⒈ 新芽(3) 新種勢力

 ……それで、えーっと、何処どこまで話したっけ?


 私の眉毛が太い話………ちゃうちゃう、そんなんじゃない。


 あっ!そうそう!思い出した!私の身に置かれた状況を、あれこれ話していたのだった。


 う~ん、そうだなぁ。後は何を話そうか。


 そう言えば!………この前、変な連中を見掛けたんだった。


 何かこう……耳の裏にね。タトゥーと言うか、変な模様をしたあざみたいなものが突然浮かび上がっては、ピカッと一瞬光って――


 聞き耳を立てるように、その者は耳の後ろに手の平を持って行って………


 まるで神経を研ぎ澄ますかのように、目を閉じてその場に体感として一秒間の間、ピクリとも動かず黙りこくって、何してんだろうなぁなんて――


 遠くから見ていたら突然、『なんちゃら、発見!』とか言って、何処かへと走っていっちゃって。


 確か………かみみが何とか言っていたような気がしたけど……………忘れちゃった。


《ジャーッ!》


 あっ、ごめんなさい。ただ今、シャワーを浴びている最中なの。女の子たるもの、身体は綺麗にしておきたいものでしょう。


 何でって………そこは察してよ。常日頃から闘っている訳だし。


 ……それにしても、一回風呂入るにもEPOCH携帯が外せないなんて、何よりの不便だとは思わない?

 完全防水性らしいから、壊れることは無いらしいけど………そういう問題じゃないよね。


 ――と言うか、そこッ!

 浴室扉の向こうの現役女子高生の一糸纏わぬ姿を想像なんかしてちゃ、めッ!だからね。


 えっ!誰も想像してないって?……それはそれで傷付くと言いますか………………


 ……ええい、そんな話はメよ、メッ!


 シャワーから上がって、さっさとクリームでも塗ろうっと!


 ……そう言えば最近、《NEMTD-PF》なるものが発売されたらしいけど、私は断然、《NEMTD-AC》派かな。


 潤いベールで乾燥から守りながら、夏でもベタつきを感じさせない軽やかな感触のクリーム。


 塗り心地は、ツルンッとなめらか。塗った後もスーッと肌に馴染み、すぐに衣類を着られるような使い心地で結構気に入っているのだけれども、一見その完璧そうなクリームにも一つ難点があって………その、匂いがキツくてキツくて………………


 質感や使い心地にばかり力を入れている印象もあって、どうしてもその点が目立ってしまって仕方が無い。


 ところが最近、そのクリームが革新的進化を遂げていて、私がなおも、クリーム派なのはそれがしんに理由としてある。


 今塗っているこれがまさにそうなんだけれども、ようやく待ち望んでいたと言っても良い新しい香り付きクリームなるものが発売され、クリームの問題点であった従来の独特の匂いを掻き消してくれる――


 それはそれは、毎日の使用が楽しくなってしまうような、晴れやかな香りへと上書きされたこの商品は、通常のものと比べてそこそこ値は張るものの、匂いには敏感の女の子であれば、誰しもが望んでいた全く新しい万能クリームとして、若者を中心にかなりウケが良い商品らしくってさ!


 かく言う私も、神眼者になった今、厳しい外気温に晒されても、暑さは感じないので、わざわざクリームを塗ってカバーをする必要性は無いのだけれど………


 香水なんかとは比べて、落ち着いた香りを楽しむことができ、日常的にも使いやすいオシャレアイテムとして、私的に利用しているわ。


 そもそも、単に香りを付けるのにも、そう簡単なことでは無かったそうで、最近になって商品化されたのにも、外温から身を守る《NEMTD-AC》に含まれる大事な成分効果を失わずに香料を付ける、という開発にはかなりの苦労があったと――、


 とあるおしゃれ雑誌の中で【寒暖対策はおしゃれの時代へ】とかいう特集にて、掲載されていたのを見た覚えがある。


 素人目から見れば、匂いを付けるだけで果たして、商品の成分効果に影響が出る程のことなのかどうか、疑問にも思ってしまうが、それ程の黄金率で整えられた繊細な成分配合とでも言うのだろうか?


