蝙蝠コウモリの集団は布都部島陸地に向かってそのハネを羽ばたかせ、無事上陸すると蝙蝠コウモリは一ヶ所へ集まり、次第にそれは一つのヴァンピーロとしての形を形成していく。


 そうして最後の一匹が集まると彼女の姿は完全に元に戻り、なんてこと無い様子で一人佇んでいた。


『複数の能力持ちか。それは私も同じこと――』


 そう言うと、巧みな水使いの〔私〕は今一度目力を解放する。


 ウォーターブルーに発光する虹彩が―――《横から見た時の同心円状に広がる、波紋のような形状をした瞳孔の神眼》が今一度マスクの下で一層強く光り輝く。


『【水視武器ミズ=シ=ブキ】-《百船水門アルゴス・ゲート》其の1/◦水視すいし◦』


 と言ったものの、出て来たのは再度あの《水の球体》――。


 これの何処どこが、能力の複数持ちだと言うのだろうか?


 だがこの《水の球体》の出現は、更なる発展力の基盤トリガーに過ぎなかった。


『【水視武器ミズ=シ=ブキ】-《百船水門アルゴス・ゲート》其の2/◦溺視できし◦』


 奴は目の前の水の球体を目にし、そう言うと今度は浮遊していた水の球体が立方体へと形を変え、そのまま上に覆い被さるように――


 突如として、ヴァンピーロの全身を水の塊が包み込む。


 水の密閉空間に閉鎖され、瞬く間に外の空気を吸うことが叶わなくなり、酸素求めて脱出しようと顔を前に出そうとするも――、


 ヴァンピーロの動きに合わせて水もまた動く為に、この空間から強引に抜け出すことが出来ず、呼吸困難となってゴボゴボッと口から泡が上がる。


 ならばと、【睅澹霧血ブラッデイヴァポレイト】で身体の一部を霧状化――それが水に晒されて液状化しては、続け様に例の能力を発動。


 水の中で液体上になって、ヴァンピーロの身体から流れる血液が突如として、数匹の南米犬魚ペーシュ・カショーロ軍団へとその姿を変身させていく。


 魚類特有のエラ呼吸が水中の溶存酸素を取り込み、彼女の肉体から分解されて波形上にウヨウヨと漂う――、ゆらりくらりと左右に湾曲した血液の波が、まるで酸素チューブのような繋がりをもって、南米犬魚ペーシュ・カショーロから得た酸素がヴァンピーロの体内へと供給されていく。


 さながらその形は《へその緒》の如く――


 南米犬魚ペーシュ・カショーロという『子供達』とヴァンピーロの『母なる肉体』が、《血液》という名のくだに繋がれた通り道パスを介し、【母が摂取したものを、子が吸収するように】―――、


 南米犬魚ペーシュ・カショーロ軍団が吸った酸素が、今まさにヴァンピーロの身体の中に取り込まれている。


 しかしこうなることは、さきの能力を目にした手前、予想の範疇はんちゅうだった使い手の【白妙の蟲眼金ホワイト・パラ=ド≠ラ=ックス】は次なる技の仕掛けへと移る。


『【水視武器ミズ=シ=ブキ】-《百船水門アルゴス・ゲート》其の26/◦老水視ろうすいし◦』


 奴が立方体型の水を目にした瞬間、澄み切った水は瞬く間にドブの水のように濁った、腐敗臭のする腐った水へと変異する。


『これではまともに、呼吸もままならないだろう。さて、どうする?』


 魚が暮らすには実に不適合なその水質の中――、次々に南米犬魚ペーシュ・カショーロ軍団が苦しむ様子を見せていく。


 どうせこの水の密閉空間から抜け出そうとすると、先程のように――中にいる者の動きに合わせて、しつこく付き纏うことであろう。


 供給がままならなくなり、またも酸素の確保が必要となったこの事態を前に――、ヴァンピーロはというと、


 自身を包む水が濁った色を見せ始めたことに、危険を察知しての行動だろうが………しかしそれでは、基本的に対象物に目を向けてその力を開放する、神眼に宿る異能力-《めぢから》の使用を自ら封じてしまうようなもの―――。


 だが彼女の『目』は一匹の南米犬魚ペーシュ・カショーロの目を通して、視覚情報の同調リンクがなされ―――ある《目血幹めぢから》が発動される。


 この時、南米犬魚ペーシュ・カショーロが捉えていたものは、血を流し倒れたままにいた《柴倉見桐しばくらみきり》の姿――――。


 ヴァンピーロの神眼模様漆黒と真紅の目をした南米犬魚ペーシュ・カショーロの瞳が、見桐の周りに出来た血溜まりや服に付着した血を捉える。


 するとそれらの血がスルスルと液体状に一ヶ所へと集まり、徐々にそれは一つの形を形成していく。


 人の顔や身体の凹凸が再現された、何処どことなくに似た、一糸纏わぬ血塊の人型シルエットが出来上がると、それは人間と変わらず、手足を動かして歩みを取る。


 そうしてヴァンピーロが捕らえられた、濁った水の塊の前へとおもむくと、血塊は左腕を斜め上に上げると、さきのヴァンピーロが蝙蝠コウモリやら南米犬魚ペーシュ・カショーロやらに変異していた、謎の変身能力みたく―――


