⒉ 犬視(4) 独り身の一人見

 時は三十分ほど前へと遡る。


「……確かにあの時、大学の御学友だと言う………、仲間の神眼者の紹介があったタイミングにでも、会わせる機会をつくるみたいなことを、言った気がしないでも無いが―――、

 ……まさかその二日後に、こうして出向いて来るとは、思ってもみなかった訳で…………

 それにしても、こりゃあどこぞの男前だよッ!本当にお連れさん、女の人か?」


「良く周囲からは見間違われてはいますが、正真正銘、女性ですよ―――彼女。

 それより、すみません。丁度本日でしたら、互いに休みが重なるタイミングだったものでしたので、突然連絡したにも関わらず、このような機会をつくって下さいまして、本当に申し訳無かったです。

 これから一緒に協力していく者同士として、出来れば早い内にと――」


「何でまた………」


「その、先にご挨拶のあった方が……―――繋がりを持っておけばこれから共々、一緒に闘うのに絶対に必要になる力を――呼吸を合わし、連携を築く力を育てていくことになるかなと思いまして………。やっぱり、そういうのって大事だと思うんです。

 決して、自分一人で闘っている訳じゃない………命の運命は、仲間と一緒に繋がっている。一人でゲームをしている訳では無いのですから。

 先に電話で話した通り、こうしてお会いした次第でございます」


「……いや、分かるよ。機会があったら、会わせるみたいなこと言ったの私だから。

 けれど、まさかこんな早くに、顔合わせするようなことになるとは、予想もしていなかったと言いますか…………。

 正直、突然のこと過ぎてあれ………実家うちの愛犬にお目に掛かりたくて、楽しみだったとかそういう―――、

 可愛い部分が見え隠れ………と言うよりダダ漏れ……なんていう………それこそ、本音だったりなんてことあったり………なんて…………?」


「……ええっと………全く私情が無かったと言われましたら、嘘になるかもしれません、が………如何いかんせん、見ての通りと言いましょうか。

 御呼び立てした友達が何ともまぁ……動物好き………ではあるのですが、その……特に可愛い外見のものには、目が無いとでも言いますか。

 大学も小学校教師になる為入った………とか何とか。

 彼女、その為の勉強をしていて私とは学科違いますけど、度々たびたび校内で顔合わせすることもあり――、

 そこでお互いに神眼者であることを知って、他に周りで神眼者だって人も、いなかったこともあって、自然とゲームを協力し合う仲になったのですが…………何かもう、すみませんこんな奴で」


「あー……そ、だな………一つだけ言えることは、とにかく君の友達が元気の良い子だってことは十分に伝わったところだ……………」


 ………………


 …………


 ……


「うゃあぁぁぁぁ、可愛ぃぃ――ッ!よしよし、ここかなぁ?ここが良いのかなぁ?くすぐったいか?あはははっ!」


「……バ、バウゥゥゥ〜〜」


 男………否、彼女の身勝手なテンションに、当てられてしまっているのもあってだろうか、豪快に撫でられているところ、迷惑そうに低い唸り声を上げる小暮家の老犬の姿があった。


 特別目立った造りでも無い、ごく一般住宅の小暮家ではご覧の通り、伊駒皐月と例の――この前話していた友達とやらの二人が揃って、家にお邪魔しているのだが、その皐月の友達とやらによって、小暮家内で何ともカオスな状況が繰り広げられていた。


「あー………」


 小暮真木奈が何か言いたそうに、口を開ける。


「いやぁ君ィ~、良い毛並みしているねぇ~ッ!いっつも欠かさず、ブラッシングしてもらっているのかなぁ~~」


 半袖のNEMTD-PC白Tシャツの上から通気性に優れた、薄灰茶色グレージュの両胸ポケット付きNEMTD-PCサマーベストを着こなし、薄黒茶色ダークベージュNEMTD-PCストレッチパンツを履いた、全体的に落ち着いた色で構成された纏まっている大人びた格好コーデとは裏腹に―――……


 まるでロクに話を聞こうともしない、無我夢中の子供のように――、世話役真木奈のことなどお構い無しに、まだまだスキンシップを図ろうとし続ける皐月の友達。


「あ、あのさぁ………」


「ここは腕の見せ所として、私も粘着ローラーコロコロでもして、綺麗にして上げようじゃないか。ノミ取りをして……っと、痒いところはございませんかぁ~」


「……そろそろ、怒って良いかなぁ(笑顔)。怒っても良いよねぇ(作り笑い)。と言うか、これ以上やったら、家族の為に本気で怒るから(爆発寸前)」


「……あっ」


 流石の友達も察したのだろう。この空気がピリピリとした嫌な気配を………。


 怒鳴られる勢いでくるのだ、と――。


「こんなこと、いくら学生だろうと、十八も過ぎ立派に成人超えた歳した奴にこう………あれこれ言いたかないが、それ相応の接し方ってものが、あるとは思いやしないか?――相手は老犬だ。

 ……気付いていたんだろう。撫でた時の毛のパサつきを―――。ブラッシングをかけても、老いが隠れる訳じゃあ無い。

 愛犬に向かって話す君は、動揺したと悟られないよう、そういう素振り見せずに、一貫してはしゃぐ姿を見せていたが、目が泳いでいた………それは隠すことだったか?

 だから躊躇うように、急に撫で回すことは止めて、粘着ローラーコロコロに手が回ったのか?」


「………」


 なんの前触れも無く、真木奈の口からそう言われた瞬間、つい反射的に皐月の友人は粘着ローラーコロコロの手を止め、ただ黙って真木奈の話を聞き入れるようになっていた。


「……確かに、老いた愛犬の身を案じて、刺激を与えるようなことは止めろと、

 『犬の扱いがなっちゃあいない、言われなきゃ分からないのか』って、一喝してやるつもりだった、が………まぁあれだ。

 一見、力任せにガシガシ撫で荒らしてやっているように見えたものの、事実そんなことはしていなかったのが、目に付いたからな。

 幸い、愛犬うちのアイも前足で目を掻いているような、仕草サインをしてはいなかったことだ。

 とは言え……当たり前だが、犬も動物だ。世話の仕方や可愛がり方スキンシップを誤れば、炎症やら――、アレルギーやら――、発症してしまうことだってある。

 人間の赤ちゃんを扱うように、犬のことを想って、繊細に可愛がってやることが大事だ」


だが――


と、ここで一瞬、空気が変わった。


「妙なところで、気を配って空気読もうとしていたぐらいなら――、そんな気が持てるぐらいなら――、初めからうちの愛犬を見るなり、あんな体たらくを見せるのはどういう訳なんだ?

 ましてや、先生目指しているって言うのなら、《生徒のより良い見本》になるよう、節度を持って場を弁えた行動ってのを、それなりに意識して気を付けておくことだ。

 他の誰でも無い、『教師』って人間が――学校の中じゃあ良くも悪くも、生徒の目から見た見本基準になる。

 特に成長時期な小学生ともなると、早い段階で社会に出た時に、恥ずかしくない判断を身に付けておくよう、ある程度には普段の日常生活の中から鍛えておかないと………クセづいた習慣っては、ふとした瞬間にぽろッと出てしまうものだ。

 医者が患者に対して言う言葉と一緒さ。普段の生活から気を配りなさいってな。

 教師たるもの、《PTA》という鎖には絶対逆らえないものだ。たまに崩してしまうのは、大いに結構。

 生徒たちの目があるからと常に気を張っていたら、自分自身休まらないし、ましてや生徒から堅物の印象を与えてしまって、悪印象を持たれてしまう。

 するとどうだ。子供たちを指導する側の筈なのに、何かを言う度、そこに応えてくれないときたものだ」


「………」


 その場にいた皐月も、思わず黙って聞き入っていた。


「何言ったって、ロクに聞こうともしてくれない。

 そういう生徒が一人二人と現れたら最後、口々にこの先生が嫌だのなんの、そこらそこらで、生徒たちがヒソヒソ悪口の言い始める………ロクに育たない駄目なクラスの出来上がりだ。

 こういう時の生徒の集団性、一団力ってのは恐ろしいからな―――。先生のことを嫌や苦手や、思っていたら尚更だ。

 いやなに、今でこそあそこに勤めてはいるが、元は小学校教師から移った身でな、……その時同じタイミングで入って来た同期のリアルな体験だよ」


 真木奈がそう言ったのを皮切りに二人は胸が張り裂けそうな程、重苦しい空気に乗せられたように、顔色を悪くして黙りこくっていた。


 だが、彼女はそんな空気を払い除ける勢いで話を続けた。


「話が長くなってしまったが、こんな話をしたのにも全ては理由がある。それはひとえに、これから話す言葉に深みを持たせたいと思い、言ったこと――。………そもそもの話、だ。

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 1に【時と場を弁えた行動なんてのは、完結として普段の生活との差が、さほど無ければ、わざわざ気を付けなければならない課題と化すことは無い。

 ……が、そうは言っても常にしっかりする必要なんて、何処どこにも無い。何故ならそれは他でも無い、自分自身が疲れるから。

 一週間でも、そんな生活を実践してみろ。

 周囲の空気感がガラリと壊れ、好きで友好的に近寄る者など、いやしなくなるだろう………。

 人間――、少しくらい何処どこかが欠けていたって良い。

 むしろ少しぐらい欠けているぐらいが、人間味を感じられるってものであり――、付き合いや環境、自身を取り囲む身の回りから良い方向に変わっていき、前進していくもの。

 自分磨きなんてのは本来、周囲を磨くことだ。だがこれは、あくまでだから良いという話だ。………物事には《程度》というものがある。

 これがもし大きくガタが外れていたら、それはさきの堅物の話と同じ、周りを良くするつもりが周囲の人間関係が離れていく原因ともなる】

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 2に【悪いところを直そう直そうと、頭を悩ませなくったって良い。要は、悪い部分が悪目立ちしないよう、人前とプライベートとで、感情の起伏の差が縮まりさえすれば、それで十分じゅうぶんだ。

 普段の生活にストレスが溜まっているようならば、それは人前にこそ、己自身を抑え付けている証拠だ。

 ――嘘偽り無く、自分を曝け出していると自信を持って言えるか?

