⒋ 勢云破威(2) あの時の眼球
ジリリリリリッ!
聞き慣れた目覚まし時計の騒音が聞こえてくる。
悠人は目覚まし時計のボタンを押すと、ゆっくりと身体を起こした。
「ふぁぁ〜〜っ!……ってあれ?どうして俺はここに………」
どういうことだろうか?
昨日は自分で家に帰った記憶が無い。
そもそも、昨日のことがいまいち記憶に残っていないのだ。
覚えていることとすれば――
昨日は不良の先輩達に絡まれて、ヤバいところを皆に助けられて、そんな中、一人の先生が駆け付けて来て、誰一人として目を奪われることなく闘いは終わり、そして――………
駄目だ。これ以上のことが思い出せない。
何か可笑しなことがあったようなそうでなかったような…………
……そもそも、自分は制服を着ていた筈なのに、今は寝間着を着ている。
誰かが着替えさせたのだろうか?
どうしても思い出せないでいると、突然、部屋のドアがガチャリと開かれ、一人の少女が顔を出した。
「あっ、兄さん。やっと起きた。どうしたの?あれだけアラーム音が鳴りっぱなしで起きないなんて、逆にこっちが音で起きちゃったくらいだよ。はいこれッ!代わりに朝ご飯作っておいたから」
そう言って、盛大に焦がしたトーストが盛られた皿を持ってきた彼女。
「……どうやら俺は
妙にリアルと混合している感じがいかにも夢っぽいと言うか………………」
「何、言ってるのよ兄さん。
そう言って、彼の
「…………いッ、いででで、いでででででッ!…ってあれ?痛みを感じるってことはまさかこれは、現実?」
「だから、そうだって言っているじゃない。ほらっ、これでも食べて!さっさと準備!準備!」
「………ちょっ待っ……ぐもっ、もがががががッ!」
悠人が話す間も無く、妹の紫乃は焦げた食パンを彼の口いっぱいに放り込み、その口を塞いでしまう。
「はいッ、水!」
「…………んんんんッ!―――ふぅ。窒息死するかと思ったわ。にしても何だったんだ、さっきの味は。焦げた苦みだけで無く、しょっぱいような酸っぱいような、それにほんの少しだが甘さまで感じたぞ」
「私はただ、美味しくなるかと思って、一度牛乳に
「牛乳に浸すって、フレンチトーストでも作ろうとしたのか?
良いか。そもそもフレンチトーストというのは、何も牛乳だけを浸して作るものじゃないんだ。
工程として、まず牛乳に砂糖を加えて混ぜたものを食パンに浸すこと。この時、食パンは二分の一、または厚い食パンなら四分の一程度にカットし、浸す前に熱を加えること。電子レンジで500Wで1分程度に、一度温めたら、今度はひっくり返して両面それぞれ、レンジで温めていく。
お店に出るようなトーストなら、長時間浸して作っていたりするものだが、予め温めておくことで、その熱によって牛乳の中にある水の分子が活発化し、パンに浸み込む量がアップするという寸法だ。
このやり方なら大体、一分ぐらい浸ければ十分に味が染み込むから、忙しい朝でも手早く味を付けることが出来る。
ひっくり返して両面に牛乳液を付けたところで、今度は別のボウルに卵を割って掻き混ぜ、そのボウルの中に食パンを移し替え、卵液を同様に両面浸していく。
そしたら、フライパンにバター……は高いこともあって、
程よく表面で溶けてきたところで、味を付けた食パンを入れ、弱火で両面を焼いていき、綺麗な焼き目が付いたところでお皿に盛り付けし、最後に上から蜂蜜やらメープルシロップやら……、
まぁそんな感じで、意外と食パンに熱を加えてやるってちょっとしたコツさえ知っていれば難しいことは無い………って言っても、それでも上手く
……とは言えいい加減、何か一つでも良いから、まともに料理と呼べるものが出来るようになってくれることを、兄ちゃんは待っているのだがな」
「いやぁ〜、それほどでも」
「褒めてねぇからな」
「それよりも兄さん、今日のお昼はどうするんです?これじゃあ、いつものように弁当を作っている時間も無いでしょうし、パンだってさっきので使い切ってしまって、当然のようにご飯だって炊いていませんからおにぎりの一つや二つ作ることだって出来ませんよ」
「それは紫乃が炊くと、タイマー設定が色々と間違っていて、そのせいで毎回のように飯がベチャベチャになるから………って、ご飯だってちゃんと炊けないんじゃあ、俺が亡くなった時の食生活が危ぶまれるよ」
「なら、私が死ぬまでは心配で死に切れないね、兄さん♡」
「………ったく、手の掛かる妹だよ」
そう言って、制服に着替えようとする悠人。
そこで思い出す。
「………っと、そういや俺、昨日は寝間着に着替えた覚えが無いのだが、昨日は何があったか教えてくれるか?」
すると、紫乃は答えた。
「そうだよ!昨日は大変だったんだから。学校が終わって家に帰ってから三十分も掛からない内にインターホンが鳴り出したから何事かと思って出て見れば、未予さんが兄さんを
『君のお兄さん、突然学校で倒れられたものだから、
取り敢えずは制服がシワだらけになってしまわないよう、寝ている間に兄さんの着替えをやって……………そ、その………(ボクシング)ジムで鍛え抜かれた兄さんの昨日見た肉体美が記憶から離れなくて、思い出すだけでそれはそれは、きゃ~~ッ!」
「……あはは、説明ありがとさん」
苦笑いを浮かべながら、昨日起こった状況を理解していく悠人。
「……にしても、まさかあの後、学校で倒れていたとはな。道理で色々と記憶に無い訳だ。俺が金を持っていないことを知ってて、恐らくは救急車を呼ばなかったんだろうが、特に体調が悪いだとか身体がダルいってことも無いし………
彼女の言っていた通り、大したことでは無かったのだろう。
……どうせこれも予め、未来視で知っていたことなんだろうな…………」
「ごめん、兄さん。最後の方、何を言っていたのか、良く聞き取れなかった」
「いや、何でも無い。……さてと、昨日の夕飯の残り物であれこれ適当に詰め合わせりゃあ、弁当は
そうして彼は、部屋を出て行くのであった。
悠人が離れていくのを確認すると、すでに制服姿に着替え終えていた紫乃は、身に付けていたブレザーの胸ポケットからあるものを取り出す。
それは一つの密閉袋、ところがただそこに袋があるだけでは無く、あるモノが中に入っていた。
「兄さんの着替えをやっていた時に偶然見つけてしまったのだけれど、…………これって
そこには昨日、未予から手渡されていた魔夜の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます