⒈ 夜云鬼威(2) どうしたと?

「……どうしたんだろう、ゆっと。弁当置いたまま、戻ってこないなんて」


 同じクラスにして悠人の幼馴染みである夢見華ゆめみはなが、右隣の彼の席を目にしながら――、ぽつりとつぶやく。


「どうしたと、はなはな?」


「ぐっへっへ、はなはなの箸が止まっている間に、その旨そうな唐揚げ食べちゃうぞーッ!………と見せかけ、隙だらけのほっぺたにつんつんつんッ!」


「ひゃっ!おどかさないでよ、六井むいちゃん。……ってあれ?二人共どうかした?」


 クラスの友達、名を紗倉津久実さくらつぐみ立見弥六井たちみやむいが声を掛ける。


 どうやら二人からは、『はなはな』という愛称で呼ばれているらしい。


 華の机を囲むように椅子を並べ、三人は教室で各々おのおの持って来たお弁当を食ってたのだが、途中から飯に集中せず明後日の方向を見ていた彼女を六井むいは頬を小突き、びっくりした彼女は二人の方へと視線をズラす。


 目が合ったところで、津久実つぐみは間髪いれずに口を開いた。


「それ、あたしの台詞セリフばい。なんや隣の方を見とったようやけど、目崎君でも気になると?」


「おやおやぁ?彼とは幼馴染おさななじみの関係だって聞いてはいましたが、こいつはもしかして幼馴染である以前に一人の男性として意識しちゃっているのではありませんか?

 思わず箸が止まってしまう程、彼のことを意識してしまう程の仲。幼馴染という関係を越え、其の実――、将来を誓い合った男と女…………ああ、それは乙女憧れのシチュエーションの一つ!想像しただけでキュンキュンしそう」


「そう言うのじゃないって。ただ…………」


「「ただ?」」


「お手洗いにしては、いくらなんでも時間掛かり過ぎのような気がして…………」


「ばってん、こげなお食事中言うのもあれやけど、だい………しちょんけん?けんどそうやとしてん、遅過ぎる……たあ思うけんど」


「それはあれだよ。出かかっているのに、あと一歩のところで出てくれない、あのイライラに悩まされているんだよ」


「それなら良いんだけど…………」


「何か、心配事でもあるんと?」


「ううん、何でも無いよ津久実つぐみちゃん」


 と言いつつ………


(まさか、神眼者に狙われたなんてことは無いよね?学校なんて人の目に付きやすいところで…………)


 内心、そんな不安を感じていたりした。


 そこでふと、思い出す。


(……そう言えばあのおばさん、未来を視ることが出来るんだっけ?ここは一度確認のため、教室に立ちってみようかな?)


 華は動くことにした。


「やっぱり私、気になるから二人で食べてて」


 そう言って、教室を出て行ってしまった。


「えっ?ちょっと、はなはな?」


「ふっ………行かせてやりな。それだけ彼に対する愛が強いってことさ。キャー!」


「何、一人で盛り上がってると。あんたの変な妄想はさておき、なんだか胸騒ぎがするばい」


 その頃、未予のいる教室では―


 教室の中を覗き込む華の姿があった。


「おばさんは…………いたっ!」


 一人孤独に携行食を食べる保呂草未予。


 あれが好きなのか、お店の味レベルに美味しいと評判の最近一般販売された《完成された携行食》と言うキャッチフレーズでCMまでやっている商品-前にニーナ・ランドルトに食べかけを渡したことのある、まさにそれを食べていた。


 更に机の上にはシリアルバーにチューブタイプのジェル状の栄養飲料なんかが置いていたりもした。


 なんでも未予はそういった携行食を常に持ち歩いているらしく、いつどこで神眼者に襲われても良いよう、エネルギー摂取は携帯出来るものの方が良いんだとか。


 未予の変食はさておき、取り敢えず彼女が教室にいたことが確認出来ると、華は彼女の教室へと入り込み、目的の人物の元へと歩み寄る。


「何か用かしら、ロール巻き?」


 華に気付いた未予は一旦食べるのをやめ、先に口を開いた。


「その…さ、何か変わった未来とか見たりしてないかな?昼休みに入ってすぐ、教室を出たきり、ゆっとが戻って来てないの」


「そんなの、だいか何かなんじゃないかしら?けど、昼休みに入ってすぐと考えるなら、すでに四十分も掛かっている。流石に遅すぎる、か。確かに何かあったと考えるのが妥当ね。今から未来を視て、手遅れになっていなければ良いのだけれど…………」


 そう言って、未予は他人に見られないよう、顔を伏せてから神眼を開眼。


 未来視の力を発動した。


 すると、彼女は衝撃の光景を目にした。


「これは…………」


 学校の校舎裏で倒れ込む悠人の姿。


 見るからにガラの悪そうな集団がそこにはいて、それを束ねるカシラと思しき改造ジャージ特攻服を着た女性が悠人の青い瞳の神眼を掴み、天に上げる姿があった。


 神眼を閉じ、濃褐色の瞳に戻ると、顔を上げ華に告げた。


「マズいわ。このままだとあの男、神眼を取られてしまうみたい」


「だったら、一刻も早く行かなきゃ。場所は?」


「それなら案内するわ。付いて来て頂戴」


 急いで教室を出た二人。


 はたして彼が血祭りに上げられてしまうのが先か、二人が救出に間に合うのが先か、地獄の抗争の始まりである。

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