 大概の人は、そんなことは無いと答える。

 ……とは言え、曝け出すと言っても、あくまで自分の中での《程度》の話だ。全てを曝け出しては、それは人前とプライベートの境目が無くなってしまう。

 別の意味で、ストレスを抱える原因を作ってしまうだけのこと――。

 他人と心の距離を縮める上でも………、少しずつだって良い。

 自分の中での《程度》を決め、可能な範囲で自分の心を――、ほんの少しでも開くんだ。………ここでも物事における《程度》、それこそ人生におけるバランスだ。

 生きる上での《程度》の大切さを――、今回の話におけるまとめとして、一番に伝えたいことそれは――

 『決して自分を殺さず、人として損するような生き方はするな!』】


 ……先輩教師として未来の若者教師の卵に向けて送る、私なりの教訓をここに伝える―――」


 真木奈の講演会のような話を聞き終えると、まるで心の中を見透かされたように、皐月の友達に大きな心情の変化があった。


 ………………


 ……嗚呼、あの人には全部さとられていたようだ……………


 ……ええ、そうです、私…………就職活動が上手くいかなくって、少しナーバスになっているんです……………


 ……少しでも紛らわせるよう、可愛い好きなものを愛でることで、私なりにそれを解消……誤魔化してきたのだと思う……………


 ……まあそれが………違う意味で暴走……過度な方向へと発展してしまったのかもしれないけど……………


 ……私の心に正直になったって良い。……けれども、触れ合いスキンシップにせよ、最低限そこに〈《程度》を意識する〉ということの大切さ……………


 ……動物でも人でも、向き合う相手に嫌がられない適度な加減、温度感をもって接することが心の距離を縮めていくこと……それが一本の道筋……一筋……………


 ……実に……実に当たり前なことじゃあないか……………


 ……さっきまでの自分が、とても恥ずかしい……………


 ……私は……本当に………何をやっていたのだろうか?……………


 ……改めよう……………


 ……あの人の言葉を聞いて、私が先生を目指す上でつまずいていた部分、足りなかったものが分かったと思う……………


 ……何だか……心が………洗われるようだ……………


 ………………


「先程は年甲斐も無く、一人ではしゃいでしまい、誠に申し訳ございませんでした」


 皐月の友達は深々と頭を下げ、先程までの汚名挽回を、必死に晴らそうとする勢いで、そのハキハキとした謝辞からは――、今の彼女の素直な気持ちと己を改めようとする力強さを感じた。


 真木奈もそんな彼女の誠意が声から伝わってきたのか、何処となく少し頬が緩んだような表情を見せる。


「次からはそのバランスを意識、な。それと年配者には、動物も人も関係無しに労ることが大事だと――。

 犬も人間同様、動物なのだから接し方によっては、ストレスを与えてしまうのだと、ガミガミガミガミ………(以下略)」


 すっかり愛犬の被毛の感触をご堪能したことも忘れるくらいに………、あれからまた長いこと色々と思うことを言われ、余程真木奈の言葉にあてられたのか――、


 こってり絞られてしまった皐月の友達はあっという間にやつれたような、疲れを見せた顔でようやく彼女はご挨拶を交わす。


「……ご、ご挨拶が遅れました。纂紅海莉つべにかいりと言います。座右の銘は【可愛いは愛でるもの】。目指している担当科目は『図工・美術』です。

 趣味は鉱石や鉱物集めが好きでして、鉱石・鉱物一つ取ってもあのツヤといい、色といい――、形といい――、様々な違いを見せてくれるところに魅力があると言いますか………ごめんなさい、こんなつまらない人間で………」


 これまた自分の中でかなり中身の無い自己紹介をしてしまったと、真木奈はえらく暗い様子で謝罪する。


「まあ……何と言うか気を落とさぬよう、私なりに鼓舞したつもりで言ったのだが、この様子では相当こたえてしまったのか………。そいつはすまない」


 気に掛けた様子で真木奈はそう言うと、友達としてたまらず、心配の声を掛ける皐月。


「ああもうッ!海莉ってば、完全に元気無くしてるし。

 でもさ……、海莉。そうやって自分のことに対して何か言ってくれる人って、歳を重ねる毎に周りにいなくなっていくものだったりするじゃない。

 だからその……、言ってくれる人がいる今が自分を変えられるチャンスだと思えばさ!少しは頑張れるって気がしない、かな?」


「今が……自分を変えられるチャンス………」


「昔の人の言葉でも、『鉄は熱い内に打て』って言っていたくらいなんだからさ。何もしないで後で後悔するくらいなら、動いて後悔する方が余程、成長価値を見出せるって!

