⒌ 秒視(3) 眼光
彼女は………口元を歪ませ、その表情は
こんな絶望的状況にあっているといった
そもそも最後の一文、『それはまさに地獄のような光景が唯羽の眼前に広がる中、彼女は―― 』と言う表現に違和感を感じはしなかっただろうか?
彼女の眼前、つまりは彼女の目の前、より分かりやすく言うなれば、彼女が見ているその先に広がっている光景と言っていることになる。
あの状況で彼女が目を開けている。
それは明らかに可笑しい事象である。
何故ならば、見桐の片方の能力-【
なのでこの場合、『それはまさに地獄のような光景が閉じた瞼の奥底で広がる中、彼女は―― 』などと言い表すのが正しいのだろう。
本当にそうならば、だ。
そう、まさにこの時、常識では測れない現象が唯羽の中で起こっていたのである。
突然だが、神眼を開眼する時、特有の光を発しているこの現象は何なのか、考えたことがあるだろうか?
演出?―――違う。
それはそうだろう。
演出であれば、わざわざ眼球に発光現象があるだけ無駄な機能である。
眼球が存在する目的は、自身の周囲の様子を『視力』と言う、大きな情報として得られることにより、脳がそれを記憶し、そこから一つ一つの存在を確かなものとして認識。
頭でそれを状況理解し、実際にそれが己にとって危険であるものなのか――、そうでないか――、判別を作ることで外からの危険から身を守るものとして、古くから光を感知する器官を発達させてきたのが発端とされている。
そこに眼球自らが光を放つことに、働きとしての意味など存在しない。
神眼の発光には、何か大きな役割がある筈なのだ――。
神眼に秘められた不思議な異能力-【
そもそもこの力は
ブシュラ・ブライユは謎の女性-〈アリソン・メイ・
それはあくまで
それが意味すること、つまり【目力】と言う異能の力はもっと別の、成分と言う明確な形あるものでは決して解明することの出来ない、複雑で、だがそこには確かに力が宿っている、一言で言葉にするならそれは〈成分〉と言うよりも………〈性質〉。―――そう、〈性質〉である。
どこからどうなって目力と言う異能力が発現されているのか、その原理は一切を持って分からない。
だが、神眼から放たれる謎の発光現象、恐らくそれが目力の根源であることには違いなかった。
「………このゲームに幕を下ろすだァ?けッ、ふざけたこと
ついさっき持ってかれた腕一本分の痛みなんざ、最早どうでも良くなっちまう程に、そんなものは冗談にしか聞こえねェっての。
それでウチの視界を奪ったと思ってンなら、とんだ間違いなンだよ。流石にウチのこと舐め過ぎだぜ、後輩の分際がッ!
ちょいといい気になりやがって、調子に乗んのもここまでにすンだなッ!
如何にさっきまでのあれが、後輩に対するお膳立てだったかッてことを、これでもかッてくれぇ知らしめてやンよ!」
この瞬間、唯羽の持つ謎多き右目の力がついにその牙を向いた。
まるで魂が抜けたかのようにバタバタッとその場から倒れ出し、そこからピクリとも動かなくなってしまった玩具たち。
「なんや、何が起こったんや」
「……なァに、ただ光を屈折させただけのことよ」
「……光、かいな?」
「
「普通の眼球に光を屈折する働きが?そんなん、今までの人生において一度として調べようとも思わんかったかんな。全然知らへん」
「……だろうな。眼球なんてもンは生まれた時からその身に持っている、身近にあるあまり、さも当たり前にあることが普通としか思いもしねェ。
そンだけにごくありふれた
それこそ、眼科医かそれ専門の科学者でも
ウチだって元はその一人さ。この目ン玉と出会う前まではな。さっき光を屈折させたのどうの
ッつっても、んなこと聞いたところで、実際のところ何に使えんのか、分かったもんじゃねぇだろ?
