⒋ 姉弟(4) 思い掛けない巡り合わせ

 それから斬月が神眼者プレイヤー探しに何処どこか適当に移動していた時のこと――


 何か小さな物が回転してこちらに向かってくるではないか。


 斬月は身軽にもバク転をとって、その物体から回避する。


「何者!」


 着地後、斬月はその物体が飛んできた方向へと振り向き、突然仕掛けてきた相手の存在を確かめようと声に出す。


 するとその声に反応した相手が勢いよく斬月に向かって飛び出し、その人物の手元でキラリと光るもの――


 一瞬でそれがであると視認した見破った彼女は、すぐに裏腰に備えた小刀を抜いて盾にした。


 ガチィンと鉄同士が勢いよくぶつかる音を鳴らし、斬月は対立する相手の顔を見た。


 そして彼女は驚愕きょうがくする。


「あ……あああ………そんな……生きているはずが……………」


「……強くなったね、………」


 斬月のことをそう呼ぶ人物は地球上でただ一人。


 相手の正体-それは生前最後の変わらぬ容姿をした妹の『乱月』であった。


 あの時から彼女がいつもしていた、今で言うツインテールヘアーをし、斬月と同じような三日月型のアクセサリーが付いたヘアゴムを二つ身に付けていた。


 だが斬月の三日月アクセサリーの色が黄色であることに対し、彼女の三日月アクセサリーはブラッドムーンのごと赤銅色しゃくどういろをしていた。


 赤黒く輝くことから血の色の月とも称されるその月の色は、まさに不吉な予感を感じさせた。


 服装は斬月とは違い、現代の人の外出服:NEMTDネムテッド-PCを身に纏い、全体カラーが黒、白のラインのシンプルデザインのトップス、逆に下に履いているミニスカートは全体カラーが白、黒のラインが入ったものを着用していた。


 動きやすさを重視した格好をしているあたり、まさに忍らしく思えた。


 これは現実?それとも夢?


 斬月は未だその思考が追いつかない様子。


 その様子を見かねた彼女は答える。


「そんな、化け物でも見たかのような反応を取らないでよ。私は乱月。正真正銘、姉さんの妹だよ。何か証拠はあるのかって?

 そうそう、お醤油に付けて食べる団子、好きだったよね。今も好きなのかな?

 昔から使っていたその小刀の名前だって覚えているよ。【孤月こげつ】だよね。そして――、私の持つこの小さき黒刀の名は【名月めいげつ】。

 相変わらず良く手入れがされているところ、似た者姉妹だね私たち。いくら姉さんが鈍感でも、流石にここまで言えば信じてくれるよね?」


「こ……こんなことって……………」


 彼女が言ったことは決してデタラメでは無い。


 全て真実だ。


 そんなことが現代において分かるとすれば、確かに彼女も長い時間生きてきたことに違いない。


 まさしく本人そのものだ。


 斬月はただ単純に驚くことしか反応が出来なかった。


 この世界でそれを知る者は自分以外にいない……その筈だったからだ。


 しかし、乱月が生きていたとなると一つ不信な点がある。


「乱月、貴女のことはリストに載っていなかった筈では…………」


 そう、例の《神眼者リスト》には乱月の情報が一切掲示されていないのだ。


 乱月は答える。


「そのことなんだけどね。内緒に隠蔽いんぺいさせてもらっていたんだよ。例の目神様にお願いしてね」


何故なぜそのようなことを………。それよりも乱月は神様とは一体どんな関係を………」


「落ち着いて、姉さん。これからゆっくり説明するから。

 まずは……そうそう。私が死んだ後に私の身に何が起こったのか、最初にそれを話すとするよ」


 そう言って、乱月はあの日のことを語り始めるのであった。

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