 海莉が本気で変えたいって思うなら、私は喜んで手を貸すよ。

 何せ海莉は私にとっての友人トモであると同時に、闘いゲームでは安心して背中を預けられる戦友ダチでもあるのだから…………」


「皐月………ううっ………」


 友達の言葉に思わず、涙する海莉。


「私……私………、お前みたいな良い人と出会えて………、今日以上に生きていて良かったなぁと思った日は無いってくらい…………、最高さいッコーに嬉しい………」


 そう言うと、海莉は涙でクシャクシャになりながらも、素敵な笑顔を見せてくれた。


「私も……海莉が元気になってくれたようで…………良がっだよぉぉぉおおおおぉぉぉぉ――――ッ!」


 海莉のその涙に――、笑顔に――、思わず感化されてしまったのか、皐月も一緒になって泣いてしまい、二人は互いに笑顔でハグし合った。


 これまでの教育実習中での気が張った一面とはまた違い、友達を前に見せる――感情豊かに表情がコロコロと変化していく皐月の新しい一面を目にしていた真木奈はふと、こんなことを呟き出す。


「もしかして伊駒さんって………、意外にも友達のいる大学では清新溌剌せいしんはつらつ和気藹々わきあいあいとしていらして………?」


 冗談でそう言いながら、チラッと何気に皐月の方へと視線を動かせば、そこには顔を真っ赤にして恥ずかしそうに、両手でその両頬を隠すようにして押さえる姿が真木奈の目に映った。


「……せ、清新溌剌せいしんはつらつ………和気藹々わきあいあいって…………、えっ………えっ!そ……そんな風に見られ………な、何と言いますか………そのっ、海莉を前にしてだけ感情が大きく出てしまうだけで普段はそういうんじゃあ……………」


 何かしらの深い理由でもあるのだろうか――?


 意を決したように、皐月は話を進めた。


「見ての通り海莉のルックスは、そこいらの電子雑誌等で目にするような――、若手男性モデルと遜色無い見た目していることもあって――、

 大学におけるミスコン……俗に言う、ミスキャンパスで一年からずっとその年の一番に選ばれるような奴でして………。

 主に女性としての可愛さ・綺麗さというより、男性的な格好良さみたいなところで評価されていたみたいですけど。

 なので海莉一人だけMissミスコンじゃなくて、Mr.ミスターの方のMr.ミスコンなんて呼び方されていたぐらいで。

 でも声は聞いての通り、可愛い女の子そのものなんですよ」


「そ……そうだね…………」


 教育実習では見せなかった、皐月の動揺っぷりに何やら反応に困る真木奈。


 だが、それと同時に真木奈はこんなことを思っていた………。


(何だか………意外だな。高校で研修を受けていた時の彼女は、至って真面目で―――そんな一面があっただなんて思わなかったけど、友達が一緒だとこんなテンパった表情も見せたりするのか。

 今日は彼女の――、知らない顔を見ることが出来て、新鮮な気持ちだ)


 そんなことを思っていると、変わらず皐月の一面が顔を出す。


「そ、それでですねっ!その毎年のミスコンの影響で、学校では何かと注目を集めるは、外でも島のニュースや広報などを通じて、毎年ミスコンの時期になると取り上げられることもあってか――、

 一般の………おもに女性ばかりがですけど…………注目されているような存在なので、今日も小暮さんの家に行く道中どうちゅうは、マスクにサングラスの格好で用心してここまで来たぐらいなものでして………。

 神眼者という立場上。人に注目されるような状況にあると色々と手出しが出来なくなってしまうと言いますか………、

 下手に狙われるとかえってこちらが神眼の存在を一般人に見られないよう、不利な立ち回りを強いることを余儀無くされる訳であり―――、

 色々な意味で、まさに大きな障害を抱えてはいるものの………、流石に、実の母親に痛い思いをして与えられた、唯一無二の生まれ持っての顔を傷付ける変えるなんて訳にはいきませんからっ!

 海莉も同じ気持ちで、母親を悲しませるような真似はしたくない方向性で、せめて見た目だけの……中身がてんで駄目な感じを出していこうと―――、

 俗に言う、残念イケメンを目標に、海莉にはこれまで以上に破天荒に振る舞ってもらい、私がサポートする形で色々立ち回っている内に気付けば、大学ではそんなキャラ扱いへと成り果ててしまい………あぁぁああああぁぁぁ―――ッ!恥ずかし恥ずかし。

 何か……大事なものを失った気がする………………」


「あ……いや、なんかその………悪かった。

 い、意外だなと言うか………あ、でも……そういや振り返ると、あの時の不良どもを止めに行こうとして、誰にも見られないよう―――、しゃがみながらサササッて、廊下内を移動していく変な姿を目撃したこともあったことだしな。

 ……あの時のことを思い出すと、少しくらい、変わった一面を持ち合わせていたところで、して驚くような意外なことでも無かったか?」


「えェッ!あれ、小暮さんに見られていたんですか?

