⒋ 勢云破威(5) 右腕殺しの正体

「………成る程な。そいつは中々に使えそうな力じゃねェか。特にそのの能力、相手がアタシでなければ、決定的な有効打を与える切り札ともなる力だ。

 良いぜ、アタシの元に付きたいッてンのなら、勝手にするが良いさ」


「………と言うことはウチ、認めてもらえたってことッすよね。どうやら先輩の御眼鏡にかなったみてェで、こちとら嬉しい限りッす」


(………なーんて素直に喜ぶと思ったか、クソがッ!あのアマ、本気でウチを殺しに掛かってきやがッて!危うく死にかけたじゃあねェか!)


 突然始まった闘いの末、どうやら唯羽は目羅巳六めらみろくに認められたようで、どうにか無事に事なきを得た。


「………さてと、ちょいと手始めに誰を狩るよ?」


「えッ………あー、そうッすね。では、手始めにこいつとかどうです?」


 そう言って、唯羽は右腕に取り付けられた電子機器-〈EPOCHエポック〉を起動し、《神眼者しんがんしゃリスト》を開いて一人の人物のリストを巳六の前に見せた。


「――ッ!こいつは………………」


「知ッてンすか、先輩?」


「間違いねェ、あいつは……………」


「な、なンなんすか?」


「何者にも代えがてェ………代えられる訳がェ………かけがえの無ェ一人の悪友トモを、右腕相棒を殺しやがッたヤロウだ。

 そんなリストなんぞ、ロクに目を通してこなかッたから今まで気が付きやしなかったが………まさか神眼者プレイヤーという形で再び巡り会うとはよォ。

 こいつァ、神様ッて奴がアタシに復讐の機会を与えてくれたのだろうよ。あァそうだ、きッとそうに違いねェ」


「死んだとは聞いていましたけど、それって殺人だッたンすか?」


「………あれは、いわゆるヤンキー同士の殴り合いだった…………」


(……あ?なんか急に語り始めちまいやがッたぞ、コイツ…………)


「【西の餓露烏がろう】、【東の不飢蛾ふうが】ッて聞いたことはあるか?」


「確か先輩があの学校にいた頃、何かとこの島で騒がせていた伝説の暴走族二組………の名がそうでしたッけ」


嗚呼あァ、アタシはその当時、【西の餓露烏がろう】の特攻隊長を任されていた」


「と言うと、その相手ッてのは対立関係にあった【東の不飢蛾ふうが】に組していた人間だったってことッすよね。

 ならその人物は【不飢蛾ふうが】の特攻隊長あたりッすか?」


「いいや、そいつは上に組していた野郎では無かッた。ただの下っ端風情だ」


「下っ端?本当にそうであった奴があの《歩く妖災》と殴り合って、そのすえに死なせちまったッて言うンすか?」


「その当時、奴は【不飢蛾ふうが】の中でも一際ひときわ浮いていてな。

 同じ組の奴らと連んでるところを、一度として見たことがェ。

 どことなく、人と距離を置いているような感じで………決まって一人で【餓露烏がろう】の奴らをぼこすか殴り潰していた姿が実に印象的だった。

 《集団狩りの一匹狼》なンて異名があッたくれェ、下っ端ん中でも抜きん出て喧嘩の強かッたあいつとの抗争はとにかく激しかッた。

 互いの顔が変わっちまうくれェ………殴り殴られの暴行が繰り広げられ、血反吐を吐いてどっちかが再起不能イカれるまで決着がつかねェ、死闘も死闘だった。

 奴に敗れ、先に失神ノビきっちまった仲間達をよそに――、アタシは奴と差しタイマン殴りヤり合い、意識が朦朧もうろうになるまで、ぶッてぶン殴られての応酬おうしゅうまさに殴打の嵐と言ったところだろうな。

 そンで、奴とアタシ、互いにボロボロになってるところをあいつは………すでにテメェもボロボロだったッてのに………

 見てらンなくなっちまいやがッたのか、決着付けるまで止めるつもりは無かったアタシらの間に割って入って来たばかりに……………このッ、こン畜生がッ!」


「まさかそれで、《歩く妖災》は奴のこぶしに当てられて…………………」


嗚呼あァ、さんざ拳を当てられた結果、打ち所が悪かったんだろうな。

 気付けば失神を通り越して息の根が止まっちまッていやがった」


「……ハハッ、どんな暴行アレだってんだ。喧嘩がマジに発展して、拳一つで人が殺されちまうなンてよ」


「ガチでヤり合えりゃあ、そうまでイっちまう。不良の喧嘩、舐めてンじゃねぇぞ!」


「いや、別に舐めてはェっすけど、流石にそうまでぶッ飛んだ喧嘩はしたことは無いンで、驚きはしたッつーか………

 にしても先輩、こいつとは一種の因縁めいたもんがあったンすね。そこにも驚きッすわ。

 となれば、まずこいつからるってことで異論は無いッすか?」


「………決まりきったことを聞いてんじゃねぇぞ、後輩がッ!あの時の決着はあいつが………あいつが間に割って入っちまったばかりに付いてねェんだ!

 アタシ個人のケリを付ける為だけじゃあェ。一人勝手にこの世を去っていッたあいつの罪滅ぼしを、奴には本当の死を持ってつぐなわせてもらうのさ」


 二人が見つめる唯羽のデバイスに映し出されていた《神眼者リスト》の一人の人物――


 そこには紫メッシュの髪色をした見覚えのある顔の人物の姿があったのだった。

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