元は人から勝手に掻っ
初めてその目を手にした時のような
それとなく色々と試しながらそれでも分からねェこたぁ、知識を積むに
そもそも光が屈折する働きッてのが、目ン玉にもあることッて話なンだけどよ……………」
相手の戦術を破ったことへの爽快感に満ち満ちているのか、上機嫌に長々と話をし続ける唯羽。
「ふわぁぁぁ~~ッ!」
それとは真逆に長話に付き合ってもいられず、退屈そうにあくびを漏らす見桐。
そして一緒にいたエビフ……ポニーテールの少女に至っては、本音を漏らした。
「……あのさぁ………そろそろ先輩の長話にも聞き飽きたところなんで、さっきまでのアレがお膳立てだって言うんなら、口ばっか動かしてないで手を動かし……」
……て、
と、そこで彼女は話を止めてしまった。
何故なら、それを面と向かって言われている筈の等の本人が話を止める様子が無く――
「……ここで言う目ん玉の光の屈折ッてのは、本来でありゃあ内部で行われる反応……分かりやすく何かに例えるとすりゃあ、カメラだろうな。
フレームの中に切り取った一枚の風景を撮る時、当たり前だがまずはシャッターを切るところから始まる。それがトリガーとなってレンズに光が通る訳だが………
そこからの絞りやフィルムの感度をあれこれいじくり回して、入ってくる光の量やピントを調節しては光の屈折が起こり、最終的には跳ね返ったそれらの光がフィルムや撮像素子に像として焼き付けられ、外の世界を捉え写真として写す。
これを目ン玉に言い換えッと、まずカメラのレンズにあたる部分が【角膜】。
そいつが光の窓口の働きを、要は外の光が最初に入ってくる部分となり、【虹彩】が入ってくる光の量の調整。
次にぶち当たる【水晶体】。それと始めに出た角膜とが合わさって協力し、ピントを調節し光を屈折。
その奥の【硝子体】を光が通過し、【網膜】にぶつかり映像となって、ウチらは外の世界を見てるッてのが、大まかな目ン玉の動きだな。
だが、この力はその逆。角膜やら水晶体やらが本来屈折する光の道筋を内側でなく外側に飛ばしてンのがこの力の正体よ」
「………何ともまぁ、長々と喋っておられましたけど、要は先輩の持つ能力の正体はさっき言ってた外からの光を屈折するッて訳ですよね?けど、その程度の力がどうして見桐の能力を無力化するような力があんの?」
もはやカリカリする気も失せて、すっかり唯羽の話に耳を傾けてまじまじと聞いていたポニーテールの少女が質問を投げ掛ける。
「そこだよ。そいつの目力を無力化出来るッてことは、目力がどこから働いてるものなのか、証明出来んだろ?」
「………無力化……屈折………ッ、そうかッ!神眼が放つあの謎の光か!」
「
少なくとも、日の光程度は受け入れでもねェとこの目でなんも見えねェからよ。
あくまでこの目ン玉の障害になるような光……それこそ目力だったり、盲目に成り得るような強い光、さっきのなんちゃらスターやら画面うるせぇ
まさに反抗、光に対する【
いつしか片腕を失い、眼前に
この時、右目から何かがはらりと落ちたような気がするが、ウィローグリーン色に発光されたその瞳孔は、まさにカメラの絞りのような虹彩を覆うドーナツ型の形をしていて、光の通り道を広げたり狭めたりチャカチャカと動く様子も見られた。
「………えっと、先輩が扱う目力の命名なるものは心底どうでもいいけど、まさか神眼が放つ例の光にそのような秘密があったとはね。良い事を聞いたわ」
すると見桐が口を挟んできた。
「せや、この際やから
「……そうね、そこは分かりやすく〝
「……誰やっ!言おうとしてたとこで口挟んできたやつは……………」
「その制服………………」
「テメェは………ッ!」
特徴的な話し方、黒髪ロングのその少女は三人のいる方へと歩み寄る。
何故かそこには、未来視の神眼者-『保呂草未予』の姿があったのだった。
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[あとがき]
ここでは身体に直接働き掛けるもの(眼球を取られない限り死なないとか異常なまでの高い自然治癒力、肉体的に朽ちないなど)は〈成分〉、そうでないものは〈性質〉(目力など)と分けられています。
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◼︎能力解説◻︎
目力:【
神眼から発せられる光を瞳の内側より屈折し、こちらへと向けられた目力の対象を反射させ無力化する異能
監修:M.K.
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