⒉ 処憂餓威(5) 裏切り
「ほら、何をボサっとしていないでさっさとそいつを撥ね除けてしまったらどうなの」
わざわざ言われなくたってと訴え掛けるように、悠人はこの好機を逃しはしないと己の神眼を開眼すると、
そして彼女に向けて
「……た、助かった未予。魔夜さんもありがとな」
「私が未来視能力者だったから貴方のピンチに駆け付けることが出来たようなものだけれど、まずはそのことで感謝を述べているより前に『ロール巻き』を正気に戻すことが出来てから、礼はそれから言うべきじゃないかしら?」
それを言われ、悠人はふいに〈夢見華〉の方へと振り返ると、そこにいた筈の彼女の姿は無く、
だが、その攻撃を素直に受ける未予ではない。
朱音の右腕を
「さあ早く、どうにかして貴方がロール巻きを止めるのよ」
「止めるったって、どうすれば……………」
彼の使う目力:【
だからと言って、この場であれこれ考えていても仕方がない。
悠人は急いで彼女の元へと駆け出し、未予を守るように正面切って立ち塞がると、特に考えも出ないまま華との戦闘が始まった。
「うわっ、お前……本当にあの華ちゃんかよ。あっぶねぇ…………」
悠人は相変わらずの動体視力と反射神経で華の攻撃を
それでも油断だけはしないで、懸命に華の動きを見ながら上手いこと躱していく。
この場合、気絶させるのが一番だとは思うが、出来れば幼馴染である彼女を傷付けたくないのが彼の本心だった。
(……
だが、この気の迷いが一瞬で状況を最悪にした。
このままでは
「しまっ…………」
彼が優柔不断だったばかりに、華は朱音を助けに未予と再び戦闘を交えた。
「何をやっているのよ。馬鹿なの?」
「………ごめん。俺には彼女を止めることなんて無理だ」
「何を言って……………がはっ」
「未予ッ!」
片腕だけで華の勢いを止められる筈も無く、気付けば未予は彼女の攻撃をもらい、朱音を抑え付けていた手を離してしまい――
「……ちっ、ウチ一人助けるぐらいで手こずってんじゃねぇよ。ちったあ、要領良くやりやがれってんだッ!………だがこれで、ようやっと自由になれたぜ」
未予の拘束から解放されて自由になった朱音は、
「さっきはよくも、手荒な真似してくれやがってよぉ。おめぇもこの女同様、ウチの命令には一切逆らうことの出来ねェ
朱音の視線が未予の目を捉えると、瞬く間に未予の瞳から光が消え、華と同様に声の一つも発さず、生きている人間とは思えない不気味さを放っていた。
「あははは!ウチの持つ力-【
「《
奴の謎の目力によって未予までもが敵の支配下になってしまったというのに、やさぐれた人格が表に出た魔夜が不思議そうに言葉の意味を分析しようとする。
「先輩相手にタメ口を利くとは、良い度胸してんじゃねェか。おめぇ、名は?」
「裏目魔夜だ」
「魔夜か。気に入ったぜ、おめぇのこと。どうだ?ウチと手を組むってンなら、この力のことについて教えてやらなくも無いぜ。
てめぇのような生意気にも
親へのしがらみ、過去のしがらみ、精神的しがらみ、人との交流、人間関係のしがらみ、そこらに蔓延るしがらみってやつを全て撥ね除けて自由になりたい、解放されたいッて思想からそんな性格ッてのは形成されるもの。俗に言うグレるってやっちゃあな。
そんなヤロウほど、他人の手取り足取り言いなりになんか、なりたくもねェ口だ。違うか?」
「……流石は先輩、どうやら人のことを良く分かっていらっしゃるようで…………そうですね。でしたら私の返答は………………」
そうして魔夜が決めた答えは――、
「このままじゃあ
あろうことかまさかの裏切りという選択であったのだった。
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[あとがき]
本編では特にえがいていなかったのですが、やさぐれた魔夜の人格は、そうでない時の彼女と比べ、目付きが少し鋭くなっているというちょっとした小ネタがあります。
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