⒉ 真目(3) 隠し事

「あんなに人懐ひとなつっこかった子がそんな風に………」


 紫乃の会話が終わり、それを聞いていた悠人はそうつぶやいた。


「ってか、お前あの学校でぼっちだったのか。今までそんなこと、俺に相談もしてこなかったじゃんか。

 そんなんじゃあ、学校行ってもつまらないんじゃ………」


「心配しすぎだよ、兄さん。私なら大丈夫。良い先生もいることだし」


「そ、そうか?お前が大丈夫って言うのなら、良いけれど………でも、本当に辛い時は俺に話すんだぞ、良いな!」


「うんっ!兄さん!」


 万が一には話をしてくれると約束したところで、今度は彼女の会話の中で疑問に思ったことを話した。


「そういや………麻結まゆちゃんが言っていたっていう、『平和ボケした奴ら』ってどう言うことだ?」


「それは………」


 実は紫乃が言った会話には、悠人にげていなかった続きがあった。


「――じゃあまた明日ね、紫乃ちゃん」


「うん、また明日」


 そう言って、立ち去ろうとする紫乃。


 だが、その歩みも田所麻結たどころまゆが言ったこの一言で止まることとなる。


「《ピヤー ドゥ ウイユ》でもよろしくね」


「えっ?」


「そこまで言えば分かるでしょう。あいつらを平和ボケした奴らって言った訳が」


「まさか、麻結ちゃん………」


「いつまでもとぼけないでくれる、紫乃ちゃん?」


「兄さんには私のこと、言わないで!」


「えっ?あれっていつでもリストから確認出来るんじゃ………――ああ、理解したわ。要するに今の時点では、上手いこと隠せているって訳ね。そうねぇ、どうしようかな~」


「兄さんには迷惑めいわくをかけたくないの。だから駄目だめと言ったら、親友でも殺さヤらなくちゃいけなくなる。

 出来ればそんなこと、したくない。だから…………」


「じゃあ、そうしようかな」


「なんでそんなこと………」


「決まっているじゃない。親友として一日でも早く、あのふざけたゲームから解放かいほうして上げようと、紫乃ちゃんを殺してヤってやるのが一番の手段だと私は思うの」


「麻結ちゃんと手を組むことは出来ないの?」


「互いが救われ続けていけたところで、《ピヤー ドゥ ウイユ》はいつ終わるかも分からない地獄のゲーム。そんな困難こんなんかかえながら生き続けたところで、なんの解決かいけつにもなりやしない」


「それでもねばり続けていれば、いつかは………」


「確信のないことをねがっていたところで、それは正しい救いにはならない。だからこそ紫乃ちゃんを殺してヤってあげるのが親友としてのつとめよ」


「そんなのって………」


 キーンコーンカーンコーン


 ここで昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴りひびいた。


「話の内容はあれだけど、久しぶりにおしゃべり出来て嬉しかったわ。またね、紫乃ちゃん」


 こうして二人の昼休みは終わり、それが今日の出来事の全てであった。


「……おい、大丈夫か紫乃。何をボーっとしているんだ」


 彼のその言葉で、紫乃は慌ててわれに返った。


「ご、ごめん兄さん。それでなんの話だったっけ?」


「ほんと大丈夫か、お前。だから平和ボケした奴らってなんのことかって話だよ」


「あ~、それはね………私にも分かんないや」


「分からないなら、始めからそう言えば良いだろう」


「そ、そうだよね。あははは………」


 紫乃は本当のことを話さず、そのまま時間だけが過ぎていくのであった。

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