⒉ 処憂餓威(4) 収束

「くそッ………斬月の身に何があったんだ。ここは駄目ダメ元で電話を掛けて見るか…………」


 そう言ってこちらから電話を掛けてみるも、一向に繋がる気配は無かった。


「駄目だ。全然繋がらない」


「大丈夫なの?」


 華は最近手を取り合うようになった斬月のことを良く知らず、心許無い様子の彼女。


 それを察した悠人は変に心配掛けまいと、口を開いた。


「……彼女ほどの実力者、そうちっとやそっとで死ぬようなタマじゃないさ。だから心配するな。今は俺たちでこの状況を乗り越え、そして打破する方法を考えるんだ!」


「ゆっとがそう言うなら………分かった。今は自分たちの立場をどうにかする方が先だよね」


「そうだ。こうなったらまずはこの現象を起こしたであろう、ヤンキー先輩たちの居場所を探し出すことから始めるぞッ、華ちゃん!」


「そうだね、ゆっと!」


 くして二人は、奴らの捜索を開始した。


「不良のいる場所ッつったら、人気ひとけの無いたまり場ってところか?この学校でそんな場所と言ったら―」


 彼は体育倉庫の裏を見る。


 奴らの姿は………無かった。


「まっ、こうもテンプレみたいな展開があるとは限らない………か」


 そうして来た道を戻るように後ろへと振り返ると、そこには―


「一年坊主の分際でウチらのこと、何コソコソ嗅ぎ付けてやがンだァァ、あァン?」


 まさに探していた例の連中が目の前にいた。


「華ちゃんは………華ちゃんは何処どこに………………」


 いつの間にか、後ろで付いて来ていた筈の彼女の姿が見当たらず、悠人は必死にキョロキョロと辺りを見回し始める。


 すると、連中のリーダー格である噛月朱音かみつきあかねが口を開けて言った。


「華ちゃン?それはこいつのことか?」


 そう言って、噛月朱音が指を差した先には、あの時悠人に襲い掛かって来たクラスの連中のように、死んだ目をした華の姿があった。


「これは何が起きて……………」


 よく見れば、奴の瞳は小豆色に発光され、瞳孔は釘バットと鉄パイプをそれぞれ交差クロスしたような奇妙なシルエットの形へと変化をしていた。


 そう、神眼を開眼したのである。


「ぎゃはは!実に面白かったぜ、こいつはよ。あの中で複数人相手に襲われてたにも関わらず、特にあらそった形跡も無いまま容易に出て来られた時には、どんな強い神眼者なンだと少しは警戒していたが、なんてことはェ。

 実に呆気なく能力に掛かってくれて、最早もはやこの女はウチの言いなりに動くことしか出来ない、神眼を狩る手足パシリってとこか」


「こんなことって…………」


「これで五対一。このまま、おめぇをっても良いが、抵抗も出来ないこの女から神眼を奪うってのもおもしれぇよなァ?」


「なっ……やめろぉぉぉおおおおおおおおおぉぉ――――ッ!」


 悠人は感情のままに勢いよく飛び出した。


 噛月朱音が華の眼球に手を伸ばす。


 悠人もまた、それを阻止せんと朱音の腕を掴み掛かろうと手を伸ばす。


 だがどうしても華と朱音との距離の差が圧倒的に近いゆえに、どう足掻あがいても奴とは距離の差に違いがある以上、この問題を解決しない限りはどうにもならない。


 更には―


「ぉぉぉ…………ぐ、ぐあぁぁああああああああぁぁぁぁ―――――ッ!」


 突然の苦しみが悠人を襲い、その痛みのあまり、彼の足はパタリとその場から崩れ落ちる。


「そこで大人しく彼女の最期を見てやがれッ、一年坊主ッ!おめぇに姐サンの邪魔はさせねェよ」


 連中の一人、白鮫稔しらさめみのるが赤紫色の神眼を開眼し、目力:【邪苦肉狂蝕じゃくにくきょうしょく】を発動する。


みのるの奴、さっきの失態を取り戻そうと必死になッてんだぜ」


「おいおい、何言ってンだよ安奈あんなさァ。言っちゃえば、ウチの目力は嫌なことを忘れられる力なんだぜ。

 みのるが恥を感じたことの一つや二つ、さっき使った時に全て忘れてるッつーの」


「それは確かに」


「「あははは!」」


 仲間のスケバン連中の二人-骸狩野唯羽からかのゆいは近嵐安奈ちからしあんなが面白可笑しく笑い合う。


 完全に神眼狩りが決まると確信している様子である。


 それは油断。


 まさしく奴らは油断していたのだ。


 これは華の神眼を完全に仕留めたと、周囲に目を配っていなかったことが彼女の接近に気が付けず―


「ごめん遊ばせ」


「な、なんだ………イ゛ッデェぇえええええええええええ――――ッ!」


 朱音の背後より現れた、黒髪ロングの見知った同学年の少女。


 その少女-保呂草未予ほろくさみよは、華の神眼に向かって伸ばしていた腕を掴んで軽く捻り上げて見せると、そのまま彼女をおさえ込んだ。


「「姐サン!」」


 噛月朱音のピンチに二人のスケバンは助けに入ろうと駆け寄ろうとする。


 だがそれを止める別の少女が背後に一人。


「この人達が例の神眼者しんがんしゃですか。なんともガラの悪そうな人達ですね」


「「ナメた口、聞きやがって。今すぐそのツラ見せやが……………」」


 揃って二人が振り返ろうとしたその瞬間、背後から伸びた手によって二人は頭を掴まれると、さながらシンバルを叩く勢いで互いの顔面は衝突され、勢いよく叩き付けられた取り巻き唯羽と安奈の二人は衝撃で鼻血を流し倒れ込むと、その後ろには眼鏡を掛けた同学年の神眼者、裏目魔夜うらめまやの姿があったのだった。


「まずはお二人さん、戦闘不能ってとこで」

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