 上げた左腕は巨大なコンクリートブロックへと変身すると、その重さと重力に身を任せるように――、モノが落下する勢いで間髪をいれずに下される。


 勢いよく叩き付けられた衝撃で水が割れ、救出されるヴァンピーロ。


 息苦しそうにピチピチとその場に跳ねる南米犬魚ペーシュ・カショーロ軍団は、紅黒い霧状に変異すると霧は一ヶ所に集まり、完全なるヴァンピーロの身体の形へと元に戻る。


『何ッ!』


 謎の血塊の行動によって、あの状況を脱した衝撃の事態に――、目力:【水視武器ミズ=シ=ブキ】使いの【白妙の蟲眼金ホワイト・パラ=ド≠ラ=ックス】が思わず声を上げる。


目血幹めぢから:【血視霊ネクローフィ】。目にした血のDNA情報から、その動物の姿・形を模造した『動く血塊』を造り出し、術者のうりょくしゃの意のままに支配下コントロールすることが出来る異能。

 その姿はさながら血を媒体にまれた、姿形をかたどりし、意思のない死霊の如く紅き化身――――」


『DNA情報………そうかっ!だから奴と同じ形を……………だが、あの血塊が使っていた能力は――』


「その血塊を生み出すは能力の性質上、多量の血を要することから、一体造るだけでも致死量の域――だがその分、優秀な力を持っている。

 さきの力を見て思ったように、血塊はイオの使う目血幹めぢから使ことが出来る。

 同じように模造したところで目は無い為、一般的な目力の発動条件である、【能力の対象となるものを目にする】――という工程をといった特徴がある」


『成る程………さっきのあの血塊が、腕を妙な変身能力で変異させていた原因は―――それか。仕方ない』


 そう言って、【白妙の蟲眼金ホワイト・パラ=ド≠ラ=ックス】は再度、あの力を行使する。


『【水視武器ミズ=シ=ブキ】-《百船水門アルゴス・ゲート》其の1/◦水視すいし◦』


 再び奴の目の前に水の球体が顕現されると、それはヴァンピーロに向かって迫り来る。


『《水網漁ハント》ッ!』


 最早もはや、一芸のようにヴァンピーロを捕らえると、フヨフヨグニャグニャ………型に嵌まらず柔らかく、折れずして捻れ、形が変わりやすい水の中――


 その水は性質を変化する。


『【水視武器ミズ=シ=ブキ】-《百船水門アルゴス・ゲート》其の5/◦圧視あっし◦』


 立方体状に形を整えた途端、水波がピタッと止まり、しん――っと静まり返る水の塊。


 一切の揺れが消えると、身体中が締め付けられるように――押し潰されるように――骨格が粉々に折れ、指の爪が裂け、身体が重い感覚に襲われ始めた。


 鼻も喉も潰れて、悲鳴を上げるも――、呼吸をするも――、無くなっていく…………。


 一刻を争うこの事態、潰れて目がひらけなくなる前にヴァンピーロは肉体を霧状化させ、一帯の水に浸けた霧は溶け込んで液状化を起こしていく。


『この水圧の前には、当然そうせざる得ないだろうな』


 何やら意味深な発言をする、目力:【水視武器ミズ=シ=ブキ】使いの【白妙の蟲眼金ホワイト・パラ=ド≠ラ=ックス】。


 奴はその状態の水を眺めながら、更なる派生能力を行使する。


『【水視武器ミズ=シ=ブキ】-《百船水門アルゴス・ゲート》其の32/◦斬視ざんし◦』


 ヴァンピーロが液体状になって取り込まれた水の塊が謎のとなって変異し、《柴倉見桐しばくらみきり》の形をした血塊に向かってそれは飛来する。


 斬撃の正体は、物凄い水圧によって出来た


 斬月の使う【鎌鼬】のような攻撃と鋭い切れ味を持った、大きな斬撃の刃が血塊を襲う。


 血塊とは言え、その正体はただの血液―――。


 液体人間の存在にそのような物理攻撃が効かないことぐらい、誰の目から見ても分かり切っている行為である。


 一体どのような考えを持って、有効打にならなそうな攻撃を血塊にぶつけようと言うのだろうか?


 この時、液体状になって水の塊に閉じ込められていながらも、ヴァンピーロ個としてのの意識が何かを察した。


(まさかッ………、アレを狙って………………だとしたら、ヤバいッ!

 奴め………先んじて水圧の力を行使したのには、単にこちらの身動きを封じる為の役割を作り出すだけに留まらず、そこからイオが姿を戻したくとも、圧力が働いている以上、この状況を作り出して――――

 そこまで計算を見越して、あのだったのだとしたら、まんまと奴の手に引っ掛かったことに…………こ、このままでは――――

 やめろぉぉ――――ッ!血塊よ、この攻撃を素直に受けるんじゃあないィィ――――ッ!)


