⒈ 夜云鬼威(5) 恐怖の鬼ごっこ
「準備
昼休みが終わり、体育の授業が始まった。
クラスの男子体育委員が
(このチャンスを逃す筈が無い。奴らは
キョロキョロと周囲を見渡す悠人。
だが、その魔の手は意外なところから現れた。
悠人の後ろで準備体操をしていた一人の男子生徒が、突如として悠人の首を掴み掛かる。
ガッと首根っこを掴まれ、慌てて悠人はその手を解き、後ろを振り返る。
当然のようにその男子生徒の様子は可笑しく、抜け殻のように生気の無い目をしたその男子生徒は、もう一度悠人に襲い掛かるように両手を伸ばし、彼に向かって飛び出した。
「こいつは一体、どうなってやがる」
その男子生徒一人だけでない。
気付けば周囲の男子生徒全員は
一体これはどうなっているのか?
とにかく悠人は明らかに様子が可笑しいこの者達から逃げるように、その場から走り去った。
恐怖の鬼ごっこの始まりである。
ただ逃げ回るのでは仕方がない。
グラウンド周辺の建物は、ラインカーなどが
中でやり過ごすにしても、鍵を持ってないのだからそれは不可能である。
少し離れたところには野球部やサッカー部などが
ならばと、彼は外靴のまま校舎内へと駆けて行き、何処か良い隠れ場所が無いか、目を働かせる。
図書室が目に入る。
駄目だ。昼休みは終わり、閉館している。鍵が掛かってしまっている。
他には別館に繋がる外廊下が目に入る。
あれは食堂に続く道だ。
だが食堂も昼休みが終わった今、鍵が閉まっていることだろう。
外廊下はもう一つ、体育館・弓道場に繋がる通路もあるが、体育館ではまさに同じクラスの女子生徒組が体育の授業を受けている最中だ。
そう言えば、華ちゃんの方は大丈夫なのだろうか。
神眼者が自分だけという状況は、今の彼女だってそうだ。
気になるところだが、女子生徒だけで授業を受けているところに男の自分が入り込むのは色々と………それはそれはゴミを見るような目で
彼は色々なことを恐れ、外廊下は無視し、二階へと進んだ。
一年生の教室が並ぶ中、少し離れたところに美術室や調理室などが目に入る。
それらの特別な教室は使用されているところもあれば、使用されていないと言ったところか。
となると今の時間、誰もいないクラスの教室の中に逃げ込み、内側から鍵を掛けてやり過ごすのが最も安全な手だと考えた悠人は、誰もいない教室のドアに手を引っ掛けようとする。
だが、
ならばと他の空いている教室のドアに手を掛けて行くも、どれ一つ空いている教室は無かった。
悪くは無いのだが、それはあくまで学校上での仕事ぶりでのこと。
死んだ目をした集団に追い掛け回されているこの最悪な状況において、その仕事ぶりをほんの少しだけ呪いたいと思ってしまいそうである。
ここでは隠れられるような場所は無い。三階へと進んだ。
二年生の各教室が見え、その他に化学実験室や音楽室などが目に入る。
二階の時と同様、この時間使われている教室もあれば、使われていない教室もあればといった様子。
下の階の教室があれだったものだから、もしかしたらとは思ったが、それでも少しは希望を持って空いている教室を片っ端からドアが開いているか確認しながら移動する悠人。
だがしかし、どの教室も一向に閉め忘れが無く、こうなったらひとまずは四階に進むしか………そう思っていた時、悠人はふと廊下のとある窓ガラスに目を付ける。
「ひたすら上の階に逃げていても、到底活路なんか開きやしない。だったらよぉ………」
その窓ガラスの鍵を開け、急いで横にスライドし開放。
「……こうするしかねぇだろぉぉおおおおおおおおぉぉぉぉ――――ッ!」
死んだ目をした集団に捕まる前に、間一髪飛び降りて
考え無しにこの窓から飛んだ訳ではない。
この窓だからこその考えがそこにはあった。
窓の下にあったもの、それは一階で見た外廊下、その上に取り付けられた雨風を
慌てて飛び降りたものの、どうにか上手いこと着地を決め、無事に屋根の上に飛び移れた悠人は、急いでその上を駆けて行った。
奴らは彼の後を追うように次々となだれ込むように身を乗り出し、飛び降りようとする。
だがそんなことをしてしまえば当然の如く、怪我が発生し…………
飛び降りに失敗し、頭から地面に落下した者や、近くの
少し頭を働かせればこんなことにならずに済んだ筈なのに、まるで一切の意識が無いゾンビのように、奴らは考え無しに、恐怖を
このままではクラスの男子生徒が全員死ぬことだって…………
何一つ悲鳴も無く、ドサッ、ドサドサッと人が落ちる音だけが後ろから聞こえ、
「……嘘、だろ……………………」
だがそれが自分の危機に直結することになる。
「しまっ…………」
全員が全員、外廊下に取り付けられた高屋根の上に乗っかることが出来なかった、なんて別の意味での奇跡が起きる訳が無く、上手く着地出来た者から順に彼の後を追って来ていた連中に掴まれ、彼はその言葉を最後に追って来た大群に飲み込まれるのだった。
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