第三部 ⒌ 秒視

⒌ 秒視(1) どーも、初めましてや

「おっと、二人の激突がこんなにも早く訪れるとはなァ。こいつは見物みものだぜ」


 朱音と巳六、両者が闘い合っているその最中さなか骸狩野唯羽からかのゆいははひっそりとその付近にたたずむ一つの建物の物陰から二人の闘いを覗き見ていた。


「やっぱあの朱音野郎先輩アレの無茶苦茶な目力の前には為す術もェってとこか?

 ………にしても、あンな桁外れな目力が存在するとはなァ、そンだけウチの目に狂いは無かったッてか?

 ………まァ、何だッて良いさ。せいぜい二人で潰し合ッてな。そんだけ目狩りする神眼者ライバルが減るッてこった」


「なンや。めっちゃこすい手使うじゃんよ、先輩パイセン


「誰だ!」


 唯羽は自分の背後から聞こえてきたその声に反応し、すぐさま後ろを振り返った。


「どーも、初めましてや先輩パイセンわての名前は柴倉見桐しばくらみきり。布都部高校一年年下の後輩コーハイねん。気軽にみきりきって呼んでくれてかまへんでぇ~!」


「は?」


 突如として同じ布都部高校の学生を名乗る謎の一人の少女の登場により、呆気にとられる唯羽。


 確かに布都部高校指定の制服を身に纏っており、その他、何やらほこのように上にそそっているたい焼きの形状をした謎アクセサリーが付いた、一昔前に流行っていたフェイクフードアクセサリーとも言うべきヘアゴムが二つ。


 まるで火の粉が付いた導火線のような細い毛束に纏められ、先端は火花のような形をしたチクチクとした硬い毛先。


 首筋に当たらないよう、毛束は少し上目に纏まっている。


 名を付けるなら、バクダンヘアーと呼んでみたりする。


 前髪の方はセンターパートに分けられ、両肩に掛けて通学用のカバンをぶら下げている。


 地元がそうであるのか、大阪弁で話すその少女は一体全体どうして唯羽に声を掛けたのか、そもそも彼女が一般人であるのであれば、ゲームルールに従い、すぐにでも排除せねばならぬ存在でしか無い邪魔者である。


 さて、彼女はどちら側の存在であるだろうか?


 そして注意すべき人物は――


「……ちょっと、ちょっと待ってよ、みきり……ちゃん。なんでいつもいつもそうやって行く先々に声掛けちゃうかな。折角のチャンスだったのに………………」


「あぁ~、ちゃうでしょ~!ちゃうちゃうッ!そこはみきりきって呼ぶところやろ」


「……ちょっと、………怒りたいのはこっちだって言うのに……………」


「まぁまぁ、そう怒らんでもええやんか。人生、お気楽気ままが一番や。あれこれしょいこむのは身体に悪いでぇ」


「あんたがそんなんじゃなければ、こんなにも不機嫌にならずに済む…………」


 彼女の後を追うように後方より駆けて来て、何やら親しげに言葉を交わすのは、これまた知りもしないジト目のポニーテルの少女。


 ……いや、あの髪型をただのポニーテールだと呼べるものなのだろうか?


 確かに髪を後頭部で一つに纏めて垂らした髪型ではあるのだが、縛っている部分が明らかに一つ多い。


 頭の後ろで軽くねじって纏めているのが一つとそれによって纏められた髪の先っぽ付近に何故かまた縛っている。


 あれではまるで…………


「……。なーんかどっかで見たことあんような何かに似てッなーってずっと思ってたらよ、オメェのその髪型、まさしくそれだわ」


「……エビフライじゃない。これは単に一度カーラーして髪にボリュームを持たせ、その上で髪を結んで全体を綺麗に纏まった感じに見せるために毛先にかけて今一度髪を縛る、私のこだわり。……決してエビフライではない」


 自分の髪型をエビフライと言われ嫌な感情になったのか、少女は言葉を交える対象を見桐から唯羽へと変える。


ワリぃ、ワリぃ。別によ、人の髪型にケチ付けた訳じゃねぇんだわ。単によ、思っちまったことをつい口にしてしまっただけで………けどまぁ、その頭の後ろにぶら下げたエビフライ、何とも奇抜で斬新でイカすと思うぜ」


「………次またエビフライって言ったら、殺すッ!」


「おぅおぅ、恐いねぇ。………それで、更にその後ろにいる輩は何処どこのどいつだ?」


「………?」


「ほら、そこの電柱の奥に一人、こそこそウチらの様子を伺ってる女がいるじゃあねぇか」


 そう言われ、後ろを振り返るエビフ……いや、ポニーテールの少女。


 だが――


「……誰もいないけど」


 彼女が確認したところで、自分たち以外の存在を確認することは無かった。


「はッ?確かにだが………?奴は何処どこに?」


「そんなこと、私が知る訳が無い。……と言うより、幻覚なんて見ている余裕なんてあるの?」


「何を言って………」


 瞬間、先ほどまで陽気なテンションを見せていたの少女が動きに出る。


 近付いて来たことを感じさせぬまま、ふっと風のように唯羽の背後へとその姿を現す。


 あれだけ存在感のあった者が一切の気配を感じさせること無く、一瞬にして唯羽は接近を許してしまうのだった。


 そのまま奴の、見桐みきりの手が唯羽に向かって伸びていくと、その対象はのだった。


(………ほな、貰うで!)

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