 最悪な運命ビジョンが浮かんでもしたのか、奴の狙いにでも気付いた様子のヴァンピーロだったが、彼女の心の叫びが静かに流れていくまま、事態はすでに遅し――


 生成されたウォーターカッターは、血塊を切り裂いた後だった。


 ジェット水流のように一直線に射出された、銛のような直線を描く水の刃ウォーターカッターが血塊へと衝突を起こし――、


 その衝撃によるものか、血塊を切り裂くと同時――、水の刃は矛先から削れていくように飛沫しぶきを上げ、分散していく。


 単なる強力な水圧による刃が血塊に向かって飛んで掛かって来た………なんて、そんな出来事に収まることでは無いことが―――………


 今ここに【白妙の蟲眼金ホワイト・パラ=ド≠ラ=ックス】が仕掛けた手口が、形となって現れることとなった。


 ……………………………………


 粒状になった水が――、ぷつんと裁ち切られた裂け目からドバッと勢いよく漏れ出た、血塊を構成する人の形をした虚実の容器空っぽの心並並なみなみと注がれた血液と触れる。


 一度は形が崩れるも、再びバラバラに散った血液は結集していき、怨みがましく死霊のように血と血が塊を造ってウネウネと蠢き蘇っていくかのように、その姿は人型へと戻―――


 ――ることは決して適わず、その姿は液体と固体と中間体のような、不安定なの姿へとなってしまった。


 秘密は、飛ばしたにある。


 あの水にはヴァンピーロの血液体組織が混じっていた、真水では無いということ――。


 そう、水の斬撃-〈ウォーターカッター〉に染み込んだヴァンピーロの血液………血と肉が混同した組成分―――まさに言葉通りの『血肉』が血塊を構成する他者の血液―――《柴倉見桐しばくらみきり》という人間の……、個としてのDNAとヴァンピーロ自身のDNA――


 異なる二人のDNA情報が混じり合い、混在してしまったことで《柴倉見桐しばくらみきり》という、先の人型の姿フォルムをとることが出来ず、液体と固体の中間体のような姿へと変質してしまったのである。


 そう、奴の狙いは――


 ヴァンピーロの血液体組織を、別の人物の血液と混在ミックスさせることにあったのだった。


 これにより、ヴァンピーロは元の姿へと戻ることが出来ず、実質―――


 奴の……、【白妙の蟲眼金ホワイト・パラ=ド≠ラ=ックス】の策略によって、身柄を拘束されてしまったことになる。


 あの時――


 血塊が水の刃に衝突する直前、目血幹めぢから:【視血しけつ】の力を使って、ヴァンピーロの血を利用してウォーターカッターを固めることが出来れば…………


 そうすればぶつかった衝撃で中の血が飛散することも無く、よりにもこんな――血塊内部に身体の一部を取り込まれるなんてことが防げたかもしれなかったというのに…………。


 しかしそれが出来なかったのは、他でも無い。


 元より奴が―――こうなる運命を完全に掌握操作していたところにある。


 圧迫された水の中に取り込まれている以上――、無理に能力を解除してしまっては身体が水圧に耐え兼ねてペチャンコにされてしまう。


 その為―――


 目の前の障害を乗り越える為には、そう動かざる得ないと選択肢の余地を無くし、先の動きを誘導――……。


 、霧状に身体を変異する力を好き勝手に解除出来ない状況を作り上げる。


 まさしく、さきの自分の言葉の――【能力の対象となるものを目にする】ではないが、能力発動の不便さが障害となって、我が身へと降り掛かってきたように―――、


 血塊に能力発動の指示を送る、見るトリガー動作を行うことが叶わず、哀れにも墓穴を掘る結果となってしまい………


 後はそのまま、反抗する手立てを完全に封じられてしまったところを、良いように狙われたという流れである。


 耳まで粒子レベルに液状化しているヴァンピーロに最早もはや、言葉を拾うことは適わないであろうが、そんな彼女に向かって悪戯に―――奴は口を開く。


『……―――どうです?貴女の言う、目力の基本的発生機序………その《根底》を逆手に利用させて頂きましたよ。

 それもこれも、百通りの変化を起こすことが出来る、【水視武器ミズ=シ=ブキ】の万能な力があってこそのこと。

 ……さてと、最後の一仕事任せましたよ――――“ 私 ”』


 そう言って、後ろに立つ一人の―――【白妙の蟲眼金ホワイト・パラ=ド≠ラ=ックス】の方へと頭を向ける。


『……ままま、待ァァァァッッてましたァァ――――ッ!遂に私の出番ですねェェッ!

 手こずり過ぎなんですよォォ〜、ほんと。

 あのですねーもっとこう、テ・キ・パ・キと遂行出来なくッちゃ!ねェ〜〜!

 いやァもう待ち過ぎて―――、くたびれちゃって―――、背中と脳天が引っ付くぐらいに、ひん曲がってしまうかと思いましたよォォ――――ッ!

