⒋ 姉弟(5) 祢世不観音
「
辺りが真っ暗闇に包まれている中――、何者かの声だけが鮮明に聞こえてくる。
知らぬ者の声である。
姉の斬月を
乱月は声に釣られるがまま、ゆっくりとその暗闇に光が差し込む。
目を開けて視界がはっきりすると、第一に目に映ったものは、謎の白い空間に
耳の下で髪を左側のみ結った片っぽだけのお下げ髪に、ヘアムに良く似た容姿。
左目を覆い被さるように
……いや、これは纏っていると言って良いのだろうか?
衣服と身体との境目が見当たらない………まさか服を着ているように見えてあれは全裸……なのか⁉︎
とにかくそれも問題だが、突如として迷い込んだこの何もないクリアな世界は一体
それに、目の前にいるこの少女は一体…………?
「……知らぬ地………
それもその筈。
彼女の意識があの世で目覚めたのは、ついさっきのことだからである。
目覚めたばかりで言葉がおぼつかないことは、人間一度や二度経験したことあるだろう。
まさにその現象が彼女の言葉を鈍らせていた。
だがそれでも言っていることは伝わったようで、目の前の少女が口を開く。
「
はてや
「常世?神?
否定的な彼女。
そこで、彼女は言った。
「
「
「
少女は右手の人差し指をちょいと上に立てると、そのタイミングで乱月の身体は宙を舞い、どんどん高く上昇していった。
「ほほぅ、
「何を申して………きゃあああああああぁぁぁ―――ッ!」
動きやすさを重視した忍装束。それは地域によっても多少異なったりするもので、あるところは全身暗めの布で覆われた格好――、またあるところは忍道具の出し入れに優れた収納機能が豊富なものだったりと、実は一貫した決まりが無いのが忍装束の一つの特徴だったりする。
乱月が生まれ育った里での生活は朝に農民を装い畑仕事をし、午後には主に男性は武器作りや手入れに
それ
上が半袖、下を短裙………現代で言うミニスカートに近しいスタイル、全体的に布地の少ないスポーティーな格好が取り入れられていた。
つまりは宙に浮かばされたことで、乱月の霊体としての格好-《生前最期の姿》、それすなわち、任務中に死んだ彼女は当然その格好をしていた訳であり………
今まさに、黒き短裙の内側に隠れた白き布が下から丸見えの状態であった。
「
「
羞恥のあまり、
「なにゆ
そう言って、奴は人差し指を下に向けると、乱月の身体はゆっくりと下ろされた。
地に足が付いた瞬間、ほっとして力が抜けたのか、へなへなと両足を崩しその間にお尻が地に付く、俗に言う女の子座りの姿勢で立てなくなってしまっていた。
影で《破壊活動》や《暗殺業》を
あのような恥じらう様子を見ると普段そんなことをしているとは思えないくらい、女の子としての可愛い一面があることを感じさせた。
「随分と
そうして自らを神と称する少女は、〈常世〉には大きく分けて二つ――【極楽】と【地獄】があり、ここがその
「は……はぁ………?聞きしにも過ぎて
と最後まで言い終える前に、乱月は慌てて………
「……
妙に必死な様子で言い掛けた言葉を訂正した。
相当、あれが恥ずかしかったのだろう。
乱月は言葉を選ぶように、神様を名乗るその少女にあることを問い掛けた。
「
「ほう、
憂へずとも此方より汝に手い出しなどせぬ。
「そ……そは…………」
いきなりの命の選択に迫られ、乱月はすんなりとそれに対する答えを口にすることが出来なかった。
生か死か、死んだ人間に一体なんの選択肢があると言うのか?
【
仮にも蘇生法を試すことで一体、私の身にどんな……いえ、死んでいると言うのなら《今の自分》という存在――、《魂》と称されるここに在る自我は元の肉体へと戻るものなのだろうか?
そうした不安と動転があれこれ頭の中で巡りに巡った結果――、乱月にはそんな自身の命より大切な人の命のことを考えてしまうのである。
「
「
そう言って神を名乗る少女は指をパチンと鳴らすと、乱月の目の前に一つの――、瞼を開いたような目の形をした映像を出現させた。
その中には、斬月が妹を失った怒りで次々と屋敷の人を殺めていく姿が映し出されていた。
「これまた
「姉者、お気を確かに。
「
「
そう言っていると、今まさにその瞬間が映し出されていた。
『……
その一言を最後に倒れた斬月。
「……ぁああ………ああああぁぁ…………姉者が………姉者がぁぁあああああああああぁぁぁぁ――――ッ!」
「泣き
「……
そんな都合の良い話があるのだろうかと、
「左様。
「
「然れど…………」
乱月の疑問が軽く流される中、神を名乗る少女はその一言を始まりに、さっきまでの上位の存在らしからぬ威厳無きキャラから一転。
真剣な顔して、目神ヘアムのような
「一つ
此処に二つの
そは命
然るもの
これにて神を名乗る少女による、長々とした復活方法の説明が終わった訳だが、当の乱月はそれを聞いていたのかいないのか、彼女の目線はスクリーンの方へと向いていた。
「汝、此の
我、決まったなりと思った矢先、乱月のその態度を前にすぐさま素に戻ってしまう、神名乗る少女。
彼女は神様としてのプライドを、多少なりとも傷付けられた気がして、勢いのままに乱月をもう一度宙に浮かせようと、人差し指を立てる動作を仕掛ける直前のことだった。
「……姉者……………」
スクリーンに映し出された斬月の姿を目にしながら、乱月は静かに姉に思いを募らせていた。
『……我………
それは丁度、斬月が生き返る道を決めた場面であった。
それを見ていた神を名乗る少女は、空気を読んで人差し指を静かに下ろし…………
「なんと……汝の姉者
代わりに、死者の案内人としてやるべきことを、乱月に今後の選択について迫り出た。
乱月は答えた。
「
そう言って、乱月は力強く立ち上がった。
「
神を名乗る少女は先程申し上げた乱月の言葉で引っ掛かる部分を質問する。
「
其れが姉者の
「
「
「
否、汝の
なれば、
「御心ばせに報謝す。……
報謝伝ふるに其の方の名知らずして示し付かず。名申し添ふるほど、
これまでとは打って変わって、真意に感謝する乱月。
「然ることなりや?
将又、我見知る
「
「
「心より報謝奉る。観音さ……いえ、目神ねせふ様」
こうして乱月もまた、姉に遅れて
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