 私はそれを作る専門職でも無いのであれこれ言ってしまっても悪態をついているみたいで悪い気がするのでこれ以上は何も言わないでおこうと思うけれど、とにかくこれを作るのに相当な困難と努力があったということなのだろう。


 ……ええと、だいぶ話が逸れてしまったのでそろそろ話を戻すとして…………どこまで話したんだっけ?


 …………あ~っと、え~っと?……そうだった!その変な耳をした人のことなんだけど、気になって後を追って見た訳。


 するともう一人、その変な耳をした人がいて、そいつらは相見あいまみえるなり争い始めた。


 対面した相手も同様に耳の裏の表面にあざのようなものが光を帯びながら浮かび上がると、互いは《目力》さながらの異能力をドンドコ使い合っての超能力バトルが勃発した。


 パッと見ただけだからこれは勝手な推測なだけに過ぎないけれど、片や耳に磁力が帯びたみたいに、自分と相手の耳が引き付け合う、まるで磁石のような力で耳が引き千切られるかのように強く引っ張られていて、仮にもその子の使う能力を――音読みの《》と掛けて【耳石ジ・シャク】と勝手に名付けてみたりする。


 元々、その漢字で耳石じせきと読まれる言葉の存在は知っているが、そこは元からある漢字とも引っ掛けて言ったと言いますか、どことなく、その子の痣の形がU字型のマグネットアイコンのように見えたから………なんて。


 そ……そんなことは、さておいてですよ!


 片や対立する相手側は何かする訳では無く、苦しそうに『痛だだだだっ!』と叫んでいるだけ。


 ……いるだけだと言うのに、これがまた変わったことに逆に磁石っが耳を塞ぎ込んで苦しそうに、痛々しそうに、その顔には一切の余裕が見られず、歪んだ表情を見せながら金切り声を上げていた。


 あれも能力の一種なんだろうけど、流石にこればかりは一目見たところでパッと分かるようなものでも無かったね。


 痣の形だけを見るに拡声器メガホンのシルエットのようにも見えるけど……………


 まぁそんなことがあって、磁石っは抵抗も出来ず、勝負に決着が付いたと言わんばかりにそこからはまさに地獄のようであった。


 一言に言うとそれは…………であった。


 お相手の、女性の華奢な手のどこからきているんだってくらいの馬鹿力で、まるで紙でも破くみたいに腕力だけで簡単に引き千切ってしまうのだ。


 さながら耳を狩り取ることだけに特化したような身体能力とでも言うような、神眼者とはまた違った化け物。


 まさしく【取】という漢字の成り立ちをそのまま形にしたような、当時の戦乱真っ只中の時代、手柄を立てるべく敵兵の首を刈り取る代わりに荷物になりにくい耳を削いでいったという歴史の伝承の上でしか知らない、時を跨いで逸脱した存在ならず者とでも言ったところだろうか。


 私も生死が懸かっている立場上、神眼狩りなんて似たようなことをやってはいる訳だけれども、それとはまた違ったおぞましさがあったものである。


 その時の奴の言葉が今なお耳から離れない程に、一言に不気味なんて言い表せない程に鬼気迫る、奴の奇声と石を片手におそろしいまでにズタズタと叩き付けるあのサマときたら……………


 ………………


 …………


 ……


『よくもよくもよくもよくも…………よくもよくもよくもよくも、あたちの耳を引っ張って引っ張って引っ張って引っ張ってェェ―――――ッ!ぐぎゃぎィィ―――――ッ!おかげでヒリヒリが治まないんだよ、どうしてくれんだよぉぉおおおおおぉぉぉぉ―――――ッ!あぁぁムカつくムカつくムカつムカつく…………ムカつくムカつ、ムカムカムカムカムカムカ、ム、ぐぎゃべっ!……ム……ムムムゥゥ―――――ッ!