 それこそ、そこのスライムさんのように、身体が柔軟して………ッて、そこは笑うところでしょうにィィッ!』


『ああもうッ、五月蝿い!こんなのが一人の私だと思うと、とんだ恥でしか無いと言うのに………。

 一体、どんな世界線を歩んだら、こんな私になるのだか…………さっさと自分の仕事しろッ!』


『りょりょりょ、了解でェェ――――すッ!』


 やたらテンションの高い、お調子者な【 白妙の蟲眼金ホワイト・パラ=ド≠ラ=ックス】のマスクの下には等間隔に縦縞模様の並ぶ瞳孔―――、《薄暗い牢を思わせる灰色の虹彩の神眼》が花開く。


『目力:【視檻オクーロック】/{絆視ほだし}』


 奴の視線――スライム状の血塊の地面下立ち位置から、トラバサミのような枷が生成されると、血塊を拘束。


 更には、追い討ちを掛けるように、地面からロープも一緒に生成―――。


 それは伸びていき、地面を支えに上から押さえ付けるように、四方八方に縛り上げる。


 スライム状の血塊が――完全に身動きが取れなくなったことを確認すると、更にその上から能力を発動していく。


『目力:【視檻オクーロック】/{牢視ろうし}』


 またも視線の先――地面下から厚い鉄板と、鉄格子からなる《檻》が出現すると、拘束された血塊を覆うように――――……


 ロープは鉄板の床の先から生えるように枷はそのまま上に乗るようにして、天井にも同じく厚い鉄板が生成されては、丈夫な{アルミ製:運搬ケージの檻}が形作られていく。


 ギュウギュウに押し潰されるように狭いスペースの檻の中へと閉じ込められ、ヴァンピーロの血液体組成の一部を含んだまま、完全に逃げ場を失ってしまった血塊―――。


 混濁した神眼の粒子物が水か――、血か――、将又はたまたその両方か―――


 どちらに紛れている共受け取れる液体をこの手で両方とも確保お持ち帰りするように――、水の球体もまた、上から被さるように別のケージを出現させ、檻の中へと閉じ込める。


 囚われた二つの液体の塊―――……


 それを裏から見ていた藤咲芽目らその他、【白妙の蟲眼金ホワイト・パラ=ド≠ラ=ックス】。


『アハハハッ、あいつ完全に終わったねェ〜~!』


『それじゃあ、次はを片付ける番だね』


『大・賛・成ィッ!』


「――えっ?」


 聞き間違いだろうか?


 芽目は思わず、そんな声を上げる。


『誰が手を組むことに賛成したかな?』


『だよねー!ねー!』


「まさか………ル気か?私の力を見ただろう。そこのあいつのように、捕らえられる訳が無い」


『……こいつは随分と、良い様に『私』達に乗せられて……………』


『アハッ♡馬鹿だこいつぅ~!……あの時言ったことは所詮、私らは数だけの存在で抑えられようが無いとその気にさせて、軽く持ち上げておだてていただけに決まってんじゃん!

 まさか、あんな臭い乗せ方でその気になっちまうだなんて…………ウケるんですけど』


「は?………何を言って……………」


『まあ言うより、見せた方が早いか。それじゃあ、まずは《私》からッ!目力:【重視じゅうし】!』


 すると、天秤で物を量る際に使用されるような、《おもりのシルエット円筒型分銅の形をした瞳孔に、青灰色の虹彩の神眼》がマスクの下で開眼される。


「ぐッ……なんだ身体が…………重く…………がぁぁあああああぁぁぁぁ――――ッ!」


 芽目の身体に突然の重圧が掛かり、鉛のように重くて動かせない程の規格外の衝撃が全身を覆い被さると、それに伴い、足下に亀裂が走る。


 耐え難いその重さを前に、芽目はガクンッと足に力が入らなくなり、勢いよく腹を打ち付けて地面に沈み込むように這いつくばる。


『うっしっし!この力は目力:【重視じゅうし】。開眼時、目にした動物・静物に対し、重みという重見おもみを加えることの出来る異能だよっ!

 その重圧制限は脅威の無限大!身体がグシャグシャになる程、重圧を掛けることだって出来るよ♡』


「……がッ…………ぐぐッ……………」


 重さのあまり、身体中の自由が効かなくなり、正直言って指の一本を持ち上げるのも困難な程に辛いが、それではこの状況を脱することが出来ない始末―――。


 芽目はどうにか今持てる力を振り絞り、右腕に付けている腕時計型コンパクトミラーへと視線を動かす。


 瞬間、芽目はこの場を避難するように、先程―― 風辺眸衣ふらべむいを撒いた建屋の屋上へと【視認瞬移テレポーテーション】する。


 すると、身体がまともに動かせるようになり、急激な軽重差に脱力感を覚え、思わずフェンスに寄り掛かるように両足伸ばして床の上に座ろうとする。


 その瞬間だった―――……


 ……………………


 ……………


『……あれ?逃げられちゃった。ほんと、不便で仕方無いよ。

 重圧に制限は無くとも、効力は対象をに限るんだもん〜っ!

 どうしよー!折角仕留めようと、張り切っていたのにぃ〜!』


『……そんなことになるかと思ったから念の為、私がうつむけになった奴の姿をだろう?』


『ええっと………常に抜け目無い{私}。そのマスクの下に宿している目力は―――そっか!