 ……あんな間抜けな姿まで、目撃されていたとか………ほんと恥ずか。恥ずかし過ぎて恥ずかにそう…………」


 壮大に醜態を晒け出されてしまい、今までに無いくらい真っ赤っかな顔を見せる皐月。


「と……と言うより海莉とは、下にいる弟と同じような感覚で接し合える仲、と言いますか……要するに…………」


「……打ち解けた仲の関係、ってやつか?

 ま、そういう気の許せる友達そんざいがいるというのは、とても大切なことだ。

 人生、それ即ち《人の一生いっしょう》のうち、幾人いくにんの人間に出会えるかなんて限られている。――何せ、新たに生まれてくる新しい命があれば、死んでいなくなる命もある。

 世界の何処かで生まれては、その一人一人と出会って行くなど、限り無く際限無いことであり………、

 ましては死んだ者には一生出会う機会などありはしないのが世の習い。

 だからこそ!その数ある出会いから、そこまで距離感を持てる存在と出会えたことは、決して当たり前では無いと言うことを、常に胸の内に忘れないこと。

 この繋がりは大事にしろよ」


「――――ッ!」


 おもむろに真木奈の口から発せられた言葉に、皐月はふと心を摑まされる。


 ……海莉を、そんな風に意識して、特別な目で見ていたことなど一度して無かった。


 同じ大学に通う者同士にして、同じ神眼者プレイヤーという境遇をもった者同士、接点をもったのが単なるきっかけ。


 それから色々と連むようになって【Pilleur de oeil】でのことは勿論、些細な話をしながら談笑し合える仲にもなり――


 始めの頃は自分自身の保身の為に協力合致した関係でしか無かったのが、いつしかそこに団結力連携が芽生え始めた。


 相性は二の次で互いに必死で生き抜いて――、弱音を吐いて――、駄目なところは進んで言い合って、次への改善策を練ったり…………、不平不満考えず、立ち回りにあたって熱弁して馬鹿やったりもして…………


 そうか………。そうやって気にもしない内に《絆》が芽生えていたのだ。


 言われて思ったのだが―――、彼女とはこれまで友達と言っていたが、本当はそれ以上の………


 言うなれば『親友』として差し支えないのではなかろうか。


 《友達と親友の境目》があると考えるとすれば、まさに先の関係を築けられるような、間柄の仲のことを言うのだと思う。


 そうやって意識せず、自然な関係をつくった《親しい友》だからこそ――、小暮さんは海莉との繋がりを大事にしろと――、そう言ったのかもしれない。


 横に並び立つ彼女の顔を見る。


 ん?……と不思議そうに首をかしげる海莉の顔が映る。


 男のような淡泊な切れ長の双眼に、薄くぺたっとした唇。


 スッと鼻筋の通った高い鼻に、短く濃く揃えられた眉毛。


 ――確かにこの容姿は、見た感じでは男性のようだと、周囲が印象付けるのも確かであろう。


 加えて全身に視線を移せば、ボブヘアー以上にスッキリと仕上げられた短髪ショートの髪型。


 体躯も服の上から一切のボリュームを感じさせない、平らな胸が余計に女の子らしく見えない要因では無かろうか。


 辛うじて、喉仏が無いスラッとした綺麗な首筋であったり、細く弱々しい華奢な体つきが彼女を女たらしめているようにも見えなくも無い。


 だがそこで、見た目で判断してこなかったのが皐月の人柄であり、そんなところも彼女と仲良くやっていけていた秘密なのかもしれない。


「……ごめんなさい……ごめんなさい。……すみません……すみません。

 人様の飼い犬に対して、思いやりを持って接していなかったこと、深く反省します。

 先程は何にも考え無しに、好き勝手、私一人自己満足に暴走してしまい……小暮さんの愛犬の気持ちを――、いえ、家族の気持ちを考えてやるべきでした。

 私………教師、向いてないのかもしれませんね」


 親友-『纂紅海莉つべにかいり』が目指す道である、先輩教師の小暮真木奈に向かって、二度ふたたび頭を下げる姿を見せる。


 そんな海莉に対し、真木奈は言った。


「何を言っているんだ?そんなことは無いだろ。

 自分の悪いところを――、洗い出すことが出来る人間性を持っているでは無いか。

 子供達……ましてや小学校教師を目指しているって言うのなら、子供が小さい内に、どれだけ良いことと悪いことの判断力を、先生が鍛えて上げられるか。

 家庭とはまた違う、歳の近い子供たちが集まる、学舎まなびやという空間を管理する先生だからこそ………

 総じて巻き起こる常識の違いや――、加減の知らなさからくる衝突を――、正してやることだって出来るかもしれないってものだ。

 そうやって考えたら、意外と合っているのかもしれないと思わないか?小学校教師になることを――」


「――――ッ!」


 その瞬間――、心を強く突き刺されたように海莉はハッとさせられ、真木奈のその言葉に感化されるように、震えながら一人涙を流し始める。


 さきの件のことも相まってか、この一瞬の出会いで、ここまで自分自身のことを深く見てくれていた真木奈の思いの深さに、感情の整理が追い付いていないのか。


 涙は緩むところを知らない勢いで情け無いツラを見せながら、気付けば涙に続き鼻水まで流れ出し、折角の整った顔がグチャグチャになる始末であった。


 これには真木奈も驚いてしまい、慌てて宥めるように、あれこれ声を掛け続ける。


 その様子を遠目に一人、皐月は見ていると、これだけでも彼女を――


 お世話になった小暮先生と会わせる価値があったなと、密かに心に思うのだった。


 …………それから時が十分、二十分と過ぎた頃のこと――


「それで、この犬が例の…………」


 ようやく、海莉も落ち着くことができ、改めて皐月が本題に入ろうとする。


「ああ、神眼を持って生き返った、我が家の愛犬。神眼者しんがんしゃ………と言うよりはこの場合、神眼犬しんがんけんとでも言ったところだろうか?」


神眼犬しんがんけん…………」


 海莉がそう呟いていると、皐月は一つ質問をする。


「時に彼女――アイちゃんは指示をすることで、目力を使用するのですか?」


「いや、どうやら意識的に使用する感じなんだ」


「意識的に、ですか?」


「丁度、動きがあるようだから、見れば分かるだろう」


 そう言われ、犬のアイちゃんが立ち上がったのを目にし、彼女の動向を追って見ることにした皐月と海莉。


 歩む先には、床に置かれた一冊のスケッチブック。


 その中のページ一枚一枚を器用に口を使って丁寧にめくってみせると、一枚の白紙のページに差し掛かったところで、彼女は口を動かすことを止めるとその直後――、瞬きをして突然の神眼の開眼。


 何やら彼女は白紙のページを凝視し始めると、何も無いそのページにとある変化が起こり始める。


「「こ、これは…………」」


 二人が驚くのも無理は無い。何故ならば、まっさらな紙の表面にサラサラと書いたように、まるで写真のような実写イラストが浮かび上がってくるではないか。


 そうして全体が浮かび上がると、そこには一匹の犬が描かれた、くすんだ黄色い袋を描いたようなイラストが現れる。


 海莉と皐月はそれが一体なにを指し示しているのか疑問視していると、これを見て真木奈が一言。


「そっかぁ、腹が減ったかぁ。よしよし、ドッグフードだよ、お食べ」


 そう言って、真木奈が奥から取り出して来たのは、まさに目にした通りのものをそのまま出して来たかのように、写真のようなイラストに描かれたものと全く一緒の犬の写真がプリントされたドッグフードの袋であった。


 左手には洗浄済みの犬用食器フードボウルを持っており、真木奈は持ってきたドッグフードの袋の角を少しだけ切っては、その小さな開け口から程良くドッグフードを皿の上に落としていく。


 よそい終わった頃合いで、犬のアイちゃんはドッグフードを口にし始めた。


「す、凄い………」


 素直に皐月がこの現象に驚いていると、一つ疑問を感じた海莉が口を利く。


「……でも、パッケージの色が若干違うのには何か理由があるのですか?」


 確かに海莉の指摘通り、細かい部分ではあるものの――、


 真木奈が持ってきたドッグフードの袋の色が鮮やかなに対し、犬のアイちゃんが目力で描き起こした袋のイラストの色はをしていた。


 だがそれには明確な理由があるようで、真木奈はその問いに詰まること無く、すぐに答えてくれた。


「そいつは犬と人間の色の見え方の違いが関係している。

 長い間、犬は色盲と考えられていたが、全く色を識別出来ない訳では無い。

 ある研究結果によると、大抵の犬の目には緑・黄色・オレンジはに、紫・青は限りなくに見え、その他殆どの色がのように見えると言う。

 残念ながら犬は鮮やかな色として捉えられる見えることは無く、どこか色褪せた状態でしか色を見ることが出来ない。

 結論――、アイの目線になって見える色彩情報が、そのまま浮き上がるイラストの色に直接反映されていると言ったところだろう」


「へ、へぇ………犬の目から見た色の見え方ってそんな風になっているんですね。

 ……あっ、もしかしてッ!天気が悪い時に何処どことなく、犬が不機嫌な様子を見せることがあるのは、空の色が感じられず、気分が晴れないのでしょうか?――気象気性だけに」


「その洒落には特別ツッコまないとして、確かに天気が悪い時は空の色がグレー掛かって見えてしまうからというのは一理あるのだろう。

 天気の良い日には散歩する犬が飼い主の前を歩いて楽しそうにしっぽ立てて振る仕草を見せることがあるように――、

 もしかしたらそれは、視覚的にも青は犬にとって認識しやすい色だからこそ、色が認識出来る日の散歩はそれだけ特別気分が良くなることなのかもしれないな」


「あ、分かりますそれ!