 ……みゃあだ。みゃいのせいで………みゃいがあたちの機嫌を悪くしたせいで、舌噛んじまったじゃないかよぉぉぉぉ―――――ッ!みゃいのせいで……ヒリヒリが………ヒリヒリが増しちまったじゃねぇきゃよぉぉおおおおおぉぉぉぉ―――――ッ!

 ……この、あたちが………みゃいを、何倍、何十倍とあたちの痛みを、与えて与えて与えて与えて…………それでも晴れる気がしにゃいから、何百倍、何千倍にも与えて与えて与えて与えてボッロボロに、ズッタボロにしてやんなきゃ、ぜーんぜん気が済まない、気が収まらないィィィ―――――ッ!』


 ……


 …………


 ………………


 ……………………嫌なものを、思い返してしまった。


 抵抗も出来ない磁石っの耳が、いとも容易く奪われていって、かと言って、私ら神眼者のように眼球を奪うようなことはしなかった。


 あくまでも、奴らの目的は《耳》。


 それは見て、間違い無いのだろう。


 つまり、奴ら変わった耳を持っている連中は、こちらで言う神眼のような――、その光る耳を集めていると言うことであれば、私のような目を奪うことを目的とする神眼者の存在は、狙われないと見ることも出来る。


 とは言え、それでも油断出来ないことには変わりない。


 …………………………


「――相変わらず、貴女は何も考えず点々とプレイヤーを飛ばし配置する。これであの島へは何人目になるので?」


「うふふ………それは、どうだったでしょう。確か二十人ぐらいだったような気がしましたが………………詳しくは忘れてしまいましたわ」


 白き空間の中で、それはエルフのように長い両耳をした一人の女性が、言葉を交わす。


 ヘアムとは異なり、髪・肌等のみならず瞳の色までもが白いが、代わりに左右の尖った長耳の付け根だけがほのかに紫色に色付き、輝き帯びている。


 頭には耳かきのような形状のかんざしを付けており、中々に独創的な特徴をしている。


「貴女というヒトは………こうも毎度勢いだけで決めてしまう。他の神々連中にもとやかく駄目出しされていたというのに、まったく………懲りない奴だ」


「別に良いじゃないの。『私の力で生かしたあのプレイヤー』たちは言わば、命を授けた私が第二の里親であるも同然。

 子供をどう扱おうと、それは親の勝手でしょう」


「とんだ屁理屈をぬけぬけと………。そんな様子ではとても計画を上手く進めているとは思えないが?」


「【地球回復テール・生態均衡計画パラディ】――、〈新生態化社会の創造〉のことでしょう。それなら誰かさんに言われなくとも、私なりに進めているわ。

 それに、時偶ときたま貴女はその全能の目をもってして、私のやっていることをていたりするんじゃないの?」


「それも私の《天に集う神の椅子ポスト》としての、役回りの一つですから。

 当然、貴女の様子を観ることだってあることにはありますが、いかんせん――貴女が定めているゲームエリアが広いからこそ、それを隅々にまで目を配っていられる程、私も暇していませんから。

 ここはプレイヤーの管轄かんかつを大きく代表する貴女に、直接お聞きした方が早いと思って聞いてみたのですが――その反応だと、聞いたところであまり進展は無さそうですね」


「あら、私だって世間に聞き耳ぐらいは立てていますのよ。

 まぁ、それでも貴女が多忙であることを、皮肉って言ってしまったようなものでしたわね。これは失礼致しましたわ」


「如何せん、貴女がなどと、無鉄砲なことを仕掛けるからして。それ故に私の仕事が増えてしまっていて、もう少しエリアを収縮して管理しやすい体制を取ってはくれないものだろうか」