 を仕掛けていたってことだねっ!やるぅ!』


 ……………


 ……………………


 ガコンッとフェンスに寄り掛かった衝撃で、何故か身に付けていた衣類が


 フェンスが――、それと一緒に近くの床の一部が――崩れ、背中から落下するように芽目の身体は宙に浮いていた。


 爆発―――とは言え、何処どこか威力が抑えられていたように、四肢が吹き飛ぶような威力も無く、原形を留めた状態で舗装されたコンクリートの道に向かって、真っ逆さまに落ちていく。


 まるで始めから回収を見越して、眼球が吹き飛んでしまうことを懸念してか――、将又はたまた下手に大きな爆撃と爆音を立ててしまって、その騒ぎで一般人が集まりでもした場合の、不都合になることを避ける為の仕掛けか――。


『目には目を―――目力の対処法は目力に限る。当たり前だが、実にシンプルで良い。

 目力:【爆視ばくし】。この目で捉えたもの――、それが動物だろうと物だろうと、何だって爆発物へと変質させることの出来る異能。

 ちょっとの衝撃でも与えると、簡単に爆発を引き起こしてしまう。まさしく、爆死だな。

 とは言え、この力の良いところは、あらかじめ爆破の威力を感覚的に調ことが可能だと言う点。ある時は爆発力を弱め、目立たず敵を追い詰める――、またある時は、早々に片を付けたい場面において、破壊力重視で一撃で粉微塵にする――。

 そう―――、この力が成せる爆発の大小幅広い調整力にこそ、実に私の至高にして嗜好!

 雑に爆ぜるのは、私の美学では無い。芸術は爆発!スマートに、そして静かに散ることだッ!』


 マスクの下で静かに、黒い丸玉から導火線が出てる形――《【爆弾】と言ったら、言わずもがな!といったシルエットをした瞳孔に、緋色の虹彩の神眼》が光り輝く。


『おーおー、汚い花火が点火されましたこと。散った花火から、真っ黒焦げの燃え滓が落下しましたわ…………なーんて』


『良いねぇ~!その表現ッ!花火玉も爆弾も、おんなじようなものだし?

 さっすが、{私}って感じ?いやぁ~、言葉のセンスが光り輝いてるねぇ~!

 ――なんてこの‘私’も、ちゃっかり二つになぞらえて、ちょっと言ってみたり?』


『ちょっと待て。汚いって可笑しくないか?花火と言ったら、綺麗なものだろう。

 その表現は実に、ミステイクにしてインコレクトだ』


『えっ!ちょっ………さっきの‘私’の下りは、さらっと無視ですかァァ~~~ッ!

 まぁ、良いですよっと。別に構ってちゃんな‘私’って訳でも無いしィ~!

 それにしても………始めからもっと遠くに瞬間移動されてしまって、折角爆弾を仕掛けても爆破の瞬間―――、居場所の目印が捉えらない可能性ケースだって、有り得たかもしれないじゃん?

 なのに、どうして爆発が捉えられると踏んで、あらかじめ爆弾を仕掛けようだなんて賭けに出たの?』


『こいつは賭けじゃない。そんなのは奴の行動・言動から、ある程度考えて見れば、それとなく推察出来ることのように思えるが―――とその前に………落下する奴の回収をするのが先決だろう』


『あーい!それじゃあ、私の出番だぴょーん!

 ――秘技!目力:【引目ひきめ】!』


 またも違う個性タイプを持ったぶりっ子な‘私’が現れたかと思えば、そいつも神眼を開眼させる。


 縦横の曲線からなる、ワイヤーフレームでモデリングされたトンネル状の形をした――、青の電光色カラーのような眩い光を放つ、きめ細やかな虹彩。


 そんな瞳孔がライトアップみたく、対照的に引き立って見える、背景色のような黒の瞳孔………言い換えれば、《縦横の格子上に細かく出来た、一つ一つの【四角形の塊】が全てという、奇妙な瞳をした神眼》がマスクの下で顔を出す。


 まるで節足動物の複眼を構成する『個眼』のような、細かい粒状の瞳孔をした神眼が落下する芽目の姿を捉えると、突然何か《巨大な掃除機の口》が目の前に現れたように―――


 芽目が瞬間移動する一瞬のタイミングよりも早く、ゴォーっと風を吸い込んでいく音を立てるの中へと吸い込まれるように―――、


 一瞬姿を消したかと思えば、彼女は元いた【白妙の蟲眼金ホワイト・パラ=ド≠ラ=ックス】のいる地点へと、どういう訳か


 何が起きたのか、見えざる穴に連れて行かれるがまま、芽目は訳も分からず再びこの場所へと降り立ってしまい、そんな彼女を置き去りにするように着々と始末する段取りだけが進んでいく―――……


