⒊ 武視(8) 鞘走りより口走り
「な、なんですか貴女は。その口振りからして
「お前は何が言いたいんだ?人をおちょくっているのか、そうでないのか。
頑張って挑発なんかしなくとも、自分の生存の為に貴女の目はこれから奪う気でいらしたから、逃げはしませんよ」
「えっと……挑発とかそんなつもりじゃなかったのですが、実は私も今日の分はまだ回収していませんでしたので、こちらとしても……丁度良かったです。
返り討ちにして上げますよ……って私なんかが、そんな舐めた口を
「だからその『私なんかが……』ってやつ、言わないと気が済まないのですか?」
「それは……私が……私のせいで妹があんな………うわぁぁああああああああああああぁぁぁぁぁ――――ッ!」
何か彼女にとって嫌なことを思い出させてしまったのか、突然狂ったように相手に襲い掛かる斬月。
「なんです?それは禁句でしたか?」
あの時見せた動きの鋭さはまるで無く、相手はそう言って斬月の突撃を簡単に
だがそれは身体をくねらして
「な、
「フフフフッ、私に近付くことは不可能なのですよ。空間を支配する私の力を前には………ね」
「だったら………」
今度は自分では無く、研いでいた手元の十字型手裏剣を奴のいる方へと放り投げ、人間以外も近付けないのか、それを確かめようとする斬月。
「無駄ですよ」
確実に狙って投げたのだが、
「近付けないのは人だけに限らないようですね」
「少しは冷静になったようですね。まあそれでも、私から目を奪うことなんて無理だとは思いますが………」
「無理かどうかは自分が決めることです!」
再び奴に向かって手裏剣を投げた斬月。
「だから何度やっても同じことですよ。このまま手も足も出ず、いずれ貴女の体力が底を突く。心も身体も
投げ飛ばした手裏剣はやはり奴に届くことなく、
が、それは想定の範囲内。
ここからが斬月の決め手であった。
もう一度投げた手裏剣に仕掛けられた、細くて丈夫な
腕に巻かれたマフラーと繋がっているその糸を
細すぎる
「馬鹿な!この私が……攻撃を受けただと…………ッ!」
切り裂かれた袖の奥に見えるは、細腕から
斬月の修正が甘かったのか、これは決して大きなダメージでは無いが、それでも可能性は開かれた。
だがこの攻撃方法では軌道修正を繰り返す内、手裏剣の回転力が低下してしまう。
そんなことでは決定打が与えられず、奴から目を奪うなんてことは到底不可能。
ならば、他の武器で攻撃を
斬月は神眼を開眼。
濃褐色の瞳から黄色い瞳へと変化する。
彼女の
黒丸型の瞳孔は三日月のような形へと変化し、斬月はその瞳に宿る力によって角膜から発せられるエネルギーを刃状にして放出した。
刃状のエネルギー波は一般に形として目で捉えることは出来ず、風を切るようなスッと静かな音だけがその場に響き渡る。
目に見えないエネルギー波ならぬエネルギー刃、これこそが斬月の目力:【
このように角膜に含有されている高密度のエネルギーは神眼によって違った反応を起こし、例えば【
悠人の【
今回の【
他にも未予の【
そうした働きによって作られた見えない刃は、NEMTD-PCごと奴のお腹を横一文字に切り付けた。
「ごはっ……な、何が起こって…………」
どうやら見えない攻撃は奴への有効打のようで、不可視な攻撃を受け
「………これならッ!」
効果的だと分かった斬月は、すかさず二、三発エネルギー刃を奴に飛ばす。
「ごっ……がはっ………」
奴の両肩に斬撃を与え、一気にカタを付けようと更にエネルギー刃を創り出そうとしたその時である。
「調子に乗るな!」
「なっ……、これは…………」
屋上の床の上に立っていた筈なのに、突如として身に起きる奇妙な浮遊感。
下を見れば床は無く、代わりに視界が捉えたのは波打つ青景色。
どういう訳か、斬月の足下には海が広がっていた。
重力のままに落下していく斬月の身体。
状況がいまいち理解出来ないが、すぐに持ち前の身体能力で水泳の飛込選手ばりに身体を回転させ体勢を整えると、そのまま両腕を前に伸ばして衝撃に備えた。
上空から勢いよく水面に打ち付けると共に、豪快な水しぶきを巻き上げる。
すぐに水面から顔を上げるとキョロキョロと周囲を見回し、へアムの手によって目を回収されないよう、慌てて
強い波に晒されながら、約二分程で海岸に上がると、犬のように頭を振って髪に付いた水分を飛ばし、手の平で顔に付いた水滴を軽く払い視界を確保すると、気付けば海辺に奴の姿があった。
「……不覚です。二度も立ち位置をズラされたというのに、相手の目力が
自身の立ち位置もズラすことが可能とは…………。こいつは厄介です」
「それは残念だったな。こちらは
「そんなハッタリは通用しない」
「なら、それを確かめて見るってのはどうだ?」
「出任せに決まっています」
斬月はエネルギー刃を奴に飛ばした。
「風を切るようなこの音。力を使いましたね。それでは答え合わせといきましょうか」
奴はその場でくるりとターンをすると、突然周囲に弾け飛ぶ砂利交じりの少し硬い海砂の嵐。
エネルギー刃を海砂がペイントし、見えなかった筈のそれを肉眼で捉えることが出来た。
「なっ……!」
「推測通り、やはり見えない何かを飛ばす攻撃だったようだな。だがこうして、肉眼で確認することが出来れば、私にはそんな攻撃通用しない」
言葉通りエネルギー刃は
「ま、まだだ。数で押し切れば………」
連続して打ち放つエネルギー刃の嵐。
「無駄なことよ」
奴はその場で何度か旋回すると海砂が周囲に吹き荒れ、飛ばした刃全てを砂色に色付けし、確認されたそれらは四方八方に飛び散った。
その内の何振りかが斬月の方へと襲い掛かると、彼女は慌ててそれらを全て躱した。
ここでふと、斬月は何かを感じた。
(妙です。刃の動きをズラすことが出来るのなら、
そうすれば回避だけでなく、そこから攻撃にも繋がる筈なのに………
そうしないのは、何か理由があってのこと………?
……いや待って。私や奴自身の立ち位置もズラせるってことは、加えて攻撃を敵に反射させるなんて器用なことが………コントロールが不可能なのだとしたら?
それに奴が言っていた空間を支配って言葉も引っ掛かる。……空間………ズラす……何となくだけど、奴の能力って……………)
斬月は腕に巻かれたマフラーに引っ掛けられた手裏剣を一つ手に取ると、それを砂浜に深く突き刺し、
砂浜に円を描き残すと、それから勢いよく奴の方へと駆けて行った彼女。
当たり前のように立ち位置をズラされる三日月斬月。
彼女はすぐに
「突き刺した手裏剣は……円の中ということは位置がズレていない。やはり、そういうことでしたか」
奴の能力について何かを確信した様子の斬月。
「貴女の目力は空間を
それも効果範囲があって、
砂が舞い上がったあの現象は、空間を歪めた際に一緒に巻き込んだ。そうですよね?」
「まさかっ!さっきのあれは、それを確かめる為の目印…………ッ!」
「
瞬間、彼女はある動きに出た。
砂浜という足場の悪さをものともせず、彼女の高い身体能力が火を吹き、常識外れの
激しい回転動作によって砂浜に刺さっていた手裏剣が
奴は反射的に自身の目力で空間を歪ませ、適当なところへと手裏剣は移動された。
すると、どうだろうか。
横回転ジャンプによって浮遊状態にいた斬月は流れるままに、一時的に空間の歪みに
手裏剣を
「……利用してやることだって出来ますっ!」
回転した状態から裏腰に備えた小刀を抜くと、そのまま奴の左側の
落下地点を予測し、小刀の持っていない左手を前に広げると、引っ剥がした眼球を見事にキャッチした。
「くっ……、前言撤回だ。お前を強敵と見なし、ここは退散させてもらう」
「待て!」
奴は慌てて目力を使い、視覚的に掴める最大の距離感まで空間を歪めると、自らそれに近付いてあっという間に立ち位置を大きくズラし――
斬月も追い掛けるようにその歪みに突っ込むと、奴との入り込んだ差が一瞬違っただけで、彼女は奴の飛んだ先とは別の異なる地点に飛ばされ、おかげでその差は大きく開かれ
それは奴が自身を海辺へと移動させた際に使った技であり、一度ビルの天井から真下を
そこから目の前に見える砂浜までの距離を掴み、ランダムではあるが奴はその力の応用で
そう、藤咲芽目が使う【
言わずもなが、奴の使うその力は【
そんな奴の神眼を一つ回収した斬月は彼女のことを追い掛けるのをやめ、静かに回収要請をするのだった。
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◼︎能力解説◻︎
目力:【
使用者の目にしか認識出来ない不可視な三日月状の刃を飛ばし、操る異能
刃の進行方向は瞳孔の動きで変化を付けることも可能
監修:M.K.
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