 大学に出かける道中どうちゅうとか、大抵晴れの日に連れ回しているワンちゃんを目にしますけど、何処どことなくしっぽが上に上がっていて、小刻みにしっぽを振り回しているんですよね」


「ああ、その尻尾の動きの特徴はまさしく、犬が見せる嬉しいサインの特徴として見られる仕草の一つと言われている。まさに一致するところがあるのかもな」


 何だかいつの間にか、二人の間でほっこりした様子が垣間見えると、皐月はそんな二人の間を申し訳なさそうに、ある一つの質問を真木奈にする。


「それでこのアイちゃんの目力は、具体的に言うとどんな力で?」


「そうだな。私は一言分かりやすく、『じたものを覚的表現にえがく力』で【念視ねんし】能力と呼んでいる。

 例えばスケッチブックやノートブック、目にした筆記帳の上から愛犬アイ念じた思ったことがイラストなどになって表面に浮かび上がる異能、と言ったところだろうか。

 だが、これで分かった筈だ。愛犬アイの力を戦力として考えないでくれとあの時言った言葉の意味が―」


 ……………………


 ………………


 …………


 ……


『……ハァハァ…………な、何だってんだあいつは………………』


 ヴァンピーロとの一件の後、一目散に店を出て駆け出し続けていた【執行犬の亡霊ブラック・ドッグ】は一頻り走り続けていたところ――、その足を一旦止めて、少しは息を落ち着かせることにする。


 隣には広大な海の広がる、海岸沿いの道。


 ここから見える景色は何ともまあ………綺麗……とは言い難い、自然が作りだした美しい海景色の一角に、どうしてもちらついてしまう、係留施設の巨大な門。


 布都部島を無き島言わしめる、世界外界と隔てる障害の象徴である。


『…………ふぅ。……奴の、あれは……明らかに私を狙って、本気で仕留めにいく目をしていた。まるでそう、ハナッから私をターゲットにしていたみてェに…………』


「何か目的があってろうとしていた、と?」


『誰だッ!』


 落ち着く間も無く、すぐさま後ろへと振り返ると、そこには何処どこか見たことあるような茶髪の女性が一人。


 瞬間移動者テレポーター-『藤咲芽目ふじさきめめ』の姿があった。


「やあやあ、初めまして。一部では君、有名人なんだってね。

 名前は確か……【執行犬の亡霊ブラック・ドッグ】だっけか?

 ……いや、その名は周りが勝手に言っているだけのことだったか?」


『……何だ、おめぇ?……まさかっ、同類………ッ、神眼者しんがんしゃか?』


「おいおい、ロクに素性も確認していないってのに、その名をやたら口外してしまって良いのか?

 ……って、おっと!そのマスク、半壊して片目露出しているが、何か訳アリか?さっきまでなんか走っていたみたいだったし」


『……さきの物言い、やはりこちら側の人間だった訳か。

 ……で、てめぇは何故私に声を掛けて来た?まさかとは思うが、てめぇも奴の仲間だったりなんてこと………しねぇよな?』


「まぁそう警戒しないでくれて良い。私が誰かと手を組んだことがあったのはただの一度きり………

 とは言え、あれも結局は組んだとは言えないだろうが………。

 ま、そう言うことでずっと独り身ソロプレイヤーとして、気ままに死遊戯生活ゲームライフを送っているものさ。

 何やらそちらさんは、依頼業紛いな活動を行なっているそうで――、となると私と同士………独り身ソロプレイヤーなんだろう?」


『だったら何だ?依頼者じゃねぇのなら、わざわざ私に用はェだろうよ。

 ……それで?さっきの質問の答えに全くなってないようだが?』


「あぁ……何故、声を掛けたとか何とか、そんな話をしていたっけか。失敬――。

 私の悪いクセだ。

 それとなく、親近感を抱いてしまっていたものでね。つい、無駄話をしたものだ。

 今時いまどき、独り立ちの神眼者プレイヤーなんてのは生存率が低いリスクがあるから、余程の物好きか基本的に人を信頼しない、警戒心の強い奴ぐらいなものだろうしな。

 命のやり取りが現実リアルで行われている状況において、人を見る目に長けているような、危険視する人間にこそ、本当の信頼に足る性根タイプであると言うもの。

 他人と協力関係を結ぶのであれば、そういう奴にこそ一番の価値がある。

 仮にも自分と同種であったならば、一度は交流の価値があるかと思ってな。こうして声を掛けてみたと言う訳だ」


『は……はぁ………?』


「君の噂を知ったのは単純に私の習慣ルーティンでね。

 幸い、目力に恵まれた私は、持った力の利便性を汎用して、島中の神眼者の視察をしては独自に情報収集をしている訳だが――、その中で君の行動性を知り、少し興味が湧いたのだよ」


『興味を………私に………?』


「ああ、そうだ。一つ君のことで面白いことを耳にしたものでな。

 何でも君は、依頼分の目の数一つ欠けること無く、必ず依頼通りの仕事をしてくれる。

 ……なんて、実際に利用しているという奴らから、生のお声を聞いたりしたものでね。それ相応の実力は、持っているって認識で良いんだよな?