『いえーい!ドッキリ大成功的な?これって、そういうノリでしょ?ギャハハッ!ギャハハッ!ギャハハハッ!』


「な、何故…………この場所に戻って来ていて――――」


『かなりの悪趣味だな、―――私。……まぁ何だって良いや。早いとこ、終わらせるとしようか』


『マジ同意!私、もう飽きちゃったよぉ~~』


『それよりもこいつが逃げられないよう、さっさとアレ、やっちゃって♡』


『え……えと………あの………、そ……それ………じゃあ…………私の出番、か……な……………』


 これまた何ともはっきりしたさまを見せない、引っ込み思案な[私]が現れる。


『ちょっとぉ!シャキッとなさい!一人の私として、もっと自信を持って!ねっ!』


 そう励まされると、ガチガチに身体が震え縮こませながら、恐る恐る………《閉じた瞼のような形状の瞳孔に、柳色の虹彩の神眼》を開眼し、芽目に向かって視線を動かす。


「えっ………な、何で………何が起こって……………う、嘘だろ…………め……目が…………閉じて視界が……………うわぁああああぁぁぁぁ――――ッ!」


 すると芽目は何も出来ない様子で驚怖する姿を見せ、必死に視界を確保しようとせんばかりに、閉じられた瞼を掻きむしるように爪を食い込ませ、乱暴に引っ掻き回し始める。


 それだけ焦るのも、全ては【Pilleur de oeil】における生死の運命のその殆どが神眼の目力頼りなところが強いからこそ、本質的に急き立てられる衝動であるに違い無かった。


『……えっ………ええっと………えとその………こ……この力は………め………めめ…………目力:【閉目とじめ】。目が合った者への瞼に強制力が働き、無理矢理押さえ付けられたように強引に目を閉じさせる異能…………です。

 こ……これで…………彼女は瞬間移動が出来なくなった…………と思う』


『流石だね、私っ!そんなにも強力な力があるんだからさ、ドッシリ構えていれば良いんだよっ!』


『だっ………だって、この力は強過ぎて、どうしても発動するとなると………その……躊躇いが…………』


『何で?命が懸かっているんだから、躊躇うこと無いじゃん!』


『私………皆ほど度胸無いし、そ……その………人間性が欠如して、ない…………から………』


『えぇ~~ッ!何それ、酷くない?そこは生存本能だとか、もっと綺麗な言い回しがあるでしょうにぃ〜〜!

 ほーんと、同じ私だってのに………そんな言い方無いと思わない―――私達?』


『そんなことを話している場合じゃないだろう。―――奴め、命の危機に瀕して必死さのあまり、血も瞼も無くなる勢いで掻き毟りまくっていやがるぜ』


『そいつは止めねーとだな。――あ、念の為、奴に馬鹿な真似出来ねーよう、もう一度【重視じゅうし】やっといて!そんじゃあ、私は私で………っと。

 ……なぁおいっ、おーいおいッ!そうだそこのッ、【水】と【牢】の力の私ッ!お前らのことだよっ!

 ちょいとお二人さんのお力、お借りして良いですかぁ――――いッ!』


 これまた厚かましい<私>が、浜辺側にてヴァンピーロを捕まえた組の『私』達に向かって大きく声を掛けると、それに反応した二人の私が振り返る―――。


 一方……、目力:【重視じゅうし】使いの【白妙の蟲眼金ホワイト・パラ=ド≠ラ=ックス】は言われた通りに芽目に向かって能力を行使し、必死に動かしていた両手に重圧が圧し掛かり、何も出来なくなり苦しくなって呻き声を発する芽目の姿が転がっていた。


『………どうやらご指名のようだぞ』


『ちょっ、二人による合わせ技はどうするんですか!』


『何を言っているんだ?

 始めからそんな打ち合わせはしていないし、こいつを捕らえられた以上、それをわざわざ行う目的が――、必要性が――、何処どこにも無い筈だろう』


『そりゃ無いってェェ〜〜ッ!最後に大技を決めてこそ、異能力バトルの醍醐味ってもんでしょうにィィ――――ッ!』


餓鬼ガキかッ!どうせ、あの物好きがやるに決まってる』


『まぁ……?確かに?あの<私>なら、やり兼ねるかもしれませんし?

 何より他でも無い、私の頼みですし?

 特別、断る理由も無いし?

 本音を言うと、私がバシッと格好良く、決め台詞なんか言っちゃって、かましてやりたかったところですけどォォ?

 ……そうだねェェ――――ッ!ここは寛容な私が、その座を譲って上げるとしましょうかァァ――――ッ!』


『やがましッ!なーにがッ、寛容な私だっての。ただただ、テンションの高い私の間違いだろ。……まぁ、何だって良いや。さっさと準備しようぜ』


 こくりッ、と遠い二人の【白妙の蟲眼金ホワイト・パラ=ド≠ラ=ックス】が同時に頷く。


 少しだけマスクを持ち上げて浮かし、【水視武器ミズ=シ=ブキ】使いは左目を―――、【視檻オクーロック】使いは右目を―――、それぞれが片目一つの裸眼を晒し、声を掛けてきた【白妙の蟲眼金ホワイト・パラ=ド≠ラ=ックス】のいる方へとその視線を向ける。


『それではっ!13/M……いえ、直ぐに事足りるでしょうから、13/Sだけお借りしますッ!

