-ピヤー ドゥ ウイユ- アイランド・ゲーム3 第三部 ⒈ 夜云鬼威

⒈ 夜云鬼威(1) 噛月の姐サン

 月は五月。


 学校にはかなり慣れて来て…………と言うのは、この状況から見ればそれは嘘になるだろうか?


「おめぇよぉ、自分が何故なゼこんなことにナッてんのか、分かってンだろうな?」


「えーっと、何でしょうか?」


 不良女子集団――いわゆる『スケバン』と呼ばれる族の連中。その数三人に絡まれているは、この物語の主人公-目崎悠人。


「あぁン!?なンだぁ、そのクチの利き方はよぉ。ナメとんのか、ゴラァ!」


「いや、舐めては無いですが…………」


「……あのね、君ィ?人様の肩ぶつかッておいて、謝るだけで済むとか思ッて勘違いされちゃあ困るンだよねェ?ほらッこれ、見てみろッて」


「肩……ですね」


「肩……ですね、じゃあねェよ!さっきてめぇにぶつけられたココ、疼いちまって仕方がねェ訳?あー、痛ッてェー…………骨折れたかも。ほれさっさと慰謝料いしゃりょう寄越しやがれッてんだ!」


「いや……ほんの少し掠った程度でしたけど…………」


「御託は良いンだよッ!コイツが痛がッてんだろうがッ!てめぇには人の心ッてもンが欠けてンのか?薄情者だなァ、おめぇ?

イイからてめぇはさっさとコイツの為に慰謝料払えやそれで良いンだよッ!下級生風情がッ、舐めた態度取るんじゃあねェぞ!」


「お〜、恐々こわこわッ!コイツら、ナニ仕出かすか分かったもンじゃあねェぞ。

 痛い目見たくなけりゃあ、素直に従っておいた方が良いと思うぜ、後輩クンよォ?」


 何がどうして――、彼がスケバン達にカツアゲされるようなことになってしまったのか、それは昼休みに入ってすぐのところまでにさかのぼる。


 午前授業が終わり、お手洗いに出かけた時のこと――


 ドンッ!


 廊下で何者かと肩がぶつかる。


「あぁン!?ナニぶつかってんだァ、おめぇ?」


「あ……これはすみません、先輩」


 ぶつかった相手が一目で上の学年の人だと分かった悠人は、きちんとを付けて謝った。


 一目で先輩であると分かった理由、それは相手の胸元に下がった首飾りにあった。


 学生が身に付けるネクタイまたはリボンには、学年毎に色分けがされており、今年度の一年生は青、二年生は赤、三年生は緑となっている。


 今の三年生が卒業すると、緑は来年の新一年生へと移り変わり、二年生が青、三年生が赤。


 すると再来年の新一年は赤に移り変わり………とまぁ、その循環じゅんかんが繰り返されていくという流れである。


 ちなみにぶつかった相手のリボンは今年度の三年生を示す緑色をしていた。


 謝ったのち、悠人はそのまま立ち去ろうとする。


 だが――


「おいおい!一言だけ言って、立ち去ろうとでも思ってンのか?」


 肩を掴まれ、進行を止められてしまう。


 更には仲間もいたようで――、


「そいつはイケないなァ、にいちゃンよぉ」


「こいつ、一年の白髪野郎ってんで、この学校で目立ってる奴ッすよ。ウチらを差し置いて目立とうなんざ、百年はえーってとこ、教えましょうやッ!」


 口々に追い打ちを掛けていく他のスケバン達。


「……ええと、ヤンキーらしく、それで済むなら警察サツはいらないと言う訳でしょうか?」


「ヤンキーらしくだァ?ナメた口聞いてねェで、ちょいとツラ貸しやがれっ!」


 どうやら完全に目を付けられてしまったようで、こうして彼は人気ひとけの無い校舎裏へと連れ出され、今に至る。


「……慰謝料って言われましても、自分、貧乏ですからロクに金持っていませんって」


「なら、財布見せろやッ!」


「これで良いでしょうか?」


 彼はあっさりと自分の財布を差し出した。


「少なっ!こんだけしかぇのかよ。ガキの小遣いにもなりやしねぇ。取るほどのものじゃねぇぞ」


「これで分かりましたよね。なんなら、ポケットだって調べても構いません。一銭も金を隠し持ってたりしませんから」


 スッカラカンである証拠だと見せ付けるように、両手でつまんで左右の内ポケットを引っ張り上げる悠人。


「ケッ………あー、ムシャクシャしてたまんねー。こうなったら、代わりに一発殴らせろやッ!」


 当たり散らすようにそのスケバンは右のこぶしを前に伸ばし、今にも頬を殴られるかに見えたその瞬間、悠人はその拳を頬に当たる寸前で受け止める。


 彼の動体視力と反射神経を持ってすれば、素人の拳を受け止めるくらい簡単なことだろう。


「このっ、ナメやがって!」


「誰だって、痛い目見るのは嫌に決まっているではありませんか。確認は済みましたよね。返して貰いますよ俺の財布」


 いつの間にか、殴りかかったスケバンの左手にあった筈の悠人の財布は彼の手に取られ、そのまま去ろうとする。


 しかし、仲間のスケバンが易々とのがす筈も無く――


「逃げられると思ってんのか、あぁン!?」


「上級生相手にナメた真似してんじゃねぇぞ、コラァ!」


 ぞろぞろと残りの二人の連中が悠人の前に立ち塞がった。


 面倒臭いことに巻き込まれてしまったものだと、悠人がどうしようもなく困っていた、その時である。


「こいつはナンの騒ぎだ!」


 立ち塞がるスケバン二人の後ろから姿を現した一人の人物。


「あッ……、これは噛月かみつきあねサン!すいませン、この一年がナメた真似したものですから」


 奴はこのスケバン達のリーダーなのか?


 姐サンと呼ばれたその人物の前で三人のスケバンは、次々にすいません、すいませんと頭を下げ始めた。


 布都部高校の制服の上から学校ジャージを改造して出来た特攻服のようなものを羽織はおった、紫メッシュのローポニーテールヘアー少女。


 改造ジャージ特攻服の裏には【不目吊】という謎の文字が刺繍されていて、これはいわゆるヤンキー漢字という独特な漢字の羅列からなる文字だろうか?


「……そうか、ウチの妹分が世話になったみてェだな」


「えっ?いえ、自分は何も…………」


「オイゴラァ!誰が勝手に口出しして良いと言ッたよ、おめぇ?こッちはてめぇの意見なんざ聞いてねェんだよ。

 御託ごたくはいらねェ!妹分の落とし前はきっちりつけさせてもらおうじゃあねェの!

 チーム【不目吊ふめつ】のメンツをおめぇのような一年坊主なんぞに潰されてしまッては、こいつらのリーダーをやッてるアタイとしちゃあ気に食わねェ話だ。

 だからこの噛月朱音かみつきあかね直々に、おめぇのことをビシバシ指導してやッからよォォ!ここから生きて帰れるとでも思わねェことだなァッ!」


 するとその姐サン-噛月朱音とやらの少女の瞳が光り出す。


「まさかそんな……何かの冗談、ですよね…………」


 これを見て冗談である筈も無く……明らかに普通の人には起こり得ない現象が、確かに広がっているのが目に見えていた。


 そう、タイマンと言う名の神眼狩りが今ここにッ、その火蓋が切って落とされるのであった!?

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