「それくらいの問題には、目を瞑って欲しいものだわ。何せ貴女の使う【眼形映像監視の目】に《音》を乗せているのは他でも無い、私の力あってのことでしょう」


「何とも捻くれた返答をする。嫌な部分を突いてくるものだ。………食えない奴なのは、相変わらず――か」


「私からして見れば、貴女には大胆さが足りないくらいだわ。こっちは貴女と違って、大勢を一つに集めてチマチマ、チマチマとやることが性に合わないのよ。

 どうせやるなら、大きくやらなきゃつまらないでしょう。それに私の扱う【神耳かみみ】は貴女の神眼に比べて能力も派手じゃありませんし、どの国に潜り込ませても紛れ込みやすいのが取り柄ですの」


「つまらない―――の一言で締め括るとは…………、何と浅薄な意見だこと。

 私達が仕掛けるこの行いは、何もお祭り事では無いと言うのに。何故そうも、貴女は物事を派手にやりたがるのだか……………」


「良いじゃない。世界中そこらでおこなってやった方が一日も早く、計画に近付くってものでしょう」


「誰がそれを管理する手伝いをしていると言うのですか。まったく、貴女というヒトは本当に………………」


「いえいえ、これでもバランスというものはわきまえているつもりですのよ。

 例えば、場所の違い。大陸の国境に囲まれた内陸国であれば、隣接している国から国への移動がしやすく、プレイヤー不足はそれ程問題にはならないでしょうけど――、

 これが周りを海に囲まれた、海洋国にもなると、大陸の面積が――、エリアが――限られてしまい、そこに在地するプレイヤー同士で自分の生き残りを懸けたゲームが勃発してしまうのが、自然の流れ。

 それでは余程の大きな大陸でも無い限り、なんて広大なフィールドにおいて――

 元々この地に住まいを構えていらしているですとか、何かしらその地に離れ難い理由でも無い限り、みなが命を懸かっている以上――、

 わざわざ、そのような孤立した場所に居座る必要もありませんし、少なからず――海洋国初期位置から離れく者は出てくるでしょうね。

 それが予想を付く上で、【毎日一枚の耳の回収をノルマとすること】――、だなんて、貴女のところと同じようなゲームルールを設けてしまってはそれこそ………

 布都部島程の好条件の立地でも無い限り、その場所においてゲームそのものが破綻はたんすることは間違いありませんの。

 何も私は神であっても鬼ではありませんし、それだけに公正なルールを設けておりますわ。

 【ルールその一】何かしらの事情により、その地へ離れることの出来ないプレイヤーにのみ適応:耳一枚の回収は最長一ヶ月までの期間猶予付き。

 通常プレイヤーは一週間以内に一枚の指定になりますわ。

 【ルールその二】一日におけるゲーム時間は、二十四時間体制フルタイム

 折角、遭遇したのに、時間外で回収出来ないなんてことになってしまっては、可哀想ですもの。

 【ルールその三】一般の方々に目撃されてしまったら、その時は即処刑ですの♡」


「…………左様で。それが貴女の【Pilleurピヤー deドゥ oreilleオレイユ】という訳ですか」


「あらあら、相変わらず景気に返してくれませんこと。いつの日もブレませんわね。けれど私自身、貴女のそういうところは嫌いじゃありませんの。

 総じて計画については、私の方では順調に回っているわ。それにしても……………この計画を続けていって、やがて現実に形となれば――、かつての生活を失ってしまうものなのよね。

 大半はそれが問題無いとして、人間が素直に聞くものかしら?」


「言うまでも無いことです。それを素直に従わせる為に、私たちが命を管理するのですから」


「それもそうね。さてと、これ以上の長居はしてられないわ。久々に顔が見られて良かったわ。また何処かの機会で会いましょう、目神ヘアム」


「ええ、またの機会にでも――耳神みみがみヨヘヌ」

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