 目力:【眼位交替アイ・レリーフ】/カウントS:一三見いさみで………ッと!――――セット!OK!』


 瞬間――、それぞれが晒し出していた神眼が………まるで《スチール缶の識別表示マークから『スチール』の文字を抜いた、上下に円弧型の矢印と―――、その中心に目玉のようなマークが描かれた形をした瞳孔に翠色の虹彩の神眼》へと一瞬にして


 よく見ると、中心の瞳に文字が映り込んだように、13S――――……12S……………と、時間を刻むように、徐々に小さく瞳の中で数が切り替わっていく【数字カウント】が出現しているのが分かる。


『ではではァ―――、~《一人完結型合技》~…………』


 そう言って、マスクの下でウォーターブルー色と灰色の二種の眼光が漏れ出し、神眼が同時展開される。


『【水視武器ミズ=シ=ブキ】-《百船水門アルゴス・ゲート》其の1/◦水視すいし◦………――からのぉぉ………【視檻オクーロック】/…………』


 異なる能力を掛け合わせ、何か一つの大きな力へと変換させようとする。


 そのようなことを容易く行えるのもひとえに―――、確かな世界線が違えど、他の誰でも無い―――、“ 私 ”が扱う目力であるからして、その一つ一つが熟知されているのか…………。


 出来て当たり前のように、それぞれが性質の違う要因めぢから操作コントロールし、単に混じり合うものとしてでは無く、それは………


 互いの能力の持ち味を殺さずに――、


 相乗効果を起こすように――、


 比類なき、唯一無二の異能を生み出す芸当を見せる。


目掛けるポジャ=ン:――◦{水牢視すいろうし} ◦――!』


 直後――、地面から丸々一人の人間を包み込んでしまう、大きな籠のような牢が芽目を中心に展開され、それと一緒に手枷足枷をも下から生えるように生成されると、【重視じゅうし】の目力の影響でまともに身動きの取れないまま、いいように彼女の身体を拘束。


 そのまま糸も容易く、牢の中へと閉じ込められたと同時―――


 そこから畳み掛けるように、これまた牢の中を一杯に満たす水の塊がその場に纏わり付くように、中で回り続ける激しい水流地獄が水没の如き――、幽閉空間が築き上げる。


 そんなまともに息が出来ない環境に芽目はすぐに限界を迎え、ゴボゴボッと口から泡を吐き、溺れ掛けようとしていた。


 意識を失うのも、時間の問題である。


『うっし!これで奴は、完全に逃げられなくなったことだろう。――あ、ほらっ!落ち着いたことだし、さっきの話の続きでもしたら?何やら、そこの水に浸かっている奴が近くに飛ぶと読んでいたかのように、爆発を仕掛けていた理由ってのを聞きたかったのだろう?』


『あ〜それね。けど、その話の前にちょっと良い?』


『何だ?』


『思ったんだけどさ。いくら【閉目とじめ】発動中によって、あの子の瞼が強い力で閉じられているとは言え、【重視じゅうし】を掛けた時点で彼女に打つ手は無かっただろうし、強引に手を中に突っ込んでさっさと両目を回収したら、良かったんじゃないの?

 何でまた、隔離だなんて………そんな手の掛かる方法をする必要が?』


『それは、奴の持つ能力の具体的な発動の為の要素トリガーが、明確にはっきりと分かっている訳では無いからな。奴をあの牢の中で溺れさせ、気を失ったところで【閉目とじめ】を解除し、それから両目を取る方が確実だ』


『言われてみれば………確かにそれな!いやぁ~、私の新たな謎解明っ!的な?

 まぁここで一つスッキリしたことだし、本題に移させて頂きますか!………って、流れなんだろうけど、そこの《水もしたたる………どころか、《水も浸かる危うい女》が近くを飛ぶ確証があったとか無いとか、前もって爆弾を仕掛けようとしていた訳、何となく分かっちゃったんだよねェェ~!』


『ほぅ………、なら――その推察を聞かせてはくれないか?』


『まず、奴とのやり取りを振り返っていたんだけど、そういや初めの方、私達に対して「手を組みやしないか?」なんて誘いをしていたなってことを、思い出してさァァ――――ッ!

 こちらは始末しようと動いた訳が、一度は手を組もうと考えていた相手。

 人間、一度決めたことはそうすぐには諦め切れない執念の塊だもんなァァ――――ッ!

 危機的状況を脱する為に瞬間移動をしていた訳だが、完全に逃げ出すと思わせて、どう私達を屈服させようか、近からず遠からず―――差し詰め、能力の弱点でも突き止めようと探り入れる為の、神眼の超視力をもってして見える距離感・適度な立ち位置。

 それ以上に離れた位置に飛ぶことは無いだろうと、あの一言から全てを踏んでいた…………これが私なりに導き出した【答え】なんだけど、どうかな{私}?』


『嗚呼、褒めてやろう。実に完璧な答えにして、無駄の無い推察だ』


『いやぁ〜、やっぱ同じ私だから、それなりに頭を働かせれば、考えていたことが分かるもんなんだねェェ――――ッ!

 ――まぁ?これで全ての疑問が解消されたことだし?