 一度、能力を使っていたところを目にしたことはあるが、確かに大抵の能力相手にはなんの意味も成さなくなる………目力にとっての、天敵足り得る力を持っていたようだったが――、

 単なるその程度の力だけなら多種多様いる神眼者プレイヤーを相手に渡り合えるとは到底思えない。何か力を……?」


『何を言っているんだがな。と言うか、どっからかコソコソ覗き見していた時があったとはよ。趣味が悪いぜ。とんだスケベヤロウだ』


「同性なんだから大した恥ずかしさも無かろう。

 ……なんてふざけた言い合いはよしとして、だ。

 良ければその力、ちょいとここで手合わせして見せてはくれないものだろうか?

 一体その力とやら、この私の持つ能力さえも通用しないようなものなのかどうか、興味があるものでな。

 そうだな………見返りとして、何なら依頼の手助けしてやったって良い。

 それはそれで面白そうだ」


『面白そう、か。私がやっている行いをそう思うのなら、そんなクズヤロウの手を借りるなんざ大いに結構。こっちからお断りさ。

 生憎、特別手伝いは必要としちゃいねぇことだ。

 人の汚い部分を浄化して回る、清掃活動を人任せになんて出来っかよ。

 悪いがてめぇにかまけていられる程、暇しちゃいねぇ。

 じゃあな、二度と会うことも無いだろうよ』


 そう言って、この場を立ち去ろうとする【執行犬の亡霊ブラック・ドッグ】。


 だが、芽目の言葉が【執行犬の亡霊ブラック・ドッグ】の足を止める。


「いきなし人のことを屑呼ばわりするとは………こいつは意図せず大きな爆弾発言をしてしまったってところか?

 何にそんな誇りを感じてやがるのか知ったこっちゃねぇが、聞けば手伝い一つ必要としちゃいねぇみてぇな話な訳だし――、

 言葉が引っ掛かったかなんかにせよ、とんだ誘いを吹っ掛けてしまったみたいだ。

 ……とは言え、実力を測る機会が無いのは実に残念ではあるが最低ライン――、能力を探るぐらいのことは何も私が手を汚すまでも無い。

 ほら、聞こえやしないか?警告アラーム音が」


警告アラーム、音………?』


 瞬間――、【執行犬の亡霊ブラック・ドッグ】は耳を澄ます。


『……ピーピー!……近くで神眼者プレイヤーの存在をキャッチしました。………対象との距離10メートル………』


 少し遠くで、何か知らせを告げる警告アラーム音を鳴らしながら、徐々に徐々にその音が近付いてくるのが分かった。


 次第に音が強まると、道路を見れば警告アラーム音を鳴らしている、EPOCHエポックを身に付けた者であろう何者かの人影が映り込み始め――、


 突き当たりのL字角に差し掛かると、そのまま曲がって目の前から現れた、とある人物の姿が明かされることとなる。


 遭遇したその人物は――


「ん、なんや二人向かい合っとるっちゅーこたぁ、立て込み中かいな?こりゃあとんだタイミングで御目に掛かってしもたわ。

 あんたら二人の戦闘に巻き込まれたかないからな。好きにバトって消耗し合っててや。また後でお二人まとめて回収しに行くさかい」


「……あんの、馬鹿ッ!良く確認もしないで一人でしゃしゃり出て行きやがって………そんなこと言って潰し合いする阿呆がいる訳無いだろッ!

 はぁ……、毎度いつものようにプランAは破綻おじゃんか。

 一度として成立した試しがありゃしない。

 ……仕方ない、プランBだ。お前が攻めて私が守戦する。

 こうなってしまった以上、敵に背を向けたら命は無いものだしな」


「よぉ分かっとるやないの。さっすが、わてのフライちゃん!」


めぇや!その呼び方は。

 こちとら、『風辺眸衣ふらべむい』ってちゃんとした名前があるのだから、風辺ふらべでも眸衣むいでもどっちかで言えばそれで良いんだよ」


 ふわりと風に舞う、鯛焼きフードアクセのヘアゴムに結った細い毛束と先端のウニボールが特徴的な後ろ髪とエビフライを連想させる形をした後ろ髪。


「丁度いい。ここは私ら二人で、あいつらの神眼でも頂戴するか?」


「……はっ?何を言って…………」


 一刻も早く、ヴァンピーロとの距離をもっと引き離したい一心で焦る【執行犬の亡霊ブラック・ドッグ】。


 だが、それを阻む鯛焼き少女と謎の独り身ソロプレイヤーの両者により、想定外のトラブルが彼女を襲う。


 ここにとんだ両者のマッチアップが、今まさに勃発しようとしているのだった。

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