⒈ 夜云鬼威(6) 華は見る 華は動く
突如として常軌を
その頃、体育館内では夢見華が同じ状況にいた。
「どうしちゃったの、
彼女の声が届いていないのか?
明らかに周りの人間の様子が可笑しい。
誰一人として華の呼び掛けに答える者はおらず、奴らは突然襲い掛かった。
四方八方から飛び掛かられ、完全に逃げ場の無いこの状況。
「……
華は危機を感じて、神眼を開眼。
そして目をこすり、目力-【
急激な睡魔に襲われ、バタバタッとドミノ倒しに倒れていく人々。
人間の目が光るという怪奇現象を見た彼女達だが、眠らせる能力ゆえ、意識が戻った時には、そこは都合良く現実的にあれは夢だったと思ってくれることだろう。
そんなことを心配するより、これは嫌な予感がする。
ゆっとは無事なのだろうか?
華は心配になって、すぐに体育館の扉を開けて外に出た。
取り敢えず彼女が最初に起こした行動は、グラウンドで授業を受けている男子組の元へと足を動かしたことだった。
そうして華がグラウンドに差し掛かった時、何やら騒ぎがあることに気付く。
見知った顔をした集団が一斉に、何かに向かって駆け回っている。
集団が追い掛けている先にいた者は…………白髪の少年だった。
「ゆっと!」
見間違う筈がない幼馴染の存在に気付いた華は、すぐに彼の後を追い掛けようとしたが、この夢見華、お世辞にも運動神経が良いとは言えず、走って【
ゆっとの動きを目で追い掛け、ゆっとを見逃さないこと。
行動パターンを観察すれば、どこかでゆっとを助けられるタイミングが掴めるかも知れない。
華は見る。
ゆっとが
華は動いた。
校舎内に入ったゆっとを、窓ガラスの奥で駆け抜ける彼の姿を追うように、常に視界のどこかしらには
彼と並列して動かなくても良い。
男の足に合わせて移動でもしたら、普通の女子ならば体力がすぐに無くなってしまう。
右端だろうが左端だろうが、とにかく彼の姿を右目でも左目でも視界に入れておけば良い。
そうしてゆっとの姿を見逃さないよう目で追い続けていると、それまでひたすら走り続けていただけの彼の動きが変わった。
突如、三階の窓から身を乗り出したゆっと。
そして―
「……こうするしかねぇだろぉぉおおおおおおおおぉぉぉぉ――――ッ!」
と声を上げながら、ゆっとは外廊下の屋根の上に飛び降り始めた。
その外廊下は体育館・弓道場に続く方の通路であり、結局のところ華は元いた地点に戻って来たという訳である。
ドッと疲れた気分である。
だがゆっとが校舎から出て来たことで、外にいる華にとって彼を助け出せる良い機会となった。
屋根上からこちらへと近付いて来るゆっと。
ぞろぞろと何人かの男子生徒が外廊下の屋根の上に飛び降り、逃げるゆっとを追い掛ける。
この流れでゆっとが奴らを【
だが、ゆっとは途中で足を止め、後ろを振り返る。
背後の異常性に勘付いたのだ。
屋根の上に落ちたものならガタンッと物音一つ聞こえてくる筈だが、その音に混じってドサッ、ドサドサッと明らかに屋根の上に落ちてくる音とは違う音の存在をゆっとの耳は
「……嘘、だろ……………………」
ゆっとは振り返ってしまったばかりに、残酷な光景を目にしてしまう。
ぞろぞろと窓から奴らが押し寄せ、誤って屋根の上ではない別の地点へと落下していき、血を流す者達の姿を。
ピタリと足を止め、その光景を凝視してしまうこと一秒。
一瞬の静止がゆっとの命取りになる。
「しまっ…………」
すでに後ろから迫り来ていた数人が揃ってゆっとに襲い掛かり、彼は一瞬にしてその集団に飲み込まれた。
「嘘でしょ………」
華は見てしまった。
彼が襲われるその瞬間を。
あろう事か、【
だがそこでゆっとの命が終わったと思い、何も行動を起こさなければ、助かったかもしれない命も助からない。
「………死んじゃ嫌だよ。まだ私、ゆっとに告白もしてない………………」
ここで動かなければ、それこそ未練が残るだけだ。
彼女の中で強い感情が芽生え始めた。
「……そんな弱気じゃ駄目だ。ここで動かないでどうする。
己を奮い立たせ、華は動き出す。
挫折しかけたその心を、疲れ掛けていたその身体を跳ね
走りながら、一瞬の
「……間に合えぇぇぇ――――――――ッ!」
華は能力の届く位置へと足を踏み入れると、即座に目を擦りそう叫んだ。
魂が抜けたかのようにバタバタッと倒れていく人々。
華はすぐにゆっとの安否を確認しようと、外廊下の側面に設置されたフェンスに足を掛け、屋根に手を付いて、怪我のないようゆっくりと屋根の上によじ登ると、眠った集団の山を
すると程なくしてゆっとの顔が現れ、耳を
ゆっとが無事だと分かった途端、華は安心したように安眠する彼を見て―
「……ヤバい。寝顔可愛い♡」
さっきまでの必死さは
だがいつまでもそんなことをしていても仕方ないので、
「ゆっと、起きて!昼休みに襲って来た人達がいつどこから現れて来るのか、色々と油断出来ない以上、いつまでもそうして寝てはいられないわ」
「………んん………あれっ、華……ちゃん?……って、うわっ!こいつら全員、眠っているのか。そうか…………華ちゃんがこいつらを……………………」
「本当に……心配したんだから………………」
「心配させて悪かった。助けてくれてありがとな。しかし、あの不良連中にこんなことが出来る能力者って………………」
悠人が一人考えていると、いきなり彼の右腕に取り付けられたEPOCHが着信音を鳴らしながらブルブルと振動を起こし始めた。
着信パネルが空中に投影され、発信者の名前には仲間の《三日月斬月》が表示されていた。
悠人は何事かと応答ボタンをタッチするとパネルの画面は切り替わり、斬月の顔が映し出された。
『……斬月です。その………すみません。例の件ですが、現在私の前に神眼者が現れまして……………正直に申しますと助けに行けそうもなくなりました。本当にすみません。そういうことで―』
「えっ………ちょっ、嘘ですよね。斬月さーん!おーい!」
斬月は勝手に自らの用件だけを伝えると、通話はすぐに切れ、彼の
「マジかよ…………」
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