 後はさっさと、液に浸かったケージの中の二人が力尽きて、目力を維持することが出来なくなったところでガシッと、四つの眼球を奪っちまおうぜェェ――――ッ!』


『そうだな。溺れかけのそいつはともかく、スライム状になったあいつはいつになったら諦めてくれることやら………』


 ………その頃、近くを通り掛かる一人の人物がいた。


 見覚えのある――《布都部高校》の校章が入った通学カバンを両腕に通す形で背負い上げ、部活帰りの買い物後だったのか、土汚れの布都部高校野球部NEMTD-PCユニフォームを着たまま左手にジャガイモやら、パン粉やら、挽肉やらが入ったエコバッグを引っ提げる少女。


 【白妙の蟲眼金ホワイト・パラ=ド≠ラ=ックス】の連中がたむろする、海岸を隔てて護岸上に広がる道路を歩いていたその少女は、普段は波の音だけが聞こえる静かな海岸でちょっとした騒ぎが聞こえ、ふとそちらへと目線を動かす。


「あれは―――」


 このご時世――、いくら今日みたいな猛暑日だからと、迂闊うかつに外で水遊びをしていては、折角塗っていた筈のNEMTD-AC肌防熱寒クリームを海の水で流し落とすようなことに成り兼ねない。


 それこそ――、極度の熱中症に襲われたりでもして、命の危険に晒されるなんてことだって…………


 時期問わず、漁師や運搬船以外で海に近付く者はいなくなっていったものである。


 とは言えここは港では無い為――、尚更に人が集まることは無い。


 だからこそ疑問に思えて目線を海岸へと動かせば、そこには妙な水と牢に閉じ込められた一人の《人間》と―――、その更に奥では小さなゲージに閉じ込められた、動く《スライム》が目に映る。


「……平山家ひらやまけ家訓その1:困っている人には、まずはコロッケのような優しい温かさを持って、真心込めて何も聞かずに手を差し伸べること。

 状況に応じて、助けられた筈の命を取り逃がすことになっては、一生の悔い有り――。

 ではでは……いっちょッ、かっ飛ばしてやりますかっ!本試合―――…… (眼)球プレイ争奪開始ボール!」


 ここに平山椛見哩ひらやまもみりと言う、一人の少女が人知れず立ち上がろうとするのだった。


 ----------------------------------------------------------------------------------

 ◼︎能力解説◻︎


 目力:【目異宮ノ門アイホート

 視界いっぱいに多次元世界………無数の並行世界へ繋がる、数限りない《門》を展開し、異なる世界線に存在する己自身をこちらの世界へと繋ぎ合わせる異能


 これだけでも十分に強い能力と言って差し支えないが、この神眼が持つ力の真価は、これだけに収まることを知らない………


 イメージ画:https://kakuyomu.jp/users/chaian/news/16817139559071017744



 目力:【電目でんもく

 この目で捉えた、電気を通すもの-物体や生物など、『半導体』・『導体』であるものを対象に、際限無く電気を流していくことが出来る異能


 ただし、同じ電気系統の能力である【変幻自雷へんげんじらい】と違い、ただただ生物を対象に電気を流せるだけの【電目でんもく】に比べ、不定形なものに形を与える変性や射程を持つ特異性が無い為、やや汎用性に欠けることから、目力:【変幻自雷へんげんじらい】の下位互換にあたる。


 イメージ画:https://kakuyomu.jp/users/chaian/news/16817139559071091959



 目力:【水視武器ミズ=シ=ブキ

 視線の先に水の塊を創造し、そこから派生して百通りの《水》を応用した技を繰り出すことを可能とする異能


 別の意味でも『目が泳ぐ』ような力である。


 イメージ画:https://kakuyomu.jp/users/chaian/news/16817139559071209465



 目力:【視檻オクーロック

 視点の先にあらゆる捕具を、一から生成してしまうことの出来る異能


 イメージ画:https://kakuyomu.jp/users/chaian/news/16817139559071239467



 目力:【重視じゅうし

 目にしたものに対して、重みを掛けることの出来る異能


 ただし、対象を目にしている間のみ重みを掛けられる。


 イメージ画:https://kakuyomu.jp/users/chaian/news/16817139559071260390



 目力:【爆視ばくし

 目にしたものを何でも爆発物へと変質させることの出来る異能


 爆発の種類も実に自由であり、ちょっとの衝撃ですぐに爆発するタイプだったり、時限式タイプだったりと状況に合わせて好きに設定をすることも可能。


 イメージ画:https://kakuyomu.jp/users/chaian/news/16817139559071279786



 目力:【引目ひきめ

 見えても小さ過ぎる程に距離が遠い対象であろうと、この目で捉えさえしたものを瞬く間に吸い込んで使い手の目の前へと引き寄せてしまう、不可視の次元孔路トンネルを引き出すことの出来る異能


 イメージ画:https://kakuyomu.jp/users/chaian/news/16817139559071307561



 目力:【閉目とじめ

 目が合った者の瞼に対して強制力が働き、強引に目を閉じさせる異能


 イメージ画:https://kakuyomu.jp/users/chaian/news/16817139559071326327



 目力:【眼位交替アイ・レリーフ

 開眼時、目にした神眼と瞬時に入れ替わり、定めたカウントまでその目を好きに行使することが出来る異能


 カウントが過ぎると、自動的に持ち主の目と元に戻る。


 イメージ画:https://kakuyomu.jp/users/chaian/news/16817139559071344127

                